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向こう側
しおりを挟む「……」
「おっはよー修ちゃん♪ もう勝手にどっか行ったらダメだからね? ってどしたの?」
「ん、いや何でもない。行くか」
カイザードラゴンのスメラギ(でいいらしい)と話をした翌日、俺はもやもやした気持ちを抱えたまま真理愛と共に学校へ行く。カバンは学校に置きっぱなしなので手ぶらである。
それよりもスメラギとの話だ……
◆ ◇ ◆
「陛下が別世界の侵攻を企てたってのか!? そんなことがあるわけが無い!」
<しかし、今の状況をどう考える? お前を我ら竜達の討伐に向かわせたのは誰だ? 我は我らが死んだあとことを知っている。その結果、先ほどのふたりぐみだ。行方不明事件に関わっているのは間違いあるまい>
「う……し、しかし……」
<しかしもお菓子もない。我らを倒し世界を救え……それそのものが間違っているのだ、我らはそんなことを思っていない>
「なら、魔物が増えていたのはどういうことだ?」
<魔王、という存在は知っているか? アレが復活をしようとしていたというのが有力だな。あの時点では本体はまだで、影か力だけが影響していたような感じだ>
魔王……俺達が向こうの世界に居たころ、確かにそういう話をきいたことがある。だけど、おとぎ話レベルで2000年以上前に現れたとかそういう話だったはずだ。
「で、でも、なんでこっちの世界に……」
<分かりやすいのは万が一を考えてのことだろう。魔王に対抗できない場合、こっちの世界に逃げることを考えたのではないか?>
「……魔王復活……そんな素振りは無かったのに……それに聖剣もある、お前達を倒すより魔王を倒す方がいいんじゃ……」
<必ずしもそうではないと思うぞ。魔王はいつ復活するか分からん上に、強さも未知数。もしお前が戦えたとしても、老いていたら難しかろう? そして現にお前は我と相打ちになり死んだ。あの爆発で聖剣も無くなっただろう>
そう言われて俺は言葉に詰まる。
スメラギが言っていることが合っているなら、俺という勇者の存在と、聖剣が無くなった国が魔王の対抗策を失い、焦ってこの世界に道を作ることを強行したとしてもおかしくはない、か……
<他国とのこともある。特に帝国は戦争を仕掛けてくるようなところだったろう>
「確かに……」
イブライザ帝国。
一つの大陸を支配しているとても大きな強国で、その大陸の国は帝国に屈しているらしい。俺達の国は幸い海の向こうだったから戦争にすらなっていないが、アレと戦うには俺達の大陸全部を結集しなければ倒すのは難しい。聖剣があるから攻めてこないというのも噂ではあったけど、もしかして?
「帝国に攻められたか?」
<ありそうな話だとは思うがな。明日は朝からお嬢を探しに出るぞ。お前はどうする?>
スメラギは話を切り上げて布団の上で丸まると、八塚を探しに行くと公言した。しかし俺は、
「流石に学校を休むわけにはいかないし、学校へ行ってくるよ。何か分かったら教えてくれるか?」
<わかった。お前が居なければ何かあった時助けられんからな……>
最強のドラゴンが情けないことを言いながら尻尾をぱたぱたさせてると、俺の部屋がノックされた。
「兄ちゃん、スメラギさんをモフらせてください!」
「何故敬語で……別にいいぞ」
<こら、我を無視して――>
「わーい! よーし真理愛ちゃんには悪いけど、今日は一緒に寝るよー♪」
「ぶにゃあ!?」
「おー、朝には解放してくれよ」
◆ ◇ ◆
――という訳でスメラギは結愛に拉致されるのだった。
……じゃなくて、向こうの世界はかなりやばいことになっている可能性が高いってことだ。
「……陛下がこんなことを企むとは……」
「製菓? 修ちゃんお菓子持ってるの!」
「違う!? ……いくぞ」
「あ、待ってよー! お菓子ー」
真理愛を置いて俺はすたすたと歩いていく。
俺はもうこっちの人間だ、今更向こうの世界のことを気にしても仕方がない。誰も俺のことなど覚えていないだろうし、どうなっていても手助けすることはできないのだから。
――それでも、この胸のもやもやは学校についてからも晴れることは無かった。
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