狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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204.逮捕されたけど

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 少しばかり夜も深まってきた頃、マーベリア王都に帰ってきた。

「――ニア・リストン! 強盗と恐喝と殺人未遂で逮捕する!!」

 門を潜った辺りで、待ち構えていた憲兵たちに囲まれた。

 その数ざっと三十人。
 しかも憲兵所属の機兵が二機。

 子供一人を捕らえに来たという割には、なかなかの過剰戦力である。
 まあ私相手なら全然足りないがね。この程度の者たちなら万単位はほしい。
 
「ね、言った通りでしょ?」

「言った通りというか、なんというか……」

 リノキスは深い深い溜息を吐いた。

「愚かすぎて何も言えません」

 そうか。
 まあ、概ね私もだ。

 ……いや、今のところ面白いかな。この後のことを考えると、これもまた楽しみの一つという感じだ。

「な、なんだ!? どういうことだ!? おいヘーデン、何があった!?」

 朝からずっと一緒にいたソーベルは、この状況が本当にわからない。戸惑いながら囲んでいる憲兵たちの代表格らしき男に呼びかける。

「そこのニア・リストンは、今朝ダージョル・サフィーを襲って金を奪った極悪人だ。本人の証言も、目撃情報も、腐るほどある。もはや疑いようもないほどにな。
 現場はひどい有様だった。死者が出なかったのが不思議なくらいの惨状だ」

「ダ……あのダージョルか!? 本当に!?」

 ソーベルが、間違いないのかと言わんばかりの顔で私を振り返る。――今日の出稼ぎで、ソーベルは私がそれをできることを知っているので、疑惑の目は当然である。

「襲ったというのは語弊があるわね」

 この場の全員に弁明を求められているようなので、言っておいた。

「彼らが散々ケンカを売ってきたから、そろそろ買わないと失礼だと思った。だから買った。それでも私は正当防衛だと思っているし、やらなければいずれ私の屋敷の者が殺されると思った。だからやることにした。
 これでいいかしら?」

「いいわけあるか!」

 えっと、ヘーデン? とかいう偉そうなおっさんが吠えた。

「おまえがやったことはすべて犯罪だ! 罪の意識はないのか!? 外国人の子供とは言え、あれだけのことをやってただで済むと思っているのか!?」

 愚問を重ねられても困るな。

「あなた、ダージョルに賄賂とか貰っていたの?」

「は……!?」

「だって彼らの言い分は聞き入れてこの様なんでしょ? でも私の言い分は聞かないんでしょ? 頭から逮捕するって言っているものね。正当防衛だって言っているし、正当防衛の証拠もあるじゃない。毎日毎日私の屋敷に夜襲が来ていたことは知っているでしょ? あれを止めるには本人に直接お話しするしかないでしょ? 引き渡した罪人たちはどうなったの? 全員逃がしたの? ダージョルの頼みを聞いて。

 ああいいのよ、いいの。
 ダージョルと憲兵、国の要人、貴族が繋がっているなんて、最初から予想できたことだから。責める気はないわ。こうなるかもって思ってもいたから」

 そう、ここまでは本当に予想通りの流れだ。

「するんでしょ? 逮捕。しないの?」

 ――こうして私は逮捕されたのだった。




 憲兵の詰め所に連れて行かれた私は、両手を縄で縛られたまま、狭く小さい取調室に連れ込まれた。
 殺風景な部屋だ。まあ取調室だからな。

 正面にいるのはヘーデン、そして横に若い憲兵がいて私を睨んでいる。こっちのは脅し役だな。

「おまえは何をしにマーベリアにやってきた?」

「留学だけど」

「ふざけるなよ。ただの留学生にしてはやっていることが滅茶苦茶だ」

「そう? そうでもないでしょう?」

 私は肩をすくめた。

「ケンカを売ってきたのはそちらが先。何事もすべて。吹っ掛けてきたくせに返り討ちに遭ったからって、泣きながら上に上に訴えているのが今。
 知らないわよ? きっともうすぐマーベリア国王まで行くけど、大丈夫? 国の恥を晒す上に腐敗した憲兵のことが周知されるわよ?」

 横の若い憲兵がテーブルを叩いた。

「誰が腐敗してるって!? 外国のガキが調子に乗るなよ!」

「口の聞き方に気を付けなさい。私はマーベリア国王が貴族と認めた身分を持つのよ。それとも怒鳴りながらじゃないと子供とおしゃべりできないタイプ?」

 脅し役の彼は、私の胸倉を掴んだ。

「調子に乗るなと言っているんだ!」

「おかしいわね? 警告さえ聞く気がないの?」

 胸倉を掴む彼の腕を、私はぐっと力を込めて掴む。

「ぎっ、いっ……!」

「どうしたの? 痛そうな顔して。マーベリアの憲兵って子供に握られただけで折れちゃうほど骨が弱いの? 折っていい? ぼきっとやっちゃいましょうか?」

 ニヤニヤしながら若い憲兵に言うと、本気にしたのか顔を青ざめた。まあそこそこ本気だが。

「やめんか! ニア・リストン!」
 
「あら。あなたも口の聞き方を知らないの?」

 ギリギリと腕を締めあげながら、ヘーデンを見据える。

「怒鳴らずとも聞こえるし、脅さずとも話はしているじゃない。ある程度言葉が砕けても文句も言わないし。これ以上を求められても困るし、要求に応じる気もないの。
 それとも、いっそ憲兵全員で掛かってくる? この際それでもいいわよ、私は」

「わ、わかった! わかったから、離してくれ!」

「――ごめんなさいは?」

「な……」

「二人とも、ごめんなさいは? 言わないと、脅されたショックで思わずぼきっとやっちゃうかもしれないけど、それでいい?」

 そろそろわかってほしいものだ。
 すでに私の仕返しは始まっているし、遠慮する気もないということに。



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