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居てはならないもの

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 「小僧ぉ!」
 「激昂して近接を挑んでくる、愚の骨頂だな! 得体のしれない相手には様子見を、だったなミモリ!」
 「馬鹿な!? ぶは!?」
 
 姿勢を相手の腰より下にしてやり過ごし、体当たりをすると簡単にたたらを踏む男。そのまま身を起こし全力で殴りつけると、反対側の壁まで吹っ飛んで鈍い音がした。

 「なんだこいつは……!? こっちの子供がここまで強いなんて聞いてないぞ! <災いの――>」
 「魔法ってのはこう使うんだ<トーチ>」
 「眩し……!?」
 
 相方がやられ、焦って大技を使おうとした男に俺は目の前で明かりを出す魔法を発動する。この薄暗い場所でいきなりやられたら目がくらむのは必死。
 もちろん俺は発動時に目を瞑っているので影響はない。一気に制圧するかと目を開けたところで、スメラギが襲い掛かっていくのが見えた。

 <はあああ! お嬢はどこだ! さっきの場所には居らんかったであろう!>
 「何だこの猫!?」
 「ナイスだスメラギ! どおりゃぁぁぁぁ!!」
 「ぐぎゃ!?」

 武器を持った相手に手加減できるほど人間できちゃいないので、剣を叩き落とし、容赦なく利き腕を曲がってはいけない方向へ曲げてへし折ると、絶叫を上げながら膝をつく。

 「……こいつはもういいだろう、向こうのやつを連れてくる」
 <承知した>

 剣は関係ないところへ放置し、脂汗を流している男の下へ戻り尋問を始める。

 「で、お前らは何者だ? 魔法を使うってことはこっちの世界の人間じゃないのは分かっている。正直に話さないともう一方の腕も同じ目を辿ることになるが……」
 「う、ぐ……」
 <だんまりか、刺客としては優秀だな。貴様等、‟プラティヌス”の人間だな? 我らが倒れた今‟儀式”完了させたのだろう。さて、今更そこに興味はない。質問を変えよう、八塚怜という女を攫ったのは貴様等か?>
 「いや、結構興味ある話だけど!? なに儀式って!?」
 <やかましい。後で話してやるから今は――>

 俺とスメラギが問答を始めた瞬間、男達の体が急に揺らめきだした。

 「おのれ……む、丁度時間か、助かる……ここは撤退するしかないか……」
 「転移!? 待て……!」
 
 この空間が歪む気持ち悪い感覚には覚えがあり、瞬時に転移魔法だと判断し掴みかかろうとする。だが、一瞬遅く、パーカーのフードを払うだけであった。

 「……チッ……覚えて俺よ小僧!」
 「……!?」

 フードを取ったその顔を見て俺は冷や汗をかく。瞬間、男たちの姿は何も無かったかのように掻き消えた……

 <逃がしたか……お嬢を探さねば、行くぞシュウ>
 
 スメラギが駆け出そうとしたので、慌てて首根っこを掴み持ち上げ、正面に向かせて話す。

 「待て待て! 上に居る人達を何とかするのが先だ! ……八塚は気になるけど、放ってはおけないだろ。それに、話たいこともあるしな」
 <何を言うか、お嬢が居なければ我のご飯はどうなる。また野良生活に逆戻りなど嫌だぞ>
 「保身!? と、とりあえず行くぞ」
 <むう>

 不満気な声を上げるスメラギを掴んでまた13階へと向かう。エレベーターはまた停止しており、使えなかった。慎重に歩を進め、他に仲間が居ないかどうかを確認する。気配はないので大丈夫かと、先ほど人が倒れていた部屋へと入る。

 「あ、この人一週間前に消えたってテレビで見たぞ!?」
 <ふむ、生命力をかなり吸い取られているがまだ生きているようだな>
 「何で生命力を……? い、いや、それより警察に連絡だ!」

 俺は慌ててスマホを取り出して警察へ連絡。
 逃げようかと思ったが、それはそれで後から問題になりそうだったので残り事情を話すことにした。

 「――なるほど、友達の猫を追って廃墟に……うーん、行方不明者が見つかったのはいいことではあるけど、ここに立ち入ったのはダメだなあ」
 「悪いとは思ってる。けど、この猫の飼い主も行方不明でさ、心配で追いかけたんだ。八塚って女の子なんだけど」
 「八塚コーポレーションのお嬢さん、か。確かに……あ、お疲れ様です」
 「その子が?」
 「はい。抱いているのは八塚さんの飼い猫だそうです」
 「分かった。後は俺がやるよ」

 制服を着た警官が俺との話を切って、敬礼をして去っていくとスーツを着た男が俺に目を向け、口元を緩ませながら話し出す。

 「俺は若杉 圭。この小此木町で起きている失踪事件を担当している刑事だ。偶然とはいえ、よくやってくれた。ま、立ち入り禁止になっているところに入ったのは良くないけど、男の子はそれくらい元気なもんだ、俺も似たようなことはしていたしな」
 「はは、そう言ってもらえると……俺はいつ帰れますかね? もう下校時刻は過ぎたし両親も心配するので」
 「もう少し話を聞きたい、すまないが付き合ってくれ。ご両親は呼んであるから迎えついでに、ね」

 そう言ってウインクする若杉刑事に、俺は冷や汗を流しながら曖昧に頷くのだった。親父と母ちゃんにバレたとなると……恐ろしいことにしかならない……
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