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第1話 竜、追放される
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「仕方ないのう……」
「すまないなディラン爺さん。ドラゴンの里は若い連中でやっていく決まりとなった」
「二千五百年も住んでたんだ、そろそろ頃合いだろう?」
――ドラゴンの里
ここはその名の通りドラゴン達が住む集落である。
そして今、二頭のドラゴンが里から追放されることが決定した。
ドラゴンの寿命は長く、生きる者では三千年以上の個体も居る。
そんな中、段々と里に老個体が増えて来たことを鑑みた若いドラゴン達は話し合いを行い『里を圧迫しているのでは?』という意見が一致した。
そこで長く里で生きて来た老竜が間引かれることになったのだ。
ディランは決定後、初めての追放される竜だった。先程、家に若い衆が通達に来たという訳である。
「確かに最近は平和じゃし、ドラゴンもボチボチ増えておるからのう……」
若い衆が帰った後、お茶を飲みながら人と同じ姿をしたディランはため息を吐く。
しかし、仲間が増えるのは喜ばしいことだし確かに手狭になっていく里を考えると年寄りは追い出されても仕方が無いかもしれないと頭を振る。
「もう私達には子供を作る能力はないし、大人しく出ていきましょうよ」
「トワイト……」
そこで対面に座っていた黄色い髪の女性が微笑みながらディランにそう告げる。
同じ時を一緒に過ごして来たつがいである妻・トワイトだ。
「そうじゃな。息子夫婦はもう別の地域に住処を作っておるしいいかもしれん」
「ずっとここで暮していたから寂しいですけどね」
「まあ、なんじゃ。新しい土地というのもワクワクするわい」
生きてさえいればどこでも住めるかと言い聞かせて移住を決意する。
どうせ後何百年かの命なのだ、若いのに任せるかと。
「人間の町に住みます?」
「いやあ、様子見じゃのう。ドラゴンと見たら素材と思うて襲ってくる者もおる。適当な山に家を作ろうじゃないか」
「ふふ、そうしましょうか」
「なんじゃい」
「いえ、昔から竜一倍身体は大きいのに怖がりなのが変わらないなあって思ったんですよ」
「ふん。ここじゃドラゴンの姿になる必要もないからのう。ふむ、新天地はドラゴンの姿で過ごすか」
「不便じゃありませんか?」
ディランは口を尖らせてから鼻を鳴らすと荷造りを始めた。
穏やかな二頭だったので里から出ることはなく、ずっとここに住んでいた。子供ができても移住せず、気づけば年寄りになっていたなと、ディランは思う。
「あなた、それ全部持って行くんですか?」
「捨てるモノはなにもないわい」
二千年ほど前の子供のおもちゃなどもふろしきに包み、箱に詰めていく。
思い出の品は最後まで持っておくと言ってきかず、トワイトは呆れた顔で『はいはい』と返事をしていた。
とはいえ、それほど持って行くものは多くなく、布団や食器といった必要なものばかりだった。
「人の姿に変化できるようになってから楽にはなったのう」
「私達が若いころは洞窟に草木のベッドが当たり前でしたものね」
「洞窟……! そうじゃ!」
ある程度まとめて一か所に置いて懐かしんでいた。そこでディランは手をポンと打ってから自室へ向かった。
「?」
程なくして戻って来くると、ディランが宝箱を持っていることに気付く。
「まあ、懐かしいわね」
「危うく忘れるところじゃったわい。この里に迷い込んで来た人間がお礼で置いて行った財宝じゃ。最悪、これを使えば人間の町で売り買いができるじゃろ」
「あらまあ、さっきは怖いとおっしゃっていらしたのに」
「背に腹は代えられんというやつじゃな……ああ、不安じゃて……」
ディランは宝箱を抱えたままそんなことを言い、トワイトがクスクスと笑っていた。
そして通達のあった日からひと月が経った。
「それでは皆、達者でな」
「おう、わしもその内に出て行くわい! まったく、先竜をなんだと思っとるんじゃろうな」
茶飲み友達のドラゴンが怒りながらそう言う。ディランはにっこりと微笑むと、親指を立てて返す。
「まあそう言うな。若い衆が居ればドラゴン族は安泰じゃ。ワシらに天敵は少ないがチビ共は他種族に食われることもある。気を付けるのじゃぞ」
「大丈夫さ。年寄りに心配されるこっちゃない」
「そうじゃな。杞憂か」
ニヤニヤと笑う若いドラゴン達が年寄りに心配されてもと口にする。ディランは少し困った顔で笑うと小さく頷いて肯定した。
「ではそろそろ行くとしよう。たまには顔を出させてくれ」
「さようならみんなー」
「「「え!?」」」
ディランは旅立つためにドラゴンの姿に変化すると、若い連中が一斉に驚きの声を上げた。
それも無理はない。広げた翼やその体躯は彼等の十倍はあろうかという大きさだったからだ。
「で、でかい……!?」
「ディラン爺さんがドラゴンになったの……初めて見た……」
「そういや久しぶりじゃのう。アークドラゴンのディランは昔からでかかったわい」
「そうじゃのう。あやつ、気弱じゃが里に危機が訪れた時は体を張って守っておった。戦いは好まないが、腕っぷしはわしの次くらいじゃぞ」
「おめえあいつに勝てたことないじゃろ!?」
「あの爺さんが……」
遠くなっていく二頭を見て若いドラゴンは息を飲む。同じ年齢でアレと戦いたいとは思わないだろう、と。
「ぶえっくしょい!?」
「やだ、汚いですよ」
「誰か噂をしておるんじゃ、きっと。どうせ里のジジイの誰かじゃろうけど」
