55 / 405
54.学院生活一週間を過ぎて
しおりを挟む「――結構長いわね。見せ物状態」
「――いいじゃない。これもまた広報よ」
挨拶をしてくる子。
遠巻きに見ている子。
遠くもなく近くもない冷静な距離で、常に様子を見ている子。
レリアレッドの言う通り、「結構長い見せ物状態だ」とは感じる。すごい見られているから。違う教室の子や違う学年の子も見に来るくらい、すごい見られているから。そんなに見るところがあるかってくらい見てくるから。
気になるなら声を掛けてくればいいのに。
しかし、そこまでやる子はほとんどいないし。
まあ、これでも、広報活動の一巻にはなっているのだろうと信じたいものだが。
寮にある魔法映像で私やレリアレッド、ヒルデトーラを観た子供には、生で見る本人が物珍しく見えてしまうのだろう。
入学式の前から始まり、学院生活が一週間を過ぎても、周囲の子供には見せ物だか腫れ物だかって距離感を保ちつつ観察されている、というのが現状である。
周囲もすぐに慣れるだろう、と思っていたのだが。
意外とそうでもなかったようだ。
今年の小学部新入生は、百人ほどになるという。
例外がなければ、アルトワール王国中の六歳児が集められ、六年間ここで一緒に過ごすことになる。
約二十五人ずつで教室別に分けられ、教室単位で学院の用意した授業や学内イベントをこなしていくのだ。
一年生から数えて二年、三年と続き、最上級は六年生。
つまり私やレリアレッドは一年生になる。教室は四組。なお、幸か不幸かレリアレッドとは同じ教室となった。
ちなみに兄ニールとヒルデトーラは三年生である。
窓際の一番後ろの席をレリアレッドと並んで陣取り、見せ物になりながら、まだ慣れない学院生活を送っている最中だ。
なお、当然のことながら、教室にまで侍女を連れてくることはできない。
使用人はあくまでも、生活周りの世話をするために認められているからだ。
「ヒルデ様から何か連絡あった?」
やはりレリアレッドもその辺が気になっているようだ。
「いいえ何も。ただ、連絡がないということは、企画を詰めている最中なんじゃないかしら」
却下だったらまた会議をするだろうから。……学院に通っているかどうかも確かめていないが、さすがに休んではいないだろう。
第一回魔法映像普及活動会議でヒルデトーラが飛び出してから、もう四日が過ぎている。
進展がよくわからないが――まあ気にしても仕方ない、という気持ちもある。
「私のところ、そろそろ撮影が始まりそうなの」
昨日、両親から手紙が届いた。
そろそろ撮り溜めていた「職業訪問」が放送し終わるから、撮影を再開したい、と。
入学式の直前から昨日まで、と考えると、こんなにも撮影がない日が続いたのは魔法映像に出始めてから初めてのことである。
「あ、うちもそろそろやるって」
シルヴァー領も、そろそろって感じのようだ。
「お互い忙しくなりそうね」
学院生活は始まったばかりで、まだまだ慣れないことも多い。
見せ物状態も含めて。
この上、撮影まで始まるとなると――また修行する時間が取れなくなってしまうのかな。ここのところ、そこそこ充実した修行ライフを送れていたんだけどな。リノキスも毎日泣いて喜んでいたのにな。
「あ、そうだ。ニア、またうちの番組出てよ」
「うん?」
「ほら、入学前に制服着た姿、一緒に映ったでしょ? うちの領ではかなり評判がよかったみたい。ぜひまた出てほしいってさ」
ああ、あれか。兄と一緒に映ったやつだな。
シルヴァー領では評判がよかったみたいだが、リストン領での評判は聞いたことがないな……まあ、たぶん悪くはないだろうとは思うが。
「悪いけれど、私の一存では決められないのよね。前のはあくまでも飛び入り扱いだから」
「何? ギャラの問題? それともスケジュール?」
「それもあるのかもね。
私は両親の意向、ひいてはリストン家の意向で動いているから。だからリストン家の意に反した言動は遠慮したいのよ」
リストン家の命を聞き入れるのは、私の義務だ。
私は口も出すし意見も出すし手も足も出すし、許可さえあれば「氣」だってバンバン出したいところだが。
何より最優先はリストン家のことである。
そこは揺らぐことはない。
「つまり家のため?」
「――リストン家は私の命のために魔法映像を導入した。その投資分は稼がないと、私が納得できないの。生かされた意味がないでしょ」
「あ、そうか……あんた病気だったのよね」
その通りだ。
まあ、今や大虎でもウォーミングアップ代わりに殴り殺せるほど絶好調だが。
今日も一日が終わった。
授業という名の強敵から解放された私を含む子供たちは、思い思いに散っていく。
クラブに入ったものはクラブに行き……それ以外はどこぞへ遊びに行ったり、寮にでも帰るのだろう。
そろそろ撮影が始まる。
だからこそ、これから撮影を再開するまでの時間は、貴重な暇となる。決して無駄にはできない。
レリアレッドと一緒に女子寮まで帰ってきて、それぞれの部屋に別れる。
そして部屋に戻ると――
「――お、お、お、おかえり、なさいま、せ……っ!」
侍女服ではなく、簡素な動きやすい服を着たリノキスが、汗だくになりながら拳を固め構えていた。息も絶え絶えである。
「何セット終わった?」
「さ、三十三、回、です」
ふうん……三十三か。
「残り十七回ね。見ていてあげるから続けなさい」
「は、はい……!」
リノキスはぎちぎちに身体中の筋肉を張り詰め、弱々しい「氣」をまとい、教えた通りの型をなぞる。
疲労困憊なのは、まだ「氣」の操作が細かくできないからだ。筋肉を張り詰めることで無理やりまとっている、という感じである。
偶発的なことだが、素人でも攻撃時の呼気が発氣――「氣」を伴うことがあるのだ。
心技体、すべてがほんの一瞬重なった瞬間、そんなことが起こる。
無自覚だけに、「時々いい攻撃ができる」程度の認識しかされないものだが。
リノキスはまだ満足に「氣」が使えないので、偶発的に起こることを必然的に起こすために、筋肉を極限に持っていきそれを保つのだ。
この状態で安定すれば、あとは少しずつ筋肉を緩め、しかし「氣」をまとったまま維持できればいいのだが……先は少し長いかな。
11
お気に入りに追加
511
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜
青空ばらみ
ファンタジー
一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。
小説家になろう様でも投稿をしております。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる