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第15話 竜、たまに火を吐く
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「いやあ、残念じゃったのう」
「でも楽しかったわ。ねえ、リヒト」
「うー♪」
夕方。
釣りに出ていた一家が大物は逃してしまったが楽しかったと川から引きあげているところだった。
大きな魚が一度かかったのだが、釣り竿として使っていた適当な木の棒はあえなく折れてしまいゲットとはいかなかった。
それでも二人が食べる分はしっかり釣っており、食卓が賑やかになると足取りは軽い。
リヒトは相変わらず気に入っている紐のついた棒を振り回し、初めて見るであろう魚にご機嫌であった。
「もうちょっと怖がると思ったんですけどね」
「息子のハバラは小さいころお前にべったりじゃったものなあ」
すでに成竜となりどこかで暮らしているであろう息子のことを思いながらしみじみと懐かしむディラン。
「やっぱり小さい子は可愛いですからね。ハバラはすぐに親離れしたから少し寂しかったですね。この子もきっとすぐ大きくなるでしょう」
「だー♪」
トワイトが頬をすり寄せるとリヒトは嬉しそうに声を上げた。背中をとんとんと優しく叩きながら話を続ける。
「まだ首がすわらないわ。本当に産まれてすぐ捨てられたみたい」
「ふむ。一体なぜ捨てられたんじゃろうのう。人間は酷いことをするわい」
「きゃっきゃ♪」
「ぴよー!」
ディランも歩きながらリヒトの頬を軽く押すと、手を振り回しておおはしゃぎだ。
あまりにも楽しそうなので、自分たちも遊ぶと足元のひよこ達がぴよぴよ鳴いていた。
「まあまあ。村の方はいい人ばかりでしたし、ザミールさんでしたかしら? 商人さんも誠実そうでしたよ」
「まあな。亡き者にするには魔物の餌が一番じゃが……ワシならどんなに貧しくても子は捨てんわい。……さて、ワシは風呂の準備をしてくるから婆さんは飯を頼むぞい」
「ええ。ジェニファー、トコト、レイタ、ソオン。リヒトをお願いね」
「こけ!」
「「「ぴー!」」」
やがて家に到着した一家は、 夜の用意を始める。トワイトが食事、ディランが風呂の準備である。
トワイトが魚籠をディランから預かり家の中へ入る。リヒトをベッドに寝かせると、ペット達がベッドに集まった。
ジェニファーだけはベッドに乗れないのでソファに鎮座し、様子を見守る形だ。
トワイトが魚を捌きにキッチンへ行ったころ、ディランが別に作っている風呂の小屋に灯りをつけた。
「川の水を引いておるから楽でええのう」
家の近くを流れるように水路を掘っているため水に困ることが無い。
そんなこの家の風呂は身体の大きなディランでも入れるように比較的大きく作られていて、湯舟の下に薪を入れて温めるタイプの風呂だ。
毎日拾ってくる薪をセットすると、ディランは口から炎を吐いた。
「ふっ!」
ドラゴンなので火炎を吐くための袋が体内に備わっている。ここは人間と違うところだが便利である。
一瞬で火が付いた薪はすぐに赤くなり、暖かくなっていく。
「これでよかろう。婆さんの飯の準備ができたらリヒトと入ってもらおう」
ちなみに風呂桶はカッパードラゴンの鱗でできており、金属のような質感と熱を通しやすい素材でできている。
こういった風呂に浸かる時、人間はは木の板を敷くのだが、ドラゴンの二人は熱に強いので必要無かったりする。
「風呂の前におしめを変えてやろうかの」
「あなた、ありがとうございます」
一旦リビングに戻って来たディランはリヒトを抱き上げておしめを変える。
「ふむ。きちんと出しておるな。お腹の調子は良さそうじゃ」
「あーうー」
「おっと、暖炉をつけておらんかったか。すまんすまん」
下半身が露わになると、リヒトがぶるりと震えて声を上げた。そういえばとディランは暖炉に火を吐いて着火した。
「ぴよー」
「あまり近づくと燃えるぞい」
