357 / 405
356.到着したのは旧赤島
しおりを挟む春になる前に私たちで潰した空賊列島は、大きな島が五つある。
四空王がそれぞれ支配していた四つの島と、新入りの空賊を迎える「玄関の島」である。
これらは素直に、それぞれの島を四国で、一つずつ統治することになった。
そして「玄関の島」は、空賊列島にいた奴隷たち……言ってしまえば先住民のものとして、どこも治めない島とし、そのまま「玄関」の役割を続けることになったらしい。
一ヵ所に四国の所有島がある特殊な場所ゆえに、そういう空白のような島をあえて作ることにしたのだとか。
あとは細かい島をそれぞれで分けて終わり――というのが、夏の直前まで長々と時間を掛けて、会議を重ねて重ねてようやくすべてが決まったことである。
正式にそれぞれの島となったところで、ようやく島に各国の手が入った。
今までは危険で近寄れず、迂回するしかなかった航路が新たに敷かれる。
四国のど真ん中にあるそこは、物流の要にして、四国の人間が通過する大事な分岐点である。
こうなると、もはや四国の玄関先も同然である。
ここに力を入れないようでは、国の面子が立たないし、商人はここを見てどの国を商売相手にするか頭を巡らせるだろう。
この「玄関先」で負けるようでは、物流で負けるのである。
正確には物流の優先度で。
ならば当然、めかしこむ必要がある。
どこの国も――特に商人が血眼になって力を入れ、あり得ないほどの速度で島を自分たち好みに染め上げたんだそうだ。
その辺を考慮すると――確かにアルトワールの玄関先に置くものとして、国のアピールをするものとして選ばれるのは、魔法映像が相応しいだろう。
あれは、説明されるより観た方が色々と早い代物だ。
目端の利く商人なら、決して放っておくこともないだろう。
「――という感じかな。僕の知っている最新情報はそんなところ」
旧空賊列島へ向かう飛行船の中、改めてくどい顔のベンデリオから、現在のあの場所のことを聞いてみた。
今空賊列島はどうなっているのか、と。
「他の国がどうしているかはわからないけど、アルトワールは魔法映像を全面的に押し出す形で島を再建した。中継塔を建てて、放送局を用意して、早くもお披露目が行われるわけだね」
そう、私たちはそのお披露目のパーティーに、これから行くわけだ。
「あとは聞いてないなぁ。ほかの島も各国の手が入ってるはずだけど、さすがに情報が出ないよね。
アルトワールが一番早く島のお披露目をするから、ほかの島はまだ再建中ってところじゃない? きっと、これから地図に記されるだろう名前も公表されると思う」
ああ、そうか。
いつまでも空賊列島なんて呼ぶわけにもいかないしな。新しい名前が付けられるのか。
数日の船旅を経て、旧空賊列島が見えてきた。
最後に見たあの群島には、たくさんの空賊船が浮いていたが――今はそんなものはなく、数隻の軍船が見回りがてら飛んでいるだけだった。
遠目で見た感じでは、あまり変化はなさそうだ。
……というか、私はフラジャイルが支配していた赤島くらいしかよく知らなかったな。ほかは「玄関の島」に少し行ったことがある程度だ。
私たちの船に近づいてきたアルトワールの軍船に身分証と招待状を提示し、島に誘導してもらう。
奇しくも、というか、アルトワールが自領としたのは、その旧赤島だった。
「――ニア!」
赤島に到着し、なんだか懐かしい気持ちで港に降り立つと、赤毛の少女が駆け寄ってきた。
レリアレッドだ。
あと、後ろからぞろぞろとシルヴァー領の撮影班も走ってきている。
「レリア。ひさ、しぶり」
ダイレクトに飛んできた彼女を受け止める。うむ、大きくなったな。……そうでもないか。夏に会ったばかりだしな。
「撮影中?」
「一応準備だけ。今は下見をしてたの。この辺何がどうなってるのかな、って。――あ、ベンデリオ様。お久しぶりです」
シルヴァー領の撮影班は、これからやってくる各国の要人の出迎えと、挨拶みたいなものを撮影する予定らしい。
セレモニーでは、この時の映像を流しつつ簡単に魔法映像の説明をするのだとか。
つまり開局一発目の映像は、招待客の映像となる予定なんだとか。
王都放送局だけでは手が足りず、放送局を持つ各領への応援が要請されている――だからシルヴァー領もここにいるし、ベンデリオ率いるリストン領の撮影班もここにいるのだ。
「今到着したのよね? この島知らないよね? すっごいわよ! もうほんとすごいの! すごいことになってるわよ!」
お、おう。そうか。
……まあ、アルトワールの玄関先になる予定の場所だからな。あの王様が力を入れないわけがないから、そりゃすごいことになっていてもおかしくないだろう。
レリアレッドの興奮の理由もすぐにわかるだろうから、今はあえて聞かないでおこう。ささやかな楽しみをとっておきたい。
「何がすごいか聞きなさいよ!」
どうやら何も聞かない私が不満らしい。
見慣れているはずだが、雰囲気が丸々違うせいか違う場所のようだ。
かつては奴隷が貧しい生活をし、空賊どもが堂々と歩いていた赤島は、ほぼ住人のみを入れ替えた形でそのまま残っている。
まあ、まだここを制圧して半年ちょっとだ。
いずれは、すべてが痕跡もなくなり近代的な建物や文化に溢れるかもしれないが、まだすべてを作り変える時間はない。
記憶にある赤島と現在に違和感を感じつつ、レリアレッドの話を聞きながら、知っている場所を案内される。
どうやら放送局は、島の隅の方に広くスペースを取り、新しく建てられたようだ。運んできた機材などのチェックや調整をしている最終段階にあって、今は立ち入り禁止らしい。
まあ、どうせセレモニーの時に行くので、今はいいだろう。
大工や職人らしき人たちが、ばたばた走り回っているのが目に付く。
「必要な部分の建て直しや補強は終わってるけど、それ以外がまだ手付かずなんだって」
来賓を迎える準備はできているが、それ以外はまだだと。
古くぼろい建物は壊され、どんどん新しい建物が建てられている真っ最中なのだ。
「……おお!」
かつては雑多だったが、今はがらんとした大通りに出た瞬間、レリアレッドの興奮の原因がわかった。
――私が競りに出された広場に、見上げるほど大きな魔晶板が設置されていた。
ヴァンドルージュの結婚式で見た巨大なものより、更に大きいものだ。遠目からでもよく見えるほどに大きな魔晶板だ。
もしかしたら上を飛ぶ飛行船からでも観えるかもしれない。
まだ映像こそ映っていないが――映ったらすごい迫力の画になるに違いない。
「すごいでしょ!」
レリアレッドが威張る理由はわからないが、確かにすごい。
「あれさ、常設なんだって。ずっと映像を流し続けるんだって」
なんと。
ずっとだと。
「……さすがは王様ね」
あれだけ大きな魔晶板をずっと点けっぱなしにするだなんて、原動力たる魔核がどれだけ必要になることか。
ベンデリオの言っていた通り、この島の重要性を王様はよくわかっている。
あれほど目立つあの巨大魔晶板を観れば、嫌でも魔法映像のすごさが一目でわかるだろう。
アルトワールの玄関先に、アルトワールの顔として置くには、これ以上相応しいものはないと思う。
……金掛けたなぁ、王様。本気だな。一国の王の本気って怖いなぁ。
21
お気に入りに追加
511
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜
青空ばらみ
ファンタジー
一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。
小説家になろう様でも投稿をしております。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる