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誕生日プレゼント
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「ママ、お誕生日おめでとう!」
「ありがとう」
3人で過ごす事が当たり前になった1月のある日。
今日は理恵子の34歳の誕生日で、自宅で菜穂と草哉にお祝いをしてもらっている。
外食があまり好きではない理恵子の為に、お気に入りのレストランでテイクアウトをして、ケーキは草哉の手作りチーズケーキだ。
大好物も嬉しいが、何よりも好きな人たちに囲まれて過ごす誕生日に幸せを感じる。
デザートを食べ終わったタイミングで、草哉が話を切り出した。
「そうだ。今日は、菜穂ちゃんにプレゼントがあるんだ」
ゴソゴソと鞄を探る草哉に、菜穂が不思議そうな顔をする。
「え?今日が誕生日なのはママだよ?」
「うん。そうなんだけど…。この間の言葉が嬉しかったからお礼がしたくて」
「この間?」
「おばあちゃんが来た時、言ってくれたでしょ?『ママがそうや君と別れるなんて許さない』『そうや君はいつもママを助けてくれる』って。あの言葉がすごく嬉しかったんだ。だからお礼だよ」
そう言って、草哉は菜穂に小さな紙袋を渡す。
手のひらサイズの紙袋からころんと出て来たのは、オレンジ色の花の飾りがついた髪ゴムだった。
「うわぁ!可愛い!」
「菜穂ちゃんのポニーテールにぴったりだと思うんだ。つけてみてもいい?」
そう言って菜穂のつけていた髪ゴムを取り、縛りなおそうとする草哉に慌てて声をかける。
「あ、縛るのは私がやるよ」
申し訳ないと思って言ったのだが、草哉は首を横にふった。
「大丈夫ですよ、やらせてください。慣れておきたいので」
「え?」
どういう意味だろうかと考えているうちに、草哉はぎこちない手つきながらポニーテールを完成させる。
毎日やっている理恵子に比べれば、ところどころボコボコで綺麗な仕上がりとは言えないが、慣れないことをやってくれた気持ちが嬉しい。
菜穂も鏡の中の自分の姿を見て、すごく嬉しそうに笑った。
「どう?どう?似合う?」
「うん。すごく可愛い。…あとね。菜穂ちゃんにお願いがあるんだ。」
「なぁに?」
上機嫌にポニーテールを揺らす菜穂に、草哉は真剣な顔で言った。
「俺を、菜穂ちゃんの家族にしてくれるかな?」
「家族?」
きょとんとする菜穂に、草哉は続けて言った。
「菜穂ちゃんのパパが一人だけなのはわかってる。だから新しいパパじゃなくて、家族にしてもらいたいんだ。これからもずっと、菜穂ちゃんや理恵子さんと一緒にいたいから」
(っ、それって…)
「家族ってことは、そうや君もなほたちと一緒に暮らせるの?」
「え?」
菜穂の言葉に草哉が不思議そうな顔をする。
「前にね。ママに、『どうしてそうや君は泊まってくれないの?』って聞いたら、『家族じゃない男の人がずっと家にいると、変な目で見られちゃうから』って言われたの。でも、家族になったら変な目で見られることもないんでしょ?泊まったり一緒に暮らしたり出来るんでしょ?」
「っ」
(そんな風に考えていたなんて)
すると草哉は菜穂に視線を合わせて、笑顔で言った。
「そうだね。菜穂ちゃんがいいって言うなら、一緒に暮らしたいな。いいかな?」
「いいよ!毎日宿題おしえてね!」
「うん。ありがとう」
あっさりと菜穂の了承を得た草哉は、今度は理恵子に向き直った。
さっきまでの子供に向ける優しい顔から一転、真剣な眼差しにドキリと心臓が高鳴る。
彼が鞄から取り出したのは、紺色のリングケース。
それを開けて出て来たのは、中央に花の形の細工があり、その中にオレンジ色の石が埋め込まれているシルバーリングだ。
(綺麗…)
そして彼は一息置いて、静かに言った。
「俺と結婚してください」
「っ!?」
思いがけないプロポーズに、思わず口を手で抑える。
ずっと「将来を考えている」とは言われていたが、直接的な言葉は初めてだった。
感極まって泣きそうになるのを抑えながら、恐る恐る彼に聞く。
「…私で、いいの?」
理恵子にとっては、草哉以上の存在はいないと一緒に過ごしてわかった。
だが、草哉はどうだろうか。
彼はまだ若いから、これからたくさんの出会いがあるかもしれない。
今は好きでいてくれても、そのうち若い女の子を選ぶのではないかと不安になってしまう。
そんな不安を感じとったのか、草哉は理恵子の手を握りながら優しく言った。
