上 下
18 / 44

第18話 竜、朝から忙しく働く

しおりを挟む
「ふあ……」
「あーうー♪」
「おお、もう起きていたか。早いのう」

 まだ陽も登っていない早朝に、ディランが起きると、隣に置いているリヒトのベッドから声が聞こえて来た。
 覗き込むとリヒトがすでに目を覚ましていて手を伸ばしていた。
 ディランが抱っこをすると、髭に手を伸ばして感触を確かめる。

「なんかフワフワしたものが好きじゃのう。男の子じゃし、大きくなったら鍛えてやらんといかんか」
「あー♪」

 そんなディランの気持ちをよそに、顎髭を嬉しそうに触るリヒト。そのまま抱っこしてリビングへ向かうとすでに起きて食事の用意をしていたトワイトと鉢合わせた。

「おはようさん」
「おはようございます、あなた。リヒトも」
「うー♪」

 すっかり母親として認識しているため、トワイトが頬を撫でるとリヒトは満面の笑みで応える。

「こけっこー」
「あー♪」

 丁度その時、ジェニファーが隣接している小屋で朝の挨拶を告げた。リヒトはその声を聞いて大喜び。

「あやつも目覚めたか。卵を採ってくるかの」
「お願いしますね。リヒトは預かりましょうか?」
「このまま連れていくわい」
「うふふ」

 リヒトに構うディランを見てトワイトは微笑んでいた。手を振って見送り、彼女はキッチンへ。
 外に出たディランはリヒトに毛布をかけてから小屋の入り口を開けた。

「ジェニファー、起きておるか」
「こけ? こけー」

 来たんですねと言わんばかりに鳴いて、藁を組んで作った寝床からぴょんと飛び降りると卵を差し出した。

「三個も生んだとは元気じゃのう。どれ、すまんがいただくぞ」
「こけ」
「あーう」
「こけ♪」

 少し低い位置にあるためディランが腰を下げて卵を手に取る。屈んだところで目線がジェニファーと同じになりリヒトが手を伸ばした。彼女は背中を差し出すと、父と母がやるように背中を優しく撫でる。

「ひよこ達はまだ寝ておるな。起きたら食事にするから来るのじゃぞ」
「こけっ!」
「あーう」
「また後でな」

 ディランが立ち上がりリヒトの手からジェニファーが離れてしまい、リヒトは不満気に声を上げた。
 しかし、朝食の卵を届けるためディランは背中を撫でてやりながら小屋を後にする。
 ちなみに魔物にとってニワトリやひよこは美味しい餌だが、ディランとトワイトの気配があるため、この家屋周辺約一キロは何者も近寄ってこなかったりする。

「今日は三つじゃった」
「あら、元気ですねえ。一つは保存しておきましょうか」
「そうじゃな。ではリヒトを頼む。ミルクを取ってくる」
「ゆっくりしていていいのに」
「妻が働いておるのに座っておるのは居心地が悪いからのう」

 トワイトへ二つ卵を渡し、リヒトも受け渡すとディランはそのまま裏の洞穴へ。
 ひんやりとした箱の中に卵を入れ、小分けにしたミルクを取り出したらすぐに部屋へと戻る。

「今日は天気が悪いわい」
「そうですね。ミルクを温めてきますよ」
「頼む」

 ディランはトワイトにミルクを渡すと、暖炉に火をつけた。あっという間にリビングが暖かくなると、小さい影が集まってくる。

「ぴー」
「ぴよ」
「ぴよぴ」
「おお、起きてきたか」

 やはり暖炉に柵は必要かと思いながらひよこ達の暖を見守っていた。
 しばらくするとミルクを持ってトワイトとリヒトが戻ってくる。

「先にリヒトにミルクをあげますよ。またおねむみたい」
「うむ。ほらジェニファー達、飯にするぞ」
「あーい♪」
「こーけ」

 ディランはその間にペット達の食事であるトウモロコシを用意することにした。
 リヒトはというとぬるめのミルクをスプーンで口に運んでやり、むきゅもきゅとどんどん飲んでいく。
 そしてリヒトがコップに入っていたミルクを全部飲んだところで、トワイトが背中を軽く叩く。

「げふー」
「はい、げっぷもでましたね♪」
「あー……」

 お腹いっぱいになるとまたウトウトし始めたので、ベッドへ寝かすとそのまま目を閉じた。

「こけ!」
「ぴよ!」
「ぴよぴよ!」
「ぴよー!」
「焦らんでも無くなりゃせんぞ……」
「私達も食事にしましょう」

 戦争のような食事風景に呆れつつ、ディランはテーブルについた。ご飯と目玉焼きにオニオンスープ、それとタスクボアを燻製にした肉を少し。
 
「そういえば今日は商人さんが村へ来るかもと言っていましたね」
「そうじゃったっけ? なら行ってみるかのう。野菜もいい感じに育ったから土産に持っていこう。リーフドラゴンの爪垢は凄いもんじゃ」
「今度、フラウさんにあったらお礼をいっておかないといけませんねえ。今日はお野菜にして、お布団はまた今度持っていきましょうか」