暖かいところが好きなひよこ達が暖炉に集まる。柵をつけた方がいいか? とディランはちょっと心配していた。
「あー! あーうー!」
「なんじゃ、お前もあそこがいいのか?」
「うー♪」
おしめを変えるとまたすっかり元気になるリヒト。そしてひよこ達が暖炉に集まっているのを見て自分もと腕を振り回していた。
ディランはやれやれと苦笑しながらリヒトを膝に置いて腕を枕にし、暖炉の前へ。
「ぴよ?」
「ぴー」
するとひよこ達がディランの膝に登って鎮座した。それが楽しいのかリヒトはずっときゃっきゃとしている。
「ご飯、できましたよ。お風呂行きましょうか。あら、賑やかでいいですね♪」
「身動きが取れんわい。先に入ってくれ」
「わかりました。それじゃ行くわよリヒト」
「あー」
「ぴよー」
トワイトがリヒトを受け取り、そのままお風呂へ。するとひよこ達はさっさとディランの膝から降りてついていった。
「……なんと薄情な奴等じゃて」
「こけ」
すると残ったジェニファーがディランの膝に乗って一声鳴いた。彼は複雑な顔をしながら背中を撫でた。
そんなディランをよそにトワイトとリヒトはお風呂へ。
おしりをきれいにふき取ったあと、湯加減を確かめてから湯舟へ浸かる。
「ふー……」
「あー……」
意外、とも言えるがリヒトはお風呂も怖がらない。トワイトがいつも抱っこしているから安心感があるのだろう。
それともう一つ。
「あなた達も入るかしら?」
「「「ぴよ」」」
トワイトが桶に少しだけ湯を入れて縁へ置くと、そこにひよこ達が飛び込んでいく。おしりがちょっと浸かるくらいしか入っていないので溺れることはない。
その桶がゆらゆらと湯舟をゆっくり動いていく。
「あー! ううーあ♪」
「はいはい、可愛いわねえ」
この桶に入って浮かぶひよこを見るとリヒトのテンションが爆上がりになる。なにが楽しいのかわからないが、リヒトはこのひよこの浮かぶ桶を大変気に入っていた。
そしてディランがこの後、一人で風呂に入る。ジェニファーはついてこなかった。
そんななんの変哲もない今日が終わるのだった。
「でも楽しかったわ。ねえ、リヒト」
「うー♪」
夕方。
釣りに出ていた一家が大物は逃してしまったが楽しかったと川から引きあげているところだった。
大きな魚が一度かかったのだが、釣り竿として使っていた適当な木の棒はあえなく折れてしまいゲットとはいかなかった。
それでも二人が食べる分はしっかり釣っており、食卓が賑やかになると足取りは軽い。
リヒトは相変わらず気に入っている紐のついた棒を振り回し、初めて見るであろう魚にご機嫌であった。
「もうちょっと怖がると思ったんですけどね」
「息子のハバラは小さいころお前にべったりじゃったものなあ」
すでに成竜となりどこかで暮らしているであろう息子のことを思いながらしみじみと懐かしむディラン。
「やっぱり小さい子は可愛いですからね。ハバラはすぐに親離れしたから少し寂しかったですね。この子もきっとすぐ大きくなるでしょう」
「だー♪」
トワイトが頬をすり寄せるとリヒトは嬉しそうに声を上げた。背中をとんとんと優しく叩きながら話を続ける。
「まだ首がすわらないわ。本当に産まれてすぐ捨てられたみたい」
「ふむ。一体なぜ捨てられたんじゃろうのう。人間は酷いことをするわい」
「きゃっきゃ♪」
「ぴよー!」
ディランも歩きながらリヒトの頬を軽く押すと、手を振り回しておおはしゃぎだ。
あまりにも楽しそうなので、自分たちも遊ぶと足元のひよこ達がぴよぴよ鳴いていた。
「まあまあ。村の方はいい人ばかりでしたし、ザミールさんでしたかしら? 商人さんも誠実そうでしたよ」
「まあな。亡き者にするには魔物の餌が一番じゃが……ワシならどんなに貧しくても子は捨てんわい。……さて、ワシは風呂の準備をしてくるから婆さんは飯を頼むぞい」
「ええ。ジェニファー、トコト、レイタ、ソオン。リヒトをお願いね」
「こけ!」
「「「ぴー!」」」
