狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

文字の大きさ
上 下
300 / 405

299.空賊列島潜入作戦 本体 11

しおりを挟む




「はあ……身につまされるぜ」

 煙草の煙を吐きながら、アンゼルが小さくぼやいた。

 酒場の経営者なだけに、店内で暴れることに非常に抵抗があったのだ。
 もし自分の店でこんなことがあったらと思うと、本当に他人事とは思えない。

 ちなみに「目覚めの大砲亭」では乱闘騒ぎはよくあることで、最終的な店の損害は「負けた連中」が負うのがルールだと、リグナーは言っていた。払わなければ空賊列島に出入り禁止になるとか。
 こういうところも空賊列島ならでは、ということなのだろう。

「なあリーノ。俺の店で同じことしたら絶対に殺すからな」

「やらないって。こんな時でもなければやる理由はないでしょ」

 比較的早めに叩きのめした空賊と、もうどうしようもないほどぐっちゃぐちゃになった「目覚めの大砲亭」から出てきたところである。

 鍛え方が違うだけに、勝負にさえならなかった。
 聖女を含めて怪我人なし。店内がぐっちゃぐちゃになったこと以外はなんの問題もなかった。

 必要な情報は得たし、ついでに必要なこともこなしたので、もうこの島にいる理由はない。

 ――計らずも情報をくれたばかりか、空賊としての対応もできたので、もうリーノたちを空賊以外の何かと誤解する者はいないだろう。

 空賊としての実績作りと対外的アピールは、これで充分だ。あれで周辺国の仕事だとは思うまい。
 もし気取られたら逃げられる可能性が高いので、まだ素性がバレるわけにはいかない。

 あとは空賊どもをできるだけ逃がさないようにしつつ空賊列島の掃除をして、四国の空軍を配備すれば、制圧作戦は成功である。

「それにしても堂に入り過ぎていたぞ、キャプテン・・・・・が」
 
 ガンドルフの言う通り、アンゼルもフレッサも聖女フィリアリオも、リーノの空賊っぷりはなかなかのものだと思っていた。
 しゃべるとボロが出そうなので、全員極力発言は控えていたが――それに反して、キャプテン役の空賊感はどうだ。

「そりゃよかった。たくさん演劇や歌劇の映像を観たおかげだと思う。あとリグナー船長にも色々教わったしね」

 リーノは相当な魔法映像マジックビジョンっ子である。空賊の振る舞いに関して参考になった映像もあったのかもしれない。

「聖女様、問題ありませんでしたか?」

 リーノが見る限りでは、縛られて目隠しされてフレッサに引き回されている体のフィリアリオには、白いワンピースに血の痕も酒染みもないが。

「ええ。なかなか刺激的で楽しかったわ」

 本人も同意した。

 ちなみに乱闘中、フィリアリオはフレッサに庇われている裏で、派手な曲をノリノリでやる演奏家たちに流れ弾などが行かないよう「結界」を張っていた。
 こんな荒くればかりの場所で音楽をやっているだけあって、目の前で乱闘が起こっても退かない彼らの度胸も、かなりのものである。

 まあ、ああいうのも慣れているのだろう。

「赤島に移動しよう」

 あとはリリーと合流することで一段落だ。
 リーノにとっては長い長い別行動だっただけに、そろそろニアに会わないと心配で心配で身がもたない。精神ももたない。会いたくて仕方ない。

「その前に、フラジャイルの船はどうする? 師匠が指示を出したとか言っていたが」

「師匠じゃなくてリリーね。――まあ、奴隷はリリーの物だって話だし、一緒に移動させた方がいいかもね」

 そんな相談をしながら、リーノらは船に引き上げるのだった。




 そして――




 いそいそと船に乗り込み、フラジャイルの大型船と共に「玄関の島」から飛び立つ。
 赤島に近づくに連れて――眼下の港の人影が、はっきりと見えてくる。

 いつもの白髪じゃないが、あれももう見慣れた黒髪の姿。
 案の定というか、いつも通りというか、予想の範囲内というか、子供たちに囲まれて雪毒鈴蘭スノー・リリーの船を見上げているその姿は、アルトワールで別行動を取った時のままだ。

「ごめん先行く!」

 もう我慢できなかった。

 甲板で助走をつけたリーノが、船首から飛んだ。
 帽子を手で抑えつつ赤いコートをはためかせ、常人には考えられない高さと距離があるのに。

 だがなんの問題もなく港に着地し、

「――リリー!」

 人くらいなら撥ね飛ばすような勢いと速度で迫ったリーノを……いや、リノキスを、ニア・リストンは事も無げに受け止める。

「――うん。待ってた」

 約一ヵ月に及ぶ別行動の果てに、ようやくリリーと本体が合流した。



しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜

青空ばらみ
ファンタジー
 一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。 小説家になろう様でも投稿をしております。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

処理中です...