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299.空賊列島潜入作戦 本体 11
しおりを挟む「はあ……身につまされるぜ」
煙草の煙を吐きながら、アンゼルが小さくぼやいた。
酒場の経営者なだけに、店内で暴れることに非常に抵抗があったのだ。
もし自分の店でこんなことがあったらと思うと、本当に他人事とは思えない。
ちなみに「目覚めの大砲亭」では乱闘騒ぎはよくあることで、最終的な店の損害は「負けた連中」が負うのがルールだと、リグナーは言っていた。払わなければ空賊列島に出入り禁止になるとか。
こういうところも空賊列島ならでは、ということなのだろう。
「なあリーノ。俺の店で同じことしたら絶対に殺すからな」
「やらないって。こんな時でもなければやる理由はないでしょ」
比較的早めに叩きのめした空賊と、もうどうしようもないほどぐっちゃぐちゃになった「目覚めの大砲亭」から出てきたところである。
鍛え方が違うだけに、勝負にさえならなかった。
聖女を含めて怪我人なし。店内がぐっちゃぐちゃになったこと以外はなんの問題もなかった。
必要な情報は得たし、ついでに必要なこともこなしたので、もうこの島にいる理由はない。
――計らずも情報をくれたばかりか、空賊としての対応もできたので、もうリーノたちを空賊以外の何かと誤解する者はいないだろう。
空賊としての実績作りと対外的アピールは、これで充分だ。あれで周辺国の仕事だとは思うまい。
もし気取られたら逃げられる可能性が高いので、まだ素性がバレるわけにはいかない。
あとは空賊どもをできるだけ逃がさないようにしつつ空賊列島の掃除をして、四国の空軍を配備すれば、制圧作戦は成功である。
「それにしても堂に入り過ぎていたぞ、キャプテンが」
ガンドルフの言う通り、アンゼルもフレッサも聖女フィリアリオも、リーノの空賊っぷりはなかなかのものだと思っていた。
しゃべるとボロが出そうなので、全員極力発言は控えていたが――それに反して、キャプテン役の空賊感はどうだ。
「そりゃよかった。たくさん演劇や歌劇の映像を観たおかげだと思う。あとリグナー船長にも色々教わったしね」
リーノは相当な魔法映像っ子である。空賊の振る舞いに関して参考になった映像もあったのかもしれない。
「聖女様、問題ありませんでしたか?」
リーノが見る限りでは、縛られて目隠しされてフレッサに引き回されている体のフィリアリオには、白いワンピースに血の痕も酒染みもないが。
「ええ。なかなか刺激的で楽しかったわ」
本人も同意した。
ちなみに乱闘中、フィリアリオはフレッサに庇われている裏で、派手な曲をノリノリでやる演奏家たちに流れ弾などが行かないよう「結界」を張っていた。
こんな荒くればかりの場所で音楽をやっているだけあって、目の前で乱闘が起こっても退かない彼らの度胸も、かなりのものである。
まあ、ああいうのも慣れているのだろう。
「赤島に移動しよう」
あとはリリーと合流することで一段落だ。
リーノにとっては長い長い別行動だっただけに、そろそろニアに会わないと心配で心配で身がもたない。精神ももたない。会いたくて仕方ない。
「その前に、フラジャイルの船はどうする? 師匠が指示を出したとか言っていたが」
「師匠じゃなくてリリーね。――まあ、奴隷はリリーの物だって話だし、一緒に移動させた方がいいかもね」
そんな相談をしながら、リーノらは船に引き上げるのだった。
そして――
いそいそと船に乗り込み、フラジャイルの大型船と共に「玄関の島」から飛び立つ。
赤島に近づくに連れて――眼下の港の人影が、はっきりと見えてくる。
いつもの白髪じゃないが、あれももう見慣れた黒髪の姿。
案の定というか、いつも通りというか、予想の範囲内というか、子供たちに囲まれて雪毒鈴蘭の船を見上げているその姿は、アルトワールで別行動を取った時のままだ。
「ごめん先行く!」
もう我慢できなかった。
甲板で助走をつけたリーノが、船首から飛んだ。
帽子を手で抑えつつ赤いコートをはためかせ、常人には考えられない高さと距離があるのに。
だがなんの問題もなく港に着地し、
「――リリー!」
人くらいなら撥ね飛ばすような勢いと速度で迫ったリーノを……いや、リノキスを、ニア・リストンは事も無げに受け止める。
「――うん。待ってた」
約一ヵ月に及ぶ別行動の果てに、ようやくリリーと本体が合流した。
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