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しおりを挟む動物の宇宙飛行士たちが力をあわせ、地球の外側から、ぼくたちの未来を守ろうとしている……
タカシの胸は、又、熱くなりました。
みんなが住んでいる月の裏側へ早く行ってみたくなりましたが、その時、操縦席のランプがつき、かすれ気味の低い声が聞こえてきます。
「ライカ君。あ~、ライカ君、聞こえるか? こちらムーンベース・アルファ。早く応答したまえ」
あっ、と叫んでライカがマイクに口を寄せます。
「アルバートさん、ライカです。長い間連絡できず、もうしわけありません」
「我々も心配しておったぞ。どうやら無事みたいじゃな」
アルバートという名を聞いたとたん、タカシはピンときました。アメリカのロケットに乗ったアカゲザルが、たしかアルバート二世と言う名前です。
本で見たアルバートは可愛いいおサルだったのに、しぶい声をだし、いばったおじさんみたいな話し方をするから、タカシはおかしくなりました。
でも、笑っている場合じゃありません。
簡単な報告をライカから受けた後、アルバート二世はおごそかに言いました。
「ライカ君、すぐ月へ戻ってくれたまえ。君にしかできない仕事が、六年分たまっているんだ」
「もう少し……待ってもらえませんか」
「何故だね?」
「私、地球で友達になった少年と、まだちゃんとサヨナラできていないのです」
ライカがサヨナラという言葉を口にした瞬間、タカシは胸の奥がキュッとしめつけられる気がしました。
ライカが元気になって、飛び上がるくらいうれしかったのに。
又、これからず~っと仲良く暮らせると思ったのに、いきなりサヨナラだなんて。
「ねぇ、お家へ帰ろう、ライカ」
タカシは、泣きたい気持ちをおさえ、声をはり上げました。
「ごめんね、タカシ……」
「あやまらないでよ、ライカ。UFOの事なら、お父さんにもお母さんにも秘密にする。ぼく、誰にも話さないから」
「さっき、教えたでしょう。地球で暮らすみんなのため、やらなければならない大事な仕事があるの」
「それ、ぼくより大事?」
ライカは苦しそうな顔をし、うつむいてしまいました。
「ホントはぼくに怒ってるんじゃないの?」
「えっ!?」
「三才のぼくを助けたせいで、長い間、大事な仕事ができなかったから」
「タカシ……それはちがいます」
「ホントは人よりず~っと頭が良くて、UFOにだってのれるのに、何もしゃべれないまま、死にそうになったんだもんね」
タカシはさけび続けます。ライカをこまらせたくないのに、さびしい気持ちがあふれだし、止まりません。
「きっと、つまらない想い出ばかりだよね、ぼくの家のことなんか!」
言えば言うほど、言葉のとげはタカシ自身の胸を刺し、ほほを涙が流れます。
その気持ちが伝わったのでしょうか。ライカは宇宙服のヘルメットを脱ぎ、タカシの涙を舌の先で受け止めました。
「私、あなたたち家族とすごした六年間に、後悔は何一つありません」
「……ホント?」
「タカシ、毎日、あなたと公園までおさんぽした思い出は、昔の私が夢見ていた宝物。何より幸せな時間だったの」
言い終えて、またペロペロ。
うれしくなってライカを抱きしめると、脱いだヘルメットのすき間から、タカシの手に銀色の首輪とプレートがふれます。
あぁ、そうだ。
この首輪をつけたおかげで、ライカはUFOを呼べるようになったんだ。なら、もう一度はずしてしまえば……
元の「普通の犬」に戻り、ぼくと家へ帰るかも?
いつものタカシなら、そんな危ないことはしません。ですがこの時、ライカと別れたくない気持ちが強すぎました。
右手で銀のプレートを引き寄せ、にぎりしめたタカシは、ためらわず、それを力一杯ひっぱったのです。
「あ、ダメっ!」
「やめたまえ、少年!」
ライカとアルバートの声が響いた時、プレートのチェーンは根元からちぎれ、銀の首輪が光り始めました。
次にほとばしり出たのは、これまでで一番強く、カミナリのような青白い光。
そのショックは強烈でした。タカシはライカのそばから吹っ飛び、UFOの床に倒れたまま、気を失ってしまったのです。
目を覚ました時、タカシは自分の家の、広いリビングルームの真ん中、大きなクッションの上へ顔をふせていました。
「ライカ、ライカ、どこ!?」
部屋の中に茶色い犬の姿はありません。
代わりに廊下の方から、お母さんが入ってきました。
月を調べ続けているロボットの操縦をお父さんにまかせ、一休みをかねて、タカシの様子を見に来たのだそうです。
「不思議ね。あたしが帰って来た時、ライカはもうどこにもいなかったの」
「庭や近くの道路も見た?」
「心当たりは一通りね。でも、弱っていたから遠くへ行けないだろうし、後でお父さんと探してあげる」
「……うん」
はげましてくれるお母さんに明るく笑ってみせながら、何が起きたか、タカシは考えていました。
ライカが若返り、UFOでいっしょに宇宙を飛んだのは、居眠りしている間の、ただの夢だったのでしょうか?
いえ、違います。
タカシのそばの床には開きっぱなしの木箱が落ちていて、中に入っていたはずの銀の首輪もプレートもありません。
きっとUFOの中では首輪が壊れても力を失わず、タカシが気を失った後、ライカが家まで送ってくれたのでしょう。
そして、飛び去ってしまった。
ちゃんとサヨナラも言えないまま……あぁ、ぼく、なんてバカなこと、しちゃったんだろ。
悲し過ぎて涙も出ません。
タカシがペタンと床へ座り込んでいたら、正面のテレビで夕方のニュース番組が始まりました。
どうやら大発見があったみたいです。
お父さんたちのロボット・ライカⅡが、月のクレーターを歩く内、ありえない物を拾ったと言うのです。
アナウンサーの声を聞き、戻って来たお母さんは、画面を見るなり大声を上げました。
「何で……どうして、あれが月にあるの!?」
タカシも驚き、目を丸くしたままです。
首輪からちぎれた、あの銀のプレートがテレビに映っているのです。その表面に見慣れた「ライカ」の名前。
何も書かれていなかったはずの裏面には、何か新しく刻まれています。
「ダ・スビダーニャ」
「え?」
「ライカの故郷で使う文字よ、あれ」
「教えて! どんな意味?」
「うん、誰かとお別れする時に使う言葉だったと思うわ」
プレートの裏面を読むお母さんの声を聞き、タカシはため息をつきました。
「つまり、サヨナラだよね?」
「うん、サヨナラはサヨナラだけど、日本のサヨナラとは少し違う」
「えっ?」
「また、会いましょう……それがこの言葉、ダ・スビダーニャの本当の意味」
お母さんの言葉を聞くなり、タカシは胸が一杯になり、プレートが画面から消えてしまうまで、じっとテレビを見つめていました。
ねぇ、月の上のどこか、わざとロボットに見つかりやすい場所をえらんで、銀のプレートを置いたんだろ、ライカ?
心の内の問いかけに答える声はありません。
でも、プレートが密かなメッセージである事、タカシは感じていました。
立派な宇宙飛行士になって、いつか、月まで会いに来て……そう願うライカの声が、はるか彼方の月へつながる夕焼け空から聞こえてきた気がするのです。
「待ってて、ぼくの親友!」
タカシはちいさなこぶしをにぎり、それを空へつきあげて、未来への誓いを宇宙へ放ったのでした。
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