やがて家に到着した一家は、 夜の用意を始める。トワイトが食事、ディランが風呂の準備である。
トワイトが魚籠をディランから預かり家の中へ入る。リヒトをベッドに寝かせると、ペット達がベッドに集まった。
ジェニファーだけはベッドに乗れないのでソファに鎮座し、様子を見守る形だ。
トワイトが魚を捌きにキッチンへ行ったころ、ディランが別に作っている風呂の小屋に灯りをつけた。
「川の水を引いておるから楽でええのう」
家の近くを流れるように水路を掘っているため水に困ることが無い。
そんなこの家の風呂は身体の大きなディランでも入れるように比較的大きく作られていて、湯舟の下に薪を入れて温めるタイプの風呂だ。
毎日拾ってくる薪をセットすると、ディランは口から炎を吐いた。
「ふっ!」
ドラゴンなので火炎を吐くための袋が体内に備わっている。ここは人間と違うところだが便利である。
一瞬で火が付いた薪はすぐに赤くなり、暖かくなっていく。
「これでよかろう。婆さんの飯の準備ができたらリヒトと入ってもらおう」
ちなみに風呂桶はカッパードラゴンの鱗でできており、金属のような質感と熱を通しやすい素材でできている。
こういった風呂に浸かる時、人間はは木の板を敷くのだが、ドラゴンの二人は熱に強いので必要無かったりする。
「風呂の前におしめを変えてやろうかの」
「あなた、ありがとうございます」
一旦リビングに戻って来たディランはリヒトを抱き上げておしめを変える。
「ふむ。きちんと出しておるな。お腹の調子は良さそうじゃ」
「あーうー」
「おっと、暖炉をつけておらんかったか。すまんすまん」
下半身が露わになると、リヒトがぶるりと震えて声を上げた。そういえばとディランは暖炉に火を吐いて着火した。
「ぴよー」
「あまり近づくと燃えるぞい」
暖かいところが好きなひよこ達が暖炉に集まる。柵をつけた方がいいか? とディランはちょっと心配していた。
「あー! あーうー!」
「なんじゃ、お前もあそこがいいのか?」
「うー♪」
おしめを変えるとまたすっかり元気になるリヒト。そしてひよこ達が暖炉に集まっているのを見て自分もと腕を振り回していた。
ディランはやれやれと苦笑しながらリヒトを膝に置いて腕を枕にし、暖炉の前へ。
「ぴよ?」
「ぴー」
するとひよこ達がディランの膝に登って鎮座した。それが楽しいのかリヒトはずっときゃっきゃとしている。
「ご飯、できましたよ。お風呂行きましょうか。あら、賑やかでいいですね♪」
「身動きが取れんわい。先に入ってくれ」
「わかりました。それじゃ行くわよリヒト」
「あー」
「ぴよー」
トワイトがリヒトを受け取り、そのままお風呂へ。するとひよこ達はさっさとディランの膝から降りてついていった。
「……なんと薄情な奴等じゃて」
「こけ」
すると残ったジェニファーがディランの膝に乗って一声鳴いた。彼は複雑な顔をしながら背中を撫でた。
そんなディランをよそにトワイトとリヒトはお風呂へ。
おしりをきれいにふき取ったあと、湯加減を確かめてから湯舟へ浸かる。
「ふー……」
「あー……」
意外、とも言えるがリヒトはお風呂も怖がらない。トワイトがいつも抱っこしているから安心感があるのだろう。
それともう一つ。
「あなた達も入るかしら?」
「「「ぴよ」」」
トワイトが桶に少しだけ湯を入れて縁へ置くと、そこにひよこ達が飛び込んでいく。おしりがちょっと浸かるくらいしか入っていないので溺れることはない。
その桶がゆらゆらと湯舟をゆっくり動いていく。
「あー! ううーあ♪」
「はいはい、可愛いわねえ」
この桶に入って浮かぶひよこを見るとリヒトのテンションが爆上がりになる。なにが楽しいのかわからないが、リヒトはこのひよこの浮かぶ桶を大変気に入っていた。
そしてディランがこの後、一人で風呂に入る。ジェニファーはついてこなかった。
そんななんの変哲もない今日が終わるのだった。
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