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公爵家当主の入学試験見学
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アストルム王国王都イークウェス。
言わずと知れたアストルム王国で最も栄えた、多くの人と物とが集まる場所だ。
あるいは全ての国を含めてすら最大かもしれず、世界に名だたる商会の本店が存在していたり、様々なギルドの本部が置かれたりしていることでも有名である。
そして、王立アストルム学院もまたその一つと言えるだろう。
学院とは、この世界における教育機関の総称であり、だがとある世界を基準に考えるのであれば、大学や専門学校に近い。
学院に通う者は基本的に十五を過ぎてから――成人と認められてからで、何よりも学院は様々な専門の学科に分かれ、それぞれの道に進む上での登竜門のような役割を果たしているからである。
教育期間は三年間。
通うこと自体は義務でも強制でもないが、貴族や平民にかかわらず大半の場合は通うことになる。
学院でなければ学べないようなことが多々ある上、学院は国から補助金が与えられるために、格安で通うことが可能だからだ。
成績次第では無料になることまであり、さらにはコネを作れたりそれがきっかけで将来の働き口を見つけることも珍しくない。
将来的に考えれば学院に払う金額は余裕で採算がとれるため、通わない理由の方がないのだ。
ただ、学院自体は身分を問うことはないが、アストルム学院だけは実質的に貴族でなくては入れなくなっている。
これは単純にアストルム学院は人気があるがゆえだ。
アストルム学院はこの国……いや、世界でも名高い最高峰の学院なのである。
人気があるということはそれだけ実力や才能が求められるということで、平民が貴族にそれらで敵う道理はない。
才能や実力が平民を上回っているからこそ貴族でいられているのだということを考えれば、当然のことだ。
もちろん何物にも例外というものは付き物で、時折平民が混ざることはあるものの、あくまでも例外は例外である。
その大半が貴族であることは揺るぎない事実であった。
そしてその場にいる少女もまた、当然のように貴族である。
ユーリア・ヘルツォーク・フォン・ハーヴェイ。
アストルム王国最上位の爵位である公爵、中でもその筆頭であるハーヴェイ家。
僅か十三歳にしてその当主の座を継いだ少女であった。
そんな少女がそこ――アストルム学院の訓練場の一角にいるのは、言ってしまえば見学のためだ。
学院は希望者を全員入学させるわけにはいかない以上事前に試験を行う必要があり、今日はその試験が行われている日であった。
そこを見学に訪れた、というわけである。
ユーリアの眼下では、今まさに一人の少女が試験を受けているところで……その光景を眺めながら、一つ息を吐き出した。
「……思っていたのと、少し違いましたね。期待外れ、と言ってしまうほどではないのですけれど……」
直径二十メートルほどの、円形の舞台。
向かい合っているのは五メートルを超える怪物――魔獣と呼ばれている存在と、たった十五歳の少女。
非常に危険な光景ではあった。
何せあの魔獣は推定でレベル20相当といったところである。
普通に考えれば十五の少女が敵う相手ではなく、その証拠とでも言わんばかりに少女の身体はそこら中が傷つき血を流していた。
だがこれこそが、アストルム学院の入学試験なのだ。
より正確に言うならば、アストルム学院の誇る二大学科のうちの一つの。
無論非常に危険な試験であり、時折死者が出ることもあるという。
しかし、必要なことでもあった。
魔獣とは、端的に言ってしまえば魔物の上位存在のようなものである。
魔物よりも強力且つ危険な存在で、一匹が暴れるだけで小さな村や街はあっさりと滅び、時には国ですらも滅ぼされてしまう。
そんな魔獣と戦うことを許され、また戦うことを責務とする者達を総称して、騎士と呼ぶ。
アストルム学院は将来その騎士になることを目的とした学科――騎士科がこの国で唯一設置されており、それこそが最高峰と呼ばれている所以の一つでもある。
そしてこれはそんな騎士科に入るための試験なのだ。
温いわけがあるまい。
それに少女も、一方的にやられているというわけではなかった。
魔獣の身体にも傷と血はあり、少女の構えている槍の穂先にも赤黒いものがこびりついている。
伊達に騎士になろうとしているわけではないということだ。
ただ……それでも足りているかについては、また別の話ではあるが。
そんなことを思った、直後であった。
弾かれたように魔獣が動き、その爪を振り下ろしたのだ。
