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第10話 竜、とんでもないものを作る

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「あばぶー」
「ぴーよ、ぴーよ」
「ふんふんふふ~ん♪」

 村へ行った翌日。
 膝にリヒトを乗せたトワイトが楽しそうに鼻歌を歌いながらなにかを編んでいた。
 ちなみに今日のリヒトと遊んでいるひよこはレイタで、頬にすり寄ったり撫でられたりしている。
 お昼も食べており後はまったりと過ごすいつもの日常。そこで薪割りから戻って来たディランが声をかけてきた。

「薪割りが終わったぞ。お、なにを作っておるんじゃ?」
「おかえりなさい」
「だー♪」

 ディランを見つけて嬉しそうに声を出すリヒト。彼をトワイトの膝から抱えてあげると、レイタが慌ててディランの足を駆け上ってリヒトの肩にやって来た。

「ぴよー……」
「あうあー」
「お主らホントにリヒトが大好きじゃのう。それで婆さんや、それはなんじゃ?」

 もう一度尋ねてみると、トワイトが一度手を止めてから背伸びをして返事をする。

「羊毛も交換してくれるかもしれない話をしたじゃないですか。それで思いついたの。私もなにか作って物々交換か、それを買い取ってもらえないかと」
「おお、なるほど。確かにワシらは金を持っておらんし、いいかもしれん」

 行商人が来る、という話も興味深かったようで村の人が買ってくれなくてもそっちで売れないだろうかと考えた。

「それで前に作ったことがある絨毯を試しに作っておこうかと思ったんです」
「糸がよくあったもんじゃ」
「荷物の中にまだ残っていたの。私の髪とあなたの髭も縫い込んでいるから耐久性はばっちりですよ」
「出来上がりが楽しみじゃな。のうリヒトや」
「きゃっきゃ♪」

 トワイトが軽く力こぶを作ってウインクをしてディランへ説明した。そんな妻にディランは楽しみだと告げてリヒトを高い高いしてやる。

「どれくらい作る予定じゃ?」
「このペースなら三枚くらいかしら。歳は取りたくないわねえ」
「そのクオリティなら十分じゃろ。なら三日後の行商人に合わせるんじゃな?」
「そのつもりですよ」

 歳は取りたくない、とトワイトがため息を吐くが、ディランの言う通り絨毯を完全な手作業で一日一枚作れるのは人間にはできない。
 まして、縦二百、横二百五十とそれなりの大きさがあるのだ。織機も使わずそれをやっている。
 竜の素材を織り込んでいるので火事で焼けたりもしない上に、なんなら防御アイテムとしても使える代物だったりするのである。

「ならリヒトはワシと遊ぶか。洞穴にハバラが使っていたおもちゃがあったはずじゃ」

 ディランは邪魔をしないようにリヒトを連れて洞窟の倉庫でおもちゃを探そうと言い出した。

「気を付けてくださいね。リヒトは人間の子なんですから」
「大丈夫じゃて。それじゃちと行ってくる」
「はーい」
「あー」

 トワイトは笑顔でリヒトに手を振ると、抱っこされていたリヒトも手をぴこぴこと動かしていた。

「こけー」
「ぴよ」

 そこでジェニファーとひよこのソオンが移動することに気づきディランの後についてきた。特に止める必要もないためそのまま裏口へと向かった。

「まだ首もすわっておらんから気を遣わんとな」
「だー」
「積み木か。ちと早いかのう。なんか先っぽに虫がついた適当に振り回す棒があったはずじゃが……」

 裏口から直結で洞窟に繋がっているため、苦も無く宝箱の前へとやってきた。ディランはなにか遊べるものが無いかを探す。
 膝に乗せたまま宝箱を漁り、積み木や馬の形をした揺れる木彫りなどを取り出していく。

「あー? う」
「こけ!?」
「ぴよ!?」
「あー♪」

 その時、膝に乗せていたリヒトが近くにあった積み木を手に取り、その辺を警戒していたジェニファーへ投げた。
 もちろん大して飛ばないし威力はないが、ジェニファー達はびっくりして飛び上がった。

「こりゃ、投げちゃいかん」
「むー」

 もうひとつ掴んで投げようとしたところ、ディランが取り上げてから窘めた。
 それが不満なのかリヒトは唸りを上げていやいやをしだす。
 
「すまんすまん。ほら、落ち着こうなあ」
「うー……」

 ディランはリヒトを抱き上げて背中を撫でてやる。まだ不満そうな声を上げているなと思った瞬間、リヒトが暴れ出した。

「あーうー!」
「あ、こりゃ暴れちゃいかんぞい。……おう!?」
「う……!? うああああああああああ!」
「ぴ、ぴよ!?」

 手をバタバタさせながら暴れたため、ディランの口に手が当たってしまった。
 あまりそう見えないがディランの歯は牙のようになっている箇所がある。リヒトの手はそこに当たってしまい、すぱっと甲を切ってしまった。
 大泣きした反動で懐に居たレイタが転がり落ちた。

「ああ、怪我をしてしもうたか」
「あなた! 今の声は!」
「早い!?」

 傷を治そうかと思ったところで泣き声を聞きつけたトワイトが現れた。すぐにリヒトを取り上げられてしまう。

「痛かったわね。よしよし」
「傷を治そう」
「ええ」

 ディランは自身の親指を歯で切り裂いた。じわりと浮かんだ血をリヒトの傷へ一滴落とす。

「あー」
「よし、これで良かろう」

 すると傷があっという間に塞がり、痛みが無くなったからかリヒトが大人しくなる。竜の血は治療薬として使えるのだ。基本的には薄めて使うのだが、今回は緊急のためそのままつけた。

「ふう、脅かさないでくださいよ」
「いやあ、すまん。積み木をジェニファーに投げつけておったから窘めたんじゃ」
「まあ、そんなことが? まだ赤ちゃんだから大目に見てあげましょう大きくなってそういうことをしていたら注意するくらいで」
「確かにのう」
「きゃっきゃ♪」

 トワイトに抱っこされて喜ぶリヒトを見ながらディランは苦笑するのだった。
 そして三日後、行商人が来るという日になった。
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