マーライオンの宴

甘味料

文字の大きさ
上 下
8 / 10

最後の大会

しおりを挟む
「へい!こっち!パス!」
「おう!まかせた!」

あの日、担任から渡されたトロンボーンという楽器を、僕はもう一度手に取ることはなかった。

『うーん。うちの中学は部活か市内クラブチームに絶対入らなくちゃいけないからなぁ…』

担任は困った顔でそう言うので、俺は、
1
サッカー部に入った。
うちの市は、サッカーの強いクラブチームがあり、皆そちらに行くため、学校の部活動としてのサッカー部はとても弱い。そして、やる気がない。そして、顧問も来ない。
この部活にいるのは、市内クラブチームに入れなかった出来損ないと、俺のようなやる気のないやつだけだった。

物語のように、キラキラとしたきっかけがあったとしても、それがうまくキラキラとした物語になるとは限らない。何事も主人公のやる気次第だ。

白と黒のボールを、ただひたすらに追いかけ回す前半45分間。
何が楽しいのか、俺には理解することができなかった。

「GOGOGO!」
「そのままシュートだ!」

こんな弱小チームにまで手を抜かない相手チームは、市内屈指の有名チームだ。かわいそうに。

弱小チームがみんなで団結して、インターハイ目指すわけでも、友情が生まれるわけでもない。

俺の3年間最後の後半45分間。


予選一回戦目であっけなく幕を閉じた。


「えー、3年生諸君、今日まで良く頑張りました。次は受験です。頑張るように。」

顧問の身のない短いお言葉。

「先輩たち、今までありがとうございました。」

後輩の無表情な顔。
もちろん涙なんてあるわけがない。
色紙には、鉛筆で、

お疲れ様でした

とか

ありがとうございました

とか

高校に行っても頑張ってください

とか

弱々しい字で並んでいた。
みたことのない後輩の名前もあったし、
きっとここに書いていない人もいるんだろう。

俺にとっての中学生活は、灰色の桜から始まり、
白と黒のボールを追いかけ、
白と黒の色紙で終わる。


一つ良かったことといえば、
高校受験、面接にて、
面接官が、
「中学時代頑張ったことはなんですか。」
と、聞いた時、
「はい、私は3年間サッカー部を続けることができました。」
と、答えられたことくらいだ。

高校受験合格発表当日、
高校の前に張り出された白い紙に、
俺の受験番号は、黒い字でちゃんと書かれていた。






春から俺は高校生になる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

800字掌編集

けいりん
青春
大体800字くらいまで(時々超過)の掌編をぽつぽつ投稿していきます。どこからでもお気軽にどうぞ。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

処理中です...