衝撃によって地面が、少女の身体が抉られ、だがお返しとばかりに少女の繰り出した槍の穂先が魔獣の身体を貫く。
それが、決定的であった。
魔獣と少女との体格は倍以上で、持ち合わせている体力の差はそれ以上なのである。
構わず魔獣の腕が薙ぎ払われ、少女の身体がボールのように吹き飛んだ。
ゴロゴロと少女の身体が転がり、ピタリと止まる。
少女はそれ以上ピクリとも動かず、魔獣が勝利の雄叫びを上げた。
しかし、そこまでであった。
勝利の報酬として、少女の身体を食らうべく動き出した魔獣は、突如地面から生えてきた光の帯のようなものにまとわりつかれ、拘束されてしまったのである。
そして少女の方には三人ほどの真っ白な服を着た女性達が向かい、そのままどこかへと連れて行く。
おそらくはちゃんとした場所で治療を行うのだろう。
時折死者が出るとは言っても、出ないに越したことはないし、可能ならば出したくもないはずである。
学院の評判とかそういうことではなく、魔獣と多少ではあっても渡り合える人というのは、この世界では貴重だ。
騎士にはなれずとも兵などで活躍してくれるはずで、そんな人材をむざむざ死なせたくはない、ということである。
ならばそもそも試験の難易度をもう少し下げればいい話ではあるが、それをして騎士の質が落ちてしまっては本末転倒だ。
魔物よりも魔獣こそが、今の人類にとって最も脅威なのだから。
だがだからこそ、先の感想でもある。
騎士を目指そうというのだから、正直もっと有望そうな人がいるのだろうと思っていたのだ。
しかし先ほどからずっと見ているが、ユーリアがそう思えたのは一人か二人といったところでしかない。
そもそもの話、この試験の目的は魔獣を倒すことではないのだ。
明らかに格上の魔獣を倒せるわけがなく、そんな魔獣を相手にしてどういう行動をとるのか、ということを見るのがこの試験の目的なのである。
だというのに、先ほどの少女のように魔獣に突っかかり返り討ちにあう者ばかり。
これでは溜息の一つや二つ漏れようというものであった。
だがそんなユーリアの心境とは関わりなく、試験は進む。
拘束された魔獣が奥の方へと引っ張っていかれて姿を消し、次の受験生が姿を現したのだ。
「うん? あれは……」
その少女の姿を見てユーリアが首を傾げたのは、どこかで見たことがあるような気がしたからだ。
まあ、騎士科の試験を受けるのは大半が貴族であり、ユーリアも貴族のパーティーなどには何度も出席しているので、見たことのある者がいたところで不思議はないのだが。
とはいえ、大国であるこの国の貴族の数は、ただでさえ多い。
余程の者でなければ印象にすら残らないとは思うが……と、そんなことを考えていると、訓練場の奥にある扉が開いた。
先ほどの魔獣が引っ張られていった先であり、再びそこから魔獣が現れる。
しかし、先ほどの魔獣とはまた別の魔獣であった。
こういう時のために学院には特別に何体かの魔獣が捕獲されており、そこからランダムで選ばれているのだ。
今回の魔獣は先ほどのものと比べ一回りは大きく、より強大そうに見える。
一目でそれが分かるからか、周囲が僅かに湧いた。
溜息をもう一つ、吐き出す。
眼下から周囲へと視線を移せば、そこにはユーリアの他にも沢山の人影があった。
ユーリアがいるのは、眼下にある訓練場から十メートルほど上方に作られた観客席だ。
観客席だということを考えれば他にも見学しているものがいてもおかしくはなく……ただ、純粋に見学しているのはユーリア一人だけだろう。
そこにいるのは、大半がこれから試験を受けようとする受験生だ。
待機するついでに、ここで他の受験生の試験を見学しているというわけである。
そのせいで後半に受ける受験生の方が有利なように思えるかもしれないが、その程度のことでどうにかなるほど魔獣というのはやわな存在ではない。
そのことは受験生達も理解しているだろうに、それでも目が離せないのか、ジッと眼下を見つめている。
それだけ真剣ということなのだろうし、きっといいことではあるのだろうが……それもまた、ユーリアが思っていたのとは異なると感じてしまう要因の一つだ。
どうにも、見世物のように感じてしまうのだ。
「……まあ、見学をしている私に言う資格などないような気もしますけれど」
だがそう感じてしまうのは、あるいは自分もあそこに立っていたかもしれなかったからか。
もしくは、あそこに立たずに済むようになってしまったことこそが――
「――あっ、お姉様、こんなとこにいやがったんですね……!?」
と、思考を遮るような声がユーリアの耳に届いたのは、そんな時のことであった。