「ふふ、寂しくなりますねえ」
「ふん」
ディランは鼻を鳴らして上昇する。妻を守るように。
果たして里から出た彼等はどうなってしまうのか――
「すまないなディラン爺さん。ドラゴンの里は若い連中でやっていく決まりとなった」
「二千五百年も住んでたんだ、そろそろ頃合いだろう?」
――ドラゴンの里
ここはその名の通りドラゴン達が住む集落である。
そして今、二頭のドラゴンが里から追放されることが決定した。
ドラゴンの寿命は長く、生きる者では三千年以上の個体も居る。
そんな中、段々と里に老個体が増えて来たことを鑑みた若いドラゴン達は話し合いを行い『里を圧迫しているのでは?』という意見が一致した。
そこで長く里で生きて来た老竜が間引かれることになったのだ。
ディランは決定後、初めての追放される竜だった。先程、家に若い衆が通達に来たという訳である。
「確かに最近は平和じゃし、ドラゴンもボチボチ増えておるからのう……」
若い衆が帰った後、お茶を飲みながら人と同じ姿をしたディランはため息を吐く。
しかし、仲間が増えるのは喜ばしいことだし確かに手狭になっていく里を考えると年寄りは追い出されても仕方が無いかもしれないと頭を振る。
「もう私達には子供を作る能力はないし、大人しく出ていきましょうよ」
「トワイト……」
そこで対面に座っていた黄色い髪の女性が微笑みながらディランにそう告げる。
同じ時を一緒に過ごして来たつがいである妻・トワイトだ。
「そうじゃな。息子夫婦はもう別の地域に住処を作っておるしいいかもしれん」
「ずっとここで暮していたから寂しいですけどね」
「まあ、なんじゃ。新しい土地というのもワクワクするわい」
生きてさえいればどこでも住めるかと言い聞かせて移住を決意する。
どうせ後何百年かの命なのだ、若いのに任せるかと。
「人間の町に住みます?」
「いやあ、様子見じゃのう。ドラゴンと見たら素材と思うて襲ってくる者もおる。適当な山に家を作ろうじゃないか」
「ふふ、そうしましょうか」
「なんじゃい」
「いえ、昔から竜一倍身体は大きいのに怖がりなのが変わらないなあって思ったんですよ」
「ふん。ここじゃドラゴンの姿になる必要もないからのう。ふむ、新天地はドラゴンの姿で過ごすか」
「不便じゃありませんか?」
ディランは口を尖らせてから鼻を鳴らすと荷造りを始めた。
穏やかな二頭だったので里から出ることはなく、ずっとここに住んでいた。子供ができても移住せず、気づけば年寄りになっていたなと、ディランは思う。
「あなた、それ全部持って行くんですか?」
「捨てるモノはなにもないわい」
二千年ほど前の子供のおもちゃなどもふろしきに包み、箱に詰めていく。
思い出の品は最後まで持っておくと言ってきかず、トワイトは呆れた顔で『はいはい』と返事をしていた。
とはいえ、それほど持って行くものは多くなく、布団や食器といった必要なものばかりだった。
「人の姿に変化できるようになってから楽にはなったのう」
「私達が若いころは洞窟に草木のベッドが当たり前でしたものね」
「洞窟……! そうじゃ!」
ある程度まとめて一か所に置いて懐かしんでいた。そこでディランは手をポンと打ってから自室へ向かった。
「?」
程なくして戻って来くると、ディランが宝箱を持っていることに気付く。
「まあ、懐かしいわね」
「危うく忘れるところじゃったわい。この里に迷い込んで来た人間がお礼で置いて行った財宝じゃ。最悪、これを使えば人間の町で売り買いができるじゃろ」
「あらまあ、さっきは怖いとおっしゃっていらしたのに」
「背に腹は代えられんというやつじゃな……ああ、不安じゃて……」
ディランは宝箱を抱えたままそんなことを言い、トワイトがクスクスと笑っていた。
そして通達のあった日からひと月が経った。
「それでは皆、達者でな」
「おう、わしもその内に出て行くわい! まったく、先竜をなんだと思っとるんじゃろうな」
茶飲み友達のドラゴンが怒りながらそう言う。ディランはにっこりと微笑むと、親指を立てて返す。
「まあそう言うな。若い衆が居ればドラゴン族は安泰じゃ。ワシらに天敵は少ないがチビ共は他種族に食われることもある。気を付けるのじゃぞ」
「大丈夫さ。年寄りに心配されるこっちゃない」
「そうじゃな。杞憂か」
ニヤニヤと笑う若いドラゴン達が年寄りに心配されてもと口にする。ディランは少し困った顔で笑うと小さく頷いて肯定した。
「ではそろそろ行くとしよう。たまには顔を出させてくれ」
「さようならみんなー」
「「「え!?」」」
ディランは旅立つためにドラゴンの姿に変化すると、若い連中が一斉に驚きの声を上げた。
それも無理はない。広げた翼やその体躯は彼等の十倍はあろうかという大きさだったからだ。
「で、でかい……!?」
「ディラン爺さんがドラゴンになったの……初めて見た……」
「そういや久しぶりじゃのう。アークドラゴンのディランは昔からでかかったわい」
「そうじゃのう。あやつ、気弱じゃが里に危機が訪れた時は体を張って守っておった。戦いは好まないが、腕っぷしはわしの次くらいじゃぞ」
「おめえあいつに勝てたことないじゃろ!?」
「あの爺さんが……」
遠くなっていく二頭を見て若いドラゴンは息を飲む。同じ年齢でアレと戦いたいとは思わないだろう、と。
「ぶえっくしょい!?」
「やだ、汚いですよ」
「誰か噂をしておるんじゃ、きっと。どうせ里のジジイの誰かじゃろうけど」
「ふふ、寂しくなりますねえ」
「ふん」
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