狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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152.夏休みの直前に

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 ――「うおおおおおおおおお! 我! 最速!」

 うん、何度聞いても感情の入ったいい雄叫びである。

 あと数日で夏休みというところで、学院準放送局が撮った映像は見事に放送権を獲得。なんとか開局初の勝利を飾ったのだった。
 
 そう、勝利だ。
 王都放送局が使えると判断しないと放送されない以上、これは勝敗で括るべき歴とした勝負事である。

 まあ、勝負はこれからも続いていくだろうから、いつまでも一つの勝ちに浸ってもいられないとは思うが。

 ただ、これでお披露目はできただろう。
 そして、感涙さえ流し高らかに叫ぶキキニアの勇姿は、魔法映像マジックビジョン初登場としてはなかなか強烈な印象を残すはずだ。
 滑り出しは悪くないと思う。

 やはり勝負形式というのが面白いのか、開始から終わりまでわかりやすくまとめてあるおかげで、すでに二回は再放送されているのを確認した。
 平均台で踏み外して転ぶ者がいたり、派手に泥の水たまりに落ちたりといった「面白い部分」や、あざやかに障害を突破していく上位順位者の優秀な姿は、少なくとも小学部の女子寮ではかなり評判がいい。

 そして、運動能力が優れているという前評判を証明するように見事に勝利をもぎ取ったキキニアの雄叫びも、何度か観ている。

 とにかく、これでようやく一勝だ。 
 学院準放送局の戦いはこれからである。

「フッ。お嬢様を差し置いて最速ですか。ハッ。あーおかしい。おかしいおかしい」

 リノキスが鼻で笑いながら低い声でぼやいている。子供の言うことに大人げない侍女である。

 ――さて。

 不意に映ったので観てしまったが、私はこれから不届き者である宿題の奴を片付けてしまわねばならないので、一旦魔法映像マジックビジョンの映像を切った。

「アンゼルたちには伝えてくれた?」

「え? ええ。返答は日程が決まってからするとのことですが、前向きに検討してできる限り行く方向で努力する、とのことです」

 お、前向きにか。なら行く可能性は高いようだ。

「お嬢様の方は?」

「ガンドルフは必ず参加するって。置いて行ったら泣くって言われたわ」

「あいつはお嬢様に甘えすぎだと思います。見せしめに骨の二、三本くらい貰っておきましょう」

 いやあ、リノキスほどじゃないだろう。発言の内容が不毛なので言わないが。

「リネットの返答は知っての通りね」

 今日の修行中に声を掛けた時、リノキスも一緒にいた。
 彼女の返事は一緒に聞いている。

 まあ、誘う前からわかってはいたが。
 兄ニールから離れられないし離れたくもないからごめんなさい、と言われてしまった。

「お嬢様の誘いを断るなんて無礼者でしかないですね。骨の二、三本くらい貰っておきましょう」

 誘いに乗っても「甘えすぎ」、誘いを断っても「無礼者」か。まったくリノキスは安定していつも通りだな。

「とにかく、だいたいの面子は決まったわね。後は日程か」

 なんとか一週間くらい捻出できればな……
 またスケジュールが恐ろしいことになりそうだが、できるだけ詰めてもらうか。

「ああ、それからセドーニ商会ですが、高速船を用意しておくから日程が決まったら教えてほしいとのことです」

「よくやった」

 高速船を押さえたのは大きいぞ。




 学院準放送局のことは、放送権を勝ち取ったここで一段落である。
 また困難や問題が起こった時は、呼ばれることもあるかもしれないけれど、所属していない私の出番なんて多くない方がいい。

 それより、例の十億クラムの話だ。

 目前に迫っている夏休みが勝負所である。
 王様は「四億あればいい」と伝えてきたので、ひとまず四億……これまでの貯金が二億ほどあるので、残り二億くらいを稼げれば、国を挙げての大規模武闘大会は開かれることとなる。

 多ければ多いほどいいというから、できるだけ稼ぎたいところだ。
 お祭り騒ぎのような者なのだから、どうせやるなら大きく派手にやってやりたいものである。

 ――そして、今度の狩猟旅行には、弟子たちも連れて行くことにした。

 人手が多い方が楽だし、二人で……というか冒険家リーノとその弟子という構図よりは、それなりに強そうな集団が飛び回った方が、説得力があるだろう。

 今度の夏が勝負所だ、少し派手に狩り回る計画を立てている。成功すればそれこそ五億以上は稼げると思う。

 今や王都を代表すると言われる冒険家リーノに一人で背負わせるには、少々一度に稼ぐ額が多すぎるので、あくまでも今回はパーティーで動いているという形を強調しておきたい。

 それと、リノキス以外はどうしても面倒を見る時間が少なすぎるので、弟子の武者修行も兼ねている。
 実際彼らがどれくらい伸びているかも、ぜひ実戦で確かめたいところだ。




「観てた?」

 うん。

「さすがにノックはしようね」

 寝る前のこの時間、毎晩入り浸りに来るレリアレッドは、最近ノックせずいきなり入ってくるようになった。

 これはよくない。
 子供とは言えど貴人の娘としての慎みとか、そういうのが欠如していると言わざるを得ない。

「でも開けてくれるし」

 まあ、彼女が来る気配を察してノックする前にドアを開けるリノキスの早すぎる対応も、問題なのかもしれないが。

「それより観てた? さっきも再放送やってたよ」

 例の障害物走の話だろう。

「少しだけね」

 もはや我が物顔でテーブルに着き、レリアレッドはさっき私が切った魔法映像マジックビジョンを点けた。

 もう毎晩のことなので慣れてしまった。彼女のことは放っておいて、私は不届き極まりない宿題の奴めを叩きのめしてやろう。

「思ったよりいい映像撮れてたね。やっぱり企画から関わると思い入れが違うなぁ」

 同感である。最近は企画に口出しすることなんてあまりないから。




 直前にちょっとした問題もあったが、なんとか解決にこぎつけることができた。
 これですっきりした気持ちで夏休みを迎えられそうだ。




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