言わずと知れたアストルム王国で最も栄えた、多くの人と物とが集まる場所だ。
あるいは全ての国を含めてすら最大かもしれず、世界に名だたる商会の本店が存在していたり、様々なギルドの本部が置かれたりしていることでも有名である。
そして、王立アストルム学院もまたその一つと言えるだろう。
学院とは、この世界における教育機関の総称であり、だがとある世界を基準に考えるのであれば、大学や専門学校に近い。
学院に通う者は基本的に十五を過ぎてから――成人と認められてからで、何よりも学院は様々な専門の学科に分かれ、それぞれの道に進む上での登竜門のような役割を果たしているからである。
教育期間は三年間。
通うこと自体は義務でも強制でもないが、貴族や平民にかかわらず大半の場合は通うことになる。
学院でなければ学べないようなことが多々ある上、学院は国から補助金が与えられるために、格安で通うことが可能だからだ。
成績次第では無料になることまであり、さらにはコネを作れたりそれがきっかけで将来の働き口を見つけることも珍しくない。
将来的に考えれば学院に払う金額は余裕で採算がとれるため、通わない理由の方がないのだ。
ただ、学院自体は身分を問うことはないが、アストルム学院だけは実質的に貴族でなくては入れなくなっている。
これは単純にアストルム学院は人気があるがゆえだ。
アストルム学院はこの国……いや、世界でも名高い最高峰の学院なのである。
人気があるということはそれだけ実力や才能が求められるということで、平民が貴族にそれらで敵う道理はない。
才能や実力が平民を上回っているからこそ貴族でいられているのだということを考えれば、当然のことだ。
もちろん何物にも例外というものは付き物で、時折平民が混ざることはあるものの、あくまでも例外は例外である。
その大半が貴族であることは揺るぎない事実であった。
そしてその場にいる少女もまた、当然のように貴族である。
ユーリア・ヘルツォーク・フォン・ハーヴェイ。
アストルム王国最上位の爵位である公爵、中でもその筆頭であるハーヴェイ家。
僅か十三歳にしてその当主の座を継いだ少女であった。
そんな少女がそこ――アストルム学院の訓練場の一角にいるのは、言ってしまえば見学のためだ。
学院は希望者を全員入学させるわけにはいかない以上事前に試験を行う必要があり、今日はその試験が行われている日であった。
そこを見学に訪れた、というわけである。
ユーリアの眼下では、今まさに一人の少女が試験を受けているところで……その光景を眺めながら、一つ息を吐き出した。
「……思っていたのと、少し違いましたね。期待外れ、と言ってしまうほどではないのですけれど……」
直径二十メートルほどの、円形の舞台。
向かい合っているのは五メートルを超える怪物――魔獣と呼ばれている存在と、たった十五歳の少女。
非常に危険な光景ではあった。
何せあの魔獣は推定でレベル20相当といったところである。
普通に考えれば十五の少女が敵う相手ではなく、その証拠とでも言わんばかりに少女の身体はそこら中が傷つき血を流していた。
だがこれこそが、アストルム学院の入学試験なのだ。
より正確に言うならば、アストルム学院の誇る二大学科のうちの一つの。
無論非常に危険な試験であり、時折死者が出ることもあるという。
しかし、必要なことでもあった。
魔獣とは、端的に言ってしまえば魔物の上位存在のようなものである。
魔物よりも強力且つ危険な存在で、一匹が暴れるだけで小さな村や街はあっさりと滅び、時には国ですらも滅ぼされてしまう。
そんな魔獣と戦うことを許され、また戦うことを責務とする者達を総称して、騎士と呼ぶ。
アストルム学院は将来その騎士になることを目的とした学科――騎士科がこの国で唯一設置されており、それこそが最高峰と呼ばれている所以の一つでもある。
そしてこれはそんな騎士科に入るための試験なのだ。
温いわけがあるまい。
それに少女も、一方的にやられているというわけではなかった。
魔獣の身体にも傷と血はあり、少女の構えている槍の穂先にも赤黒いものがこびりついている。
伊達に騎士になろうとしているわけではないということだ。
ただ……それでも足りているかについては、また別の話ではあるが。
そんなことを思った、直後であった。
弾かれたように魔獣が動き、その爪を振り下ろしたのだ。
衝撃によって地面が、少女の身体が抉られ、だがお返しとばかりに少女の繰り出した槍の穂先が魔獣の身体を貫く。
それが、決定的であった。
魔獣と少女との体格は倍以上で、持ち合わせている体力の差はそれ以上なのである。
構わず魔獣の腕が薙ぎ払われ、少女の身体がボールのように吹き飛んだ。