 リーフドラゴンのフラウに感謝しながら二人は食事を続ける。とはいえそれほど大食いでもない二人の食事は早く、村へ行くための準備を進め始めた。

「こけー?」
「村に行くが、お主達も行くか?」
「ぴよ?」
「もちろんリヒトも行くぞい」
「ぴっ!」

 なら自分たちも行くとリビングに置いてあるバッグをひよこ三羽が引きずって来た。
 行きは一緒に歩くが、帰りは登りなのでこのバッグに入れて連れて帰るようにしようとトワイトが作ったのである。
 そして畑に行き野菜を収穫するため籠を持って外へ出ていくディラン。

「うむ、いい感じじゃ。トマトとナス、キャベツあたりを十個ずつ持っていけばよかろうか?」
「こけ」
「トウモロコシもか? お前達が食うんじゃないかと思ったが……」
「ぴよぴよ」

 お土産は多めにとでも言いたげにペット達はこくこくと頷いていた。
 そんな調子で準備も終わり、少し天気の悪い中、一家は村を目指して歩き出す。
 
しおりを挟む
感想 73

あなたにおすすめの小説

何度も死に戻りで助けてあげたのに、全く気付かない姉にパーティーを追い出された 〜いろいろ勘違いしていますけど、後悔した時にはもう手遅れです〜

超高校級の小説家
ファンタジー
武門で名を馳せるシリウス男爵家の四女クロエ・シリウスは妾腹の子としてプロキオン公国で生まれました。 クロエが生まれた時にクロエの母はシリウス男爵家を追い出され、シリウス男爵のわずかな支援と母の稼ぎを頼りに母子二人で静かに暮らしていました。 しかし、クロエが12歳の時に母が亡くなり、生前の母の頼みでクロエはシリウス男爵家に引き取られることになりました。 クロエは正妻と三人の姉から酷い嫌がらせを受けますが、行き場のないクロエは使用人同然の生活を受け入れます。 クロエが15歳になった時、転機が訪れます。 プロキオン大公国で最近見つかった地下迷宮から降りかかった呪いで、公子が深い眠りに落ちて目覚めなくなってしまいました。 焦ったプロキオン大公は領地の貴族にお触れを出したのです。 『迷宮の謎を解き明かし公子を救った者には、莫大な謝礼と令嬢に公子との婚約を約束する』 そこそこの戦闘の素質があるクロエの三人の姉もクロエを巻き込んで手探りで迷宮の探索を始めました。 最初はなかなか上手くいきませんでしたが、根気よく探索を続けるうちにクロエ達は次第に頭角を現し始め、迷宮の到達階層1位のパーティーにまで上り詰めました。 しかし、三人の姉はその日のうちにクロエをパーティーから追い出したのです。 自分達の成功が、クロエに発現したとんでもないユニークスキルのおかげだとは知りもせずに。

思わず呆れる婚約破棄

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。 だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。 余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。 ……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。 よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

お姉さまに挑むなんて、あなた正気でいらっしゃるの?

中崎実
ファンタジー
若き伯爵家当主リオネーラには、異母妹が二人いる。 殊にかわいがっている末妹で気鋭の若手画家・リファと、市中で生きるしっかり者のサーラだ。 入り婿だったのに母を裏切って庶子を作った父や、母の死後に父の正妻に収まった継母とは仲良くする気もないが、妹たちとはうまくやっている。 そんな日々の中、暗愚な父が連れてきた自称「婚約者」が突然、『婚約破棄』を申し出てきたが…… ※第2章の投稿開始後にタイトル変更の予定です ※カクヨムにも同タイトル作品を掲載しています(アルファポリスでの公開は数時間~半日ほど早めです)

宝箱の中のキラキラ ~悪役令嬢に仕立て上げられそうだけど回避します~

よーこ
ファンタジー
婚約者が男爵家の庶子に篭絡されていることには、前々から気付いていた伯爵令嬢マリアーナ。 しかもなぜか、やってもいない「マリアーナが嫉妬で男爵令嬢をイジメている」との噂が学園中に広まっている。 なんとかしなければならない、婚約者との関係も見直すべきかも、とマリアーナは思っていた。 そしたら婚約者がタイミングよく”あること”をやらかしてくれた。 この機会を逃す手はない! ということで、マリアーナが友人たちの力を借りて婚約者と男爵令嬢にやり返し、幸せを手に入れるお話。 よくある断罪劇からの反撃です。

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

処理中です...