狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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343.空賊列島のその後

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 秋が深まり、風に冷たいものを感じるようになってきた昨今。

「……」

 うーん……なんか違和感が……

「いやあ、今日も強かったねぇ、ニアちゃん。安心して見てられるね」

 ちょっと気になることに頭を使っていると、ベンデリオがくどい顔で話しかけてきた。

 今し方、今日の試合が終わったところだ。
 相変わらずウーハイトンには、多種多様の流派と、毎日消化されているにも関わらず尽きることない武人たちが多く存在している。

 今日も四名ほどの挑戦者の相手をし、お帰り願ったところだ。

 撮影に関しても特にトラブルはなく、アルトワールからやってきたベンデリオと撮影班は、彼らは彼らでいろんな撮影や企画を練っているらしい。

 いずれ私に企画が回ってきて「何かしろ」と言い出すかもしれないが……まあ、今のところは何もない。

 というか、言い出すだろうな。
 ベンデリオは面白い企画が思いついたら、私になんて遠慮しないからな。根っからの業界人で、我もこだわりも強いその様はもはや職人に近い。

「なんか浮かない顔してるけど、どうかした?」

「ああ、いや……」

「もしかして拉麺続きでうんざりしてる? ごめんねぇ、おじさんワガママ言っちゃって」

 ん? ああ、ウーハイトンの麺料理の一つだな。
 ベンデリオを始め、撮影班の男たちが妙にハマッているんだよな。

 というか、リノキスがハマッてるんだよな。
 撮影班が先でリノキスに勧めたのか、それともリノキスが先に好きになって撮影班に伝えたのかは知らないが。

 とにかく、ここのところ我が家の夕食は、二日に一回は拉麺だ。

 夕食は撮影班も一緒になることが多いので、多くの者のリクエスト料理として給されているのだ。
 まあ、私も嫌いじゃないから、それはいいんだが。毎回違う味だし。拉麺だけしか出ないわけでもないし。

「食事のことじゃなくて。最近西方武器を扱う人が多いなって思っていただけです」

 ロングソード、ブロードソード、ダガー、シミター、モーニングスター、メイス等々。

 それらはウーハイトンではあまり見ない武器で、それゆえ流派の数はかなり少ないはずだ。

 世界的に有名な、魔王殺しの聖騎士アルフィン・アルフォンを祖としたアルフォン剣術と、起源は知らないが速度を重視したサトミ速剣術などの道場は、ウーハイトンにあってもおかしくない。
 もちろんほかの流派があっても、不思議ではないだろう。

 ただ、決して多くはないはずだ。
 私が相手をしてきた挑戦者たちは、ほぼ半分が無手での武を磨いていた。そんな彼らがあえて西方武具を選ぶだろうか、というのが引っかかっていた。

 なんというか、強さの系統というか、武の種類がちょっと違うんだよな。

「あれ? もしかしてニアちゃん知らないの?」

「何をです?」

「西方武器? を使っているのは、ウーハイトンの人たちじゃないよ」

 …………

「え?」

 どういうこと? どういう意味? 

「じゃあ彼らはなんなんですか?」

 挑まれているから受けて立っているが……

 なんだ?
 私は今まで何を相手にしていたんだ?

「彼らは外国から来た腕自慢たちだよ。みんなニアちゃんの力が本物かどうか確認しに来ているみたいだよ」

 は? 外国?

 ……あ、そうか。

「夏休みの映像が流れたせいか」

 あの番組はただのウーハイトン観光みたいだったが、最後に私が戦った姿が放送されたはず。
 それが反響を呼んで、「実際にニア・リストンは強いのか?」みたいな意見が出て、実際に会いに来る者がちらほら出てきた、と。そんなところか。

 そうか。
 私はずっとウーハイトンの武人を相手にしていたつもりだったが、実は外国人も混ざっていたのか。そりゃ種類が違うと感じるわけだ。
 
 ――でもまあ、それなら納得だな。

 私の動きが気になる者は確実に玄人だ。
 そしてあの一戦で「何が起こったのかわかった者」なら、私の強さが気にならないわけがない。

 要するに、あの映像は観る者が強ければ強いほど、私の強さが理解できるのだ。 
 それこそ外国に飛んででも直接やり合ってみたいと思う者が出てくるのも、無理はないと思う。

 逆の立場なら、私だって何が何でも、どこにいようと会いに行くだろうからな。
 外国?
 なんの問題もない。

 そんなことを考えていると、撮影班の一人がこちらに向かって声を上げた。

「――監督、撤収準備できました。次の現場に行きましょう」

 お、今日の撮影班は次の予定があるのか。ちなみにベンデリオは現場監督という肩書きで、撮影班の責任者である。

「ああ、流水麺を発明した爺さんの取材があったね」

 どうやら、数多い麺の生みの親を訪ねる企画をやり始めたらしい。

 ウーハイトンに観光客を呼ぶ企画としては悪くないと思う。
 まだまだ来たことのないアルトワール住民にとっては「よく知らない国」だろうから。

「じゃあ僕らはもう行くね――おっと、そうそう。ニアちゃんに伝言があったんだ」

 行こうとしたベンデリオが止まり、戻ってきた。

「だいたい一ヵ月後かな? 新しい放送局の開局セレモニーがあるから、ぜひニアちゃんに出てほしいってお父さんが」

 え?

魔法映像マジックビジョンの新たな放送局ができるんですか?」

 私が不在になってから、アルトワールではチャンネルが増えたらしいが……また増えるのか?

 あれ?
 いや待てよ?

「ベンデリオ様。表向きは隠してますが、私はアルトワールから追放されている身です。アルトワールには帰れませんよ?」

 もしやベンデリオはその辺を知らないのか? 父親も忘れてやしないか?

「ああ、大丈夫大丈夫。開局するのは中継島……あ、まだ名前の発表はされてないか」

 と、ベンデリオは一人で納得して、しゃがみこんで私の耳に近づいた。

「――セレモニーの場所は、君が手に入れてくれた空賊列島だよ」

 な、何……!? あの空賊列島か!? あそこに開局するのか!?

「あの辺の島の一つに放送局と中継塔ができる予定なんだ。行く行くはウーハイトンやアスターニャにも魔法映像マジックビジョンが伝わり、中継塔で繋がるんだよ」

 お、おぉ……

「大きな話ね……」

「そうだね。おじさんなんかは一地方局員でしかないから方針に口出しなんてできないけど、国のトップは大層なことを考えるよね」

 そうだな……さすがはあの王様だな。やることが大きい。

 というか、第二王子ヒエロの意思と意向、あるいは野望である可能性も高い気がするが。
 何せ私に空賊列島のことを吹き込んだのは、あいつだからな。

 この結果は、ヒエロが描いていた未来予想図そのままなんじゃなかろうか。

「まだ公表されてないから秘密にしといてね」

 そう言って、ベンデリオはくどい顔でくどいウインクをして行ってしまった。




「……空賊列島に放送局ねぇ」

 確かにヒエロは言っていたな。あの場所がほしいと。

 まったく。
 知らないところでいろんなことが動いているものだ。

「――お嬢様」

 さっきとは違う意味で気になることに頭を使っていると、リノキスがやってきた。

「撮影班の方々、今晩は一緒に食事はしないそうです」

「みたいね」

 撮影に行ってしまったからな。

「夕飯は拉麺でいいですか?」

「……別にいいけど。好きねぇ」

 まあ、私も嫌いじゃないけど。



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