「言ったでしょう?俺には、あなた以上の存在なんていないんです。初めて会った時からずっと、あなただけが大好きで、ようやく手に入れたこの幸せな時間を大切にしたい。9年もしつこくあなたを想い続けていた男ですよ?心変わりなんて、絶対にあり得ません。この先の未来もずっと、理恵子さんと菜穂ちゃんと一緒にいたいんです。…俺と結婚してくれますか?」
もう一度聞いてきた彼に、耐え切れず涙があふれると、彼は冗談ぽく言った。
「断られたら、俺、また泣いちゃいますよ?」
その言葉に理恵子は、過去の草哉も思い出して、泣きながら笑った。
「草哉君は泣き虫だもんね」
「今、泣いてるのは理恵子さんですけどね」
そんなやり取りすら、心地いい。
(ああ、やっぱりこの人が大好きだ)
改めて溢れ出る感情に、もうプロポーズの答えは決まっていた。
「私も、草哉君と結婚したいです」
じっと目を見て静かに言った理恵子の言葉に、彼は嬉しそうに笑って、左手の薬指に指輪をはめてくれた。
「すごく綺麗。金木犀みたい」
「知り合いのアクセサリーデザイナーに頼んで作ってもらったんです。やっぱり金木犀は思い出の花だからどうしても贈りたくて。ちなみに、これはなんの石かわかります?」
「え、何だろう。イエロートルマリンとか?」
黄色系で思いついたものをあげてみる。
「実は、ガーネットなんですよ。1月の誕生石の」
「え?ガーネットって、赤だよね?」
よく見る誕生石ペンダントにあるガーネットの色はいつも赤なのに、目の前の指輪の宝石はどうみても黄色よりのオレンジ色だ。
「ガーネットっていうのは、鉱物のグループのことで、特定の宝石の名前じゃないんです。だからガーネットの中にも、赤や黄色があるそうなんですよ。これは、スぺサルタイトガーネットっていう名前で、一般的にはあまり出回ってない色なんです」
「…そうなんだ」
知らなかった。
草哉の知識に感心するが、『一般的には出回っていない色』と聞いてふと疑問が浮かぶ。
「あれ、でもこれ、高いんじゃ…」
理恵子の不安そうな顔に、彼はにこりと笑った。
「これは婚約指輪なので、結婚指輪は今度一緒に見に行きましょうね。理恵子さん」
(なんか誤魔化された気がするけど、値段を理由に返したら失礼だし、これ以上は聞かないでおこう)
「ありがとう。草哉君。大切にする」
「菜穂も!菜穂も髪ゴムだいじにする!」
「うん。ありがとう。これからも3人で楽しく過ごそうね」
「うん!」
キラリと光った指輪と菜穂の嬉しそうな笑顔を、理恵子は幸せな気持ちで見つめた。
「ありがとう」
3人で過ごす事が当たり前になった1月のある日。
今日は理恵子の34歳の誕生日で、自宅で菜穂と草哉にお祝いをしてもらっている。
外食があまり好きではない理恵子の為に、お気に入りのレストランでテイクアウトをして、ケーキは草哉の手作りチーズケーキだ。
大好物も嬉しいが、何よりも好きな人たちに囲まれて過ごす誕生日に幸せを感じる。
デザートを食べ終わったタイミングで、草哉が話を切り出した。
「そうだ。今日は、菜穂ちゃんにプレゼントがあるんだ」
ゴソゴソと鞄を探る草哉に、菜穂が不思議そうな顔をする。
「え?今日が誕生日なのはママだよ?」
「うん。そうなんだけど…。この間の言葉が嬉しかったからお礼がしたくて」
「この間?」
「おばあちゃんが来た時、言ってくれたでしょ?『ママがそうや君と別れるなんて許さない』『そうや君はいつもママを助けてくれる』って。あの言葉がすごく嬉しかったんだ。だからお礼だよ」
そう言って、草哉は菜穂に小さな紙袋を渡す。
手のひらサイズの紙袋からころんと出て来たのは、オレンジ色の花の飾りがついた髪ゴムだった。
「うわぁ!可愛い!」
「菜穂ちゃんのポニーテールにぴったりだと思うんだ。つけてみてもいい?」
そう言って菜穂のつけていた髪ゴムを取り、縛りなおそうとする草哉に慌てて声をかける。
「あ、縛るのは私がやるよ」
申し訳ないと思って言ったのだが、草哉は首を横にふった。
「大丈夫ですよ、やらせてください。慣れておきたいので」
「え?」
どういう意味だろうかと考えているうちに、草哉はぎこちない手つきながらポニーテールを完成させる。
毎日やっている理恵子に比べれば、ところどころボコボコで綺麗な仕上がりとは言えないが、慣れないことをやってくれた気持ちが嬉しい。
菜穂も鏡の中の自分の姿を見て、すごく嬉しそうに笑った。
「どう?どう?似合う?」
「うん。すごく可愛い。…あとね。菜穂ちゃんにお願いがあるんだ。」
「なぁに?」
上機嫌にポニーテールを揺らす菜穂に、草哉は真剣な顔で言った。
「俺を、菜穂ちゃんの家族にしてくれるかな?」
「家族?」
きょとんとする菜穂に、草哉は続けて言った。
