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告白

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結局、おにぎり2個と味噌汁1杯をおかわりし、全てを美味しく平らげた朝食後。
片付けを終えた日浦に「話がしたい」と伝えると、「じゃあ、コーヒーを淹れるからテレビでも見て待ってて」と再びキッチンに消えていった。
残された舞は布張りの紺色ソファに座って、リビングを見回す。

(さっきは朝ごはんに気を取られて気付かなかったけど、よく見たらリビングは見覚えがある)

壁際に置かれた茶色のテレビ台とその上に置かれたテレビ。
寝室とお揃いのモスグリーンのカーテンがかけられた、ベランダに続く大きな窓。
窓際に置かれた、黒いドーム型の猫用トイレ。

日浦がまだ子猫だったなーさんを引き取ったばかりの頃に、麦野と二人でここに来ていた事を思い出す。

何気なくソファの横を見ると、猫用の玩具やブラッシング用品が籠の中に入って置かれているのが見えて、その中の一つ、片手サイズの猫用ブラシを手に取った。

(これ。私と先輩がプレゼントしたやつだ)

マッサージとブラッシングが出来る優れもので、ペット用品店へ麦野と行った時に購入したものだが、当初はなーさんが怖がって使ってくれなかった。

(今は嫌がらないのかな)

と思ったその時、「ニャーン」という声と共に寝室にいたはずのなーさんが近づいてきて、ソファに座る舞の膝に飛び乗った。

「え?」

そのままくるんと丸くなり、背中を舞の方に向ける。
どうやら、ブラッシングの時間だと勘違いしたらしい。

「あ!こら!なーさん!違うから!」

ちょうど二人分のコーヒーを運んできた日浦が、慌てたように退かそうとしたが、なーさんは頑なに動こうとしない。

「ごめんね、舞ちゃん。…こら!退きなさい!」
「大丈夫だよ。駄目じゃなかったら、ブラッシングしてもいい?」
「もちろんいいけど…」
「ありがとう」

そのまま持っていたブラシで頭や背中を撫でてあげると、なーさんは気持ちよさそうに目を瞑る。
そのあまりの可愛さに、思わず笑みが零れた。

「あー、可愛い♡癒されるー。毛が艶々だねぇ。ふふ、眠そう」

舞は大の動物好きだが、実家が一軒家ではなかった為、動物を飼ったことがない。
一人暮らしを決めた時に、動物可の物件も検討したが、舞の給料では安アパートが限界で諦めていた。
だから、久々に触れる動物のぬくもりと柔らかさに、ひたすら幸せな気持ちになる。

(なーさん、大きくなったなぁ。最後に会ったのは5年前か。先輩が亡くなってから、ここには来てないから…)

「そのままでいいから、俺の話を聞いてくれる?」
「え?…うん」

(話って何?ってか日浦君、めっちゃいい匂いがするんですけど!…なんかドキドキしてきた…)

ギシっと音を立てて、舞の座るソファの隣に日浦が座る。
ふわりと漂った彼の香りと、腕が触れそうなほどの近い距離に心臓が高鳴ったが、気づかないフリをしてなーさんのブラッシングを続けた。

「俺は舞ちゃんが好きだよ」
「っ」

(うそ…今、なんて…)

思わず手を止めて彼の顔を見ると、真剣な瞳と目が合った。
ぶわっと、身体中の血液が沸騰したように熱くなる。
煩いほどの心臓の鼓動が邪魔して何も言えない舞に、日浦は続けた。

「昨日も言ったけど、酔ってて覚えてないかもしれないから、何度でも言うね。俺は高校の時からずっと、舞ちゃんが好きです。俺と付き合って下さい」

(日浦君が、私を…好き?)

自分が何を言われたのか分からず呆然としていたが、ニャッと怒ったような猫の声で我に返った。
力が抜けた手から落ちたブラシが、運悪くなーさんの背中に当たったらしい。

「っ、なーさん、ごめん…あ…」

慌てて謝るが、猫に言葉が通じる訳もなく、機嫌を損ねたなーさんはそのまま舞の膝を降りて寝室に戻ってしまった。

「気にしなくていいよ。あいつ、舞ちゃんに甘えてただけだから。ブラッシング、ありがとね」

舞の膝に落ちたブラシを拾い籠に戻す日浦を見ながら、遠くに行っていた思考がだんだん戻ってくる。

(え…やっぱり昨日のは夢じゃなかったってこと?…でも…)

「たちばな、さんは?」
「え?」

ようやく言葉の意味が飲み込めたけど、今度は別の疑問が生まれる。

「橘さんと、よりを戻したんでしょ?…先週、手帳を届けに来た時に言ってた。『滉大って、えっちの後にいつも寝ちゃうから』って。あの時、いくら電話しても出ないからそういうことかって思った。楠野君から、喫茶店で2人で会ってる写真も見せてもらったし…。なのに、なんで私に好きなんて言うの?」

感情が昂って涙が出てくる。
出来れば、日浦の言葉を信じたいけれど、数日前の莉愛との遭遇が、不安を増長させる。
何故、元カノの莉愛があんな時間に日浦の部屋にいたのか。
何故、舞が日浦と連絡が取れなかったことを、莉愛が知っていたのか。
それら全てを説明してほしいのに、詳しく知るのが怖い。
ボロボロ泣く舞に、日浦が慌てたように言った。

「誤解だよ!よりなんか戻してない!…確かに先週、橘さんはうちに来たけど、忘れ物を探しに来ただけですぐに帰ったし。着信に気づかなかったのも、いつの間にか電源が切れてたからで…」
「忘れ物ってことは、前にここに来たことがあるってことだよね?…先月、居酒屋で飲んだ時に言ってた『なーさんは女の人が家に来ると嫌がる』って言ってたの、あれ、嘘でしょ?」
「っ」

言葉を詰まらせた日浦を見て、それが肯定だと受け取る。

朝からおかしいとは思っていた。
日浦の話を信じていたのに、実際に会ったなーさんはとても人懐こく、女性の舞がいても嫌がる気配は全くなかったから。

「…それは…確かに、嘘、だけど…。で、でも!舞ちゃんを騙そうとかそういうんじゃなくて、あれは…」

(ほら、やっぱり嘘じゃない)

しどろもどろになる日浦に腹が立つ。
彼はいつもこうだ。
必要以上に舞に絡んでくるくせに、自分のことは隠したがる。
先輩とのことも、莉愛のことも、大事なことは何も教えてくれない。

「もういい。帰る」
「舞ちゃん!」

ソファから立ち上がると、彼はぐっと舞の腕を掴んだ。

「離してよ!何で日浦君っていつもそうなの?肝心なことは何も教えてくれないくせに、思わせぶりなことをしていつも私を振り回す!…もうやだ…これだから、現実の男なんて、信用できない…」

こんなドロドロの感情なんて知りたくなかった。
恋愛は二次元で充分って決めてたはずなのに、どうしてこんなにも、彼の言葉に振り回されてしまうのだろう。

「帰したくなくなるからだよ!」
「え?」
「…あの時、嘘をついた理由。…せっかく今まで我慢してきたのに、好きな子と自宅で2人きりになったら、もう歯止めが利かなくなりそうで。…酔った舞ちゃんって、可愛すぎるから…」
「はぁっ?」

予想外の理由にボッと顔が赤くなる。

「っ、とにかく、全部ちゃんと話すから…座って聞いてくれる?」
「…はい」

真剣な顔で言われて、舞は素直に頷いた。
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