ゴロゴロと少女の身体が転がり、ピタリと止まる。
少女はそれ以上ピクリとも動かず、魔獣が勝利の雄叫びを上げた。
しかし、そこまでであった。
勝利の報酬として、少女の身体を食らうべく動き出した魔獣は、突如地面から生えてきた光の帯のようなものにまとわりつかれ、拘束されてしまったのである。
そして少女の方には三人ほどの真っ白な服を着た女性達が向かい、そのままどこかへと連れて行く。
おそらくはちゃんとした場所で治療を行うのだろう。
時折死者が出るとは言っても、出ないに越したことはないし、可能ならば出したくもないはずである。
学院の評判とかそういうことではなく、魔獣と多少ではあっても渡り合える人というのは、この世界では貴重だ。
騎士にはなれずとも兵などで活躍してくれるはずで、そんな人材をむざむざ死なせたくはない、ということである。
ならばそもそも試験の難易度をもう少し下げればいい話ではあるが、それをして騎士の質が落ちてしまっては本末転倒だ。
魔物よりも魔獣こそが、今の人類にとって最も脅威なのだから。
だがだからこそ、先の感想でもある。
騎士を目指そうというのだから、正直もっと有望そうな人がいるのだろうと思っていたのだ。
しかし先ほどからずっと見ているが、ユーリアがそう思えたのは一人か二人といったところでしかない。
そもそもの話、この試験の目的は魔獣を倒すことではないのだ。
明らかに格上の魔獣を倒せるわけがなく、そんな魔獣を相手にしてどういう行動をとるのか、ということを見るのがこの試験の目的なのである。
だというのに、先ほどの少女のように魔獣に突っかかり返り討ちにあう者ばかり。
これでは溜息の一つや二つ漏れようというものであった。
だがそんなユーリアの心境とは関わりなく、試験は進む。
拘束された魔獣が奥の方へと引っ張っていかれて姿を消し、次の受験生が姿を現したのだ。
「うん? あれは……」
その少女の姿を見てユーリアが首を傾げたのは、どこかで見たことがあるような気がしたからだ。
まあ、騎士科の試験を受けるのは大半が貴族であり、ユーリアも貴族のパーティーなどには何度も出席しているので、見たことのある者がいたところで不思議はないのだが。
とはいえ、大国であるこの国の貴族の数は、ただでさえ多い。
余程の者でなければ印象にすら残らないとは思うが……と、そんなことを考えていると、訓練場の奥にある扉が開いた。
先ほどの魔獣が引っ張られていった先であり、再びそこから魔獣が現れる。
しかし、先ほどの魔獣とはまた別の魔獣であった。
こういう時のために学院には特別に何体かの魔獣が捕獲されており、そこからランダムで選ばれているのだ。
今回の魔獣は先ほどのものと比べ一回りは大きく、より強大そうに見える。
一目でそれが分かるからか、周囲が僅かに湧いた。
溜息をもう一つ、吐き出す。
眼下から周囲へと視線を移せば、そこにはユーリアの他にも沢山の人影があった。
ユーリアがいるのは、眼下にある訓練場から十メートルほど上方に作られた観客席だ。
観客席だということを考えれば他にも見学しているものがいてもおかしくはなく……ただ、純粋に見学しているのはユーリア一人だけだろう。
そこにいるのは、大半がこれから試験を受けようとする受験生だ。
待機するついでに、ここで他の受験生の試験を見学しているというわけである。
そのせいで後半に受ける受験生の方が有利なように思えるかもしれないが、その程度のことでどうにかなるほど魔獣というのはやわな存在ではない。
そのことは受験生達も理解しているだろうに、それでも目が離せないのか、ジッと眼下を見つめている。
それだけ真剣ということなのだろうし、きっといいことではあるのだろうが……それもまた、ユーリアが思っていたのとは異なると感じてしまう要因の一つだ。
どうにも、見世物のように感じてしまうのだ。
「……まあ、見学をしている私に言う資格などないような気もしますけれど」
だがそう感じてしまうのは、あるいは自分もあそこに立っていたかもしれなかったからか。
もしくは、あそこに立たずに済むようになってしまったことこそが――
「――あっ、お姉様、こんなとこにいやがったんですね……!?」
と、思考を遮るような声がユーリアの耳に届いたのは、そんな時のことであった。
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ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
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