「菜穂ちゃんのパパが一人だけなのはわかってる。だから新しいパパじゃなくて、家族にしてもらいたいんだ。これからもずっと、菜穂ちゃんや理恵子さんと一緒にいたいから」
(っ、それって…)
「家族ってことは、そうや君もなほたちと一緒に暮らせるの?」
「え?」
菜穂の言葉に草哉が不思議そうな顔をする。
「前にね。ママに、『どうしてそうや君は泊まってくれないの?』って聞いたら、『家族じゃない男の人がずっと家にいると、変な目で見られちゃうから』って言われたの。でも、家族になったら変な目で見られることもないんでしょ?泊まったり一緒に暮らしたり出来るんでしょ?」
「っ」
(そんな風に考えていたなんて)
すると草哉は菜穂に視線を合わせて、笑顔で言った。
「そうだね。菜穂ちゃんがいいって言うなら、一緒に暮らしたいな。いいかな?」
「いいよ!毎日宿題おしえてね!」
「うん。ありがとう」
あっさりと菜穂の了承を得た草哉は、今度は理恵子に向き直った。
さっきまでの子供に向ける優しい顔から一転、真剣な眼差しにドキリと心臓が高鳴る。
彼が鞄から取り出したのは、紺色のリングケース。
それを開けて出て来たのは、中央に花の形の細工があり、その中にオレンジ色の石が埋め込まれているシルバーリングだ。
(綺麗…)
そして彼は一息置いて、静かに言った。
「俺と結婚してください」
「っ!?」
思いがけないプロポーズに、思わず口を手で抑える。
ずっと「将来を考えている」とは言われていたが、直接的な言葉は初めてだった。
感極まって泣きそうになるのを抑えながら、恐る恐る彼に聞く。
「…私で、いいの?」
理恵子にとっては、草哉以上の存在はいないと一緒に過ごしてわかった。
だが、草哉はどうだろうか。
彼はまだ若いから、これからたくさんの出会いがあるかもしれない。
今は好きでいてくれても、そのうち若い女の子を選ぶのではないかと不安になってしまう。
そんな不安を感じとったのか、草哉は理恵子の手を握りながら優しく言った。
「言ったでしょう?俺には、あなた以上の存在なんていないんです。初めて会った時からずっと、あなただけが大好きで、ようやく手に入れたこの幸せな時間を大切にしたい。9年もしつこくあなたを想い続けていた男ですよ?心変わりなんて、絶対にあり得ません。この先の未来もずっと、理恵子さんと菜穂ちゃんと一緒にいたいんです。…俺と結婚してくれますか?」
もう一度聞いてきた彼に、耐え切れず涙があふれると、彼は冗談ぽく言った。
「断られたら、俺、また泣いちゃいますよ?」
その言葉に理恵子は、過去の草哉も思い出して、泣きながら笑った。
「草哉君は泣き虫だもんね」
「今、泣いてるのは理恵子さんですけどね」
そんなやり取りすら、心地いい。
(ああ、やっぱりこの人が大好きだ)
改めて溢れ出る感情に、もうプロポーズの答えは決まっていた。
「私も、草哉君と結婚したいです」
じっと目を見て静かに言った理恵子の言葉に、彼は嬉しそうに笑って、左手の薬指に指輪をはめてくれた。
「すごく綺麗。金木犀みたい」
「知り合いのアクセサリーデザイナーに頼んで作ってもらったんです。やっぱり金木犀は思い出の花だからどうしても贈りたくて。ちなみに、これはなんの石かわかります?」
「え、何だろう。イエロートルマリンとか?」
黄色系で思いついたものをあげてみる。
「実は、ガーネットなんですよ。1月の誕生石の」
「え?ガーネットって、赤だよね?」
よく見る誕生石ペンダントにあるガーネットの色はいつも赤なのに、目の前の指輪の宝石はどうみても黄色よりのオレンジ色だ。
「ガーネットっていうのは、鉱物のグループのことで、特定の宝石の名前じゃないんです。だからガーネットの中にも、赤や黄色があるそうなんですよ。これは、スぺサルタイトガーネットっていう名前で、一般的にはあまり出回ってない色なんです」
「…そうなんだ」
知らなかった。
草哉の知識に感心するが、『一般的には出回っていない色』と聞いてふと疑問が浮かぶ。
「あれ、でもこれ、高いんじゃ…」
理恵子の不安そうな顔に、彼はにこりと笑った。
「これは婚約指輪なので、結婚指輪は今度一緒に見に行きましょうね。理恵子さん」
(なんか誤魔化された気がするけど、値段を理由に返したら失礼だし、これ以上は聞かないでおこう)
「ありがとう。草哉君。大切にする」
「菜穂も!菜穂も髪ゴムだいじにする!」
「うん。ありがとう。これからも3人で楽しく過ごそうね」
「うん!」
キラリと光った指輪と菜穂の嬉しそうな笑顔を、理恵子は幸せな気持ちで見つめた。
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