44 / 405
43.二人だけの生活、言い換えると同棲生活のスタート
しおりを挟む「――新入生の方は、まず受付へ向かってください」
学院の紋章が刺繍してある腕章を付けた大人が、校門前に溜まっている人たちにそんな声を掛けた。きっと私とリノキスもそれに含まれていることだろう。
「じゃあニア。これから準備などで忙しくなるだろうから、ここで一旦別れることにしよう」
荷解きや生活の用意などなどを考慮して、兄ニールとリネットはさっさと行ってしまった。――これから同じ場所で生活するのだ、兄とはいくらでも会う機会があるだろう。
呼び止めることもなく兄を見送り、所々に立っている腕章を付けた誘導人員の指示に従い、恐らくレリアレッドも先に行ったであろう受付に向かう。
天気がいいからか、受付は屋外に用意されていた。
日除けのテントの下にテーブルなどを並べて、そこで受付をするらしい。
具体的には、書類に名前を記載して、終わりだった。
そして木札を渡される。
「――あなたは貴人用の宿舎へ向かってください」
そういえば、貴人と庶民で席を並べて学んでいくとは聞いていたが、泊まる寮はまるっきり違うそうだ。
貴人の子供は、身の回りの世話をする使用人を一人連れてくることが許可されている。なので私もリノキスを連れてきたし、兄ニールにもリネットが付いている。
貴人用の宿舎は、自分用の部屋と、その横に使用人用の部屋がある造りとなっているとか。
広大な敷地を持つアルトワール学院だが、どうやら中学部も高学部も、同じ敷地内に校舎や宿舎があるようだ。
もっとも場所自体はかなり離れているそうなので、わざわざ会いに行く、会いに来るくらいでないと、遭遇することはなさそうだ。
一応、屋内と屋外の運動場や訓練場、特殊な施設がある教室などは共用スペースではあるようだが、それこそかち合わないよう教師側がちゃんと調整してくれている。
そんなこんなで、小学部貴人用女子寮に到着した。
中に入ると、まず椅子やテーブルがある休憩所があった。食堂は別にあるそうだから、ここで食事をするようなことはないだろう。まあ、ホテルのロビーみたいなものか。
何人か貴人の娘っぽい子供がいる。
確か、在校期間は六年である。
私は今六歳で、卒業するのは十二歳だ。
――子供の六年は長いし、意味も大きい。
私はまだまだ小さな幼児のようなものだが、ここでは最上級となる十二歳ともなると、身体の大きさも顔つきもだいぶ差がある。
まあ、それだけで勝てるなら苦労はないが。
私の方が圧倒的かつ他の追随を許さないほどに強いので、歳の差なんて些細なものは、特に気にする必要はないだろう。
「――お嬢様、あの方が管理人では?」
リノキスが指差す先に、椅子に座る子供たちの輪に大人がいる。
若い女性のようだが、こちらには気づいておらず、子供たちと一緒に何かを見ている。
「管理人の方ですか?」
歩み寄って声を掛ける、と同時に、彼女らが何をしていたのかがわかった。
魔法映像を観ていた。
しかも私が出ている「ニア・リストンの職業訪問」で、去年の夏に昆虫採集をした回を。再々々々々……まあそれくらいの再放送だと思う。
「え? ……え?」
子供たちも管理人も、私を振り返ったり魔法映像を観たりと、少々混乱しているようだ。
そうだね、どっちを見ても私がいるから。なんか変な感じはするね。私は自分が出ている映像がちょっと恥ずかしいくらいだけど。
「……ニア・リストン、さん?」
「はい。今日からこちらでお世話になります」
「「えええええええええっ!?」」
――いや、驚くようなことではないだろう。管理人も。子供たちも。私だってアルトワール王国の子供なんだから、そりゃ寮にも来るというものだ。国の義務だし。
「ほ、ほっ、ほんもの! ほんもの! ほっほんものぉ!」
「ほんとに髪白いんだ!」
「やだほんものかわいい! かわいい!」
だろう?
子供たちよ、実物が来たぞ。
でも美貌に関しては兄の方がもっとすごいが。
――こういう反応を見ると、それなりに有名になったんだな、という実感が湧くと言うものだ。
管理人――寮長カルメに木札を渡し、交換でカギを受け取った。
「ニアちゃんはもう六歳になったのね。月日が流れるのは早いわね……」
寮長は……というか、ここはアルトワール王国の王都、言わば王族のお膝元である。
寮には早々に魔法映像が置かれていたおかげで、寮長から上級生まで、私の病復帰宣言から観ている者は多いそうだ。
初めて魔法映像に出た日から、だいたい一年と半年くらいである。
気が付けばそんなにも時間が経っていたのか。
寮長ではないが、私もしみじみ言いたくもなる。
あれから一年以上、とにかく必死でやってきたな、と。
「在校中も撮影には行くと思います。色々と面倒を掛けてしまうかもしれませんが、これからよろしくお願いします」
「ええ、ヒルデトーラ様からも言われているから。困ったことがあったら遠慮なく相談してね」
すでにヒルデトーラの手が回っていたか。まあ私の「よろしく」よりは、王族の言葉の方が効果は高いだろう。
「――あ、ということは、さっき来たのはやっぱりレリアちゃんだったのね」
どうやら寮長は、レリアレッドには気付かなかったようだ。
まあ、私の活動は一年以上で向こうは半年足らず。
映像に出ている時間の差が、そのまま認知の差ということなのだろう。
……それにしてもこの寮長、かなり強いな。
今まで見た人の中では一番強いかもしれない。
――まあそうであっても、畑の雑草むしりの方がよっぽど苦労するってくらい楽に勝ててしまうが。
「お嬢様。これから二人きりの生活がスタートしますね」
「そうね」
「言い換えると同棲生活のスタートですよね」
「なぜ言い換えたの?」
「とりあえず寝ます? 一緒に」
「そういうのはいいから早く荷物を解きなさい」
そろそろ一度どういうつもりなのか問い詰めた方がいいかもしれない類の話をしつつ、リストン家から持ってきた荷物をリノキスと一緒に整理していく。
部屋は広からず狭からず、という感じだ。
まあ、型をやる分には充分だろう。組手にはさすがにちょっと狭いかな。
ただ個人用の小さな風呂とトイレが付いているのは、かなり嬉しい。特に風呂があるのがいい。
これでどんな時間でも鍛錬ができるというものだ。
「――ありがとうございます。貴人用の宿舎には個人用なんてあったんですね。私は庶民用の宿舎ですごしたので、共同浴場を使っていましたよ」
リノキスにもここを使っていい旨を伝えると、礼の言葉とともにそんな返答が返ってきた。
「それで、これからどうします? 寝ます? 一緒に」
「必要な物を買い揃えるって言ってなかった? それに制服も」
着替えなどはたくさん持ってきたが、細々した物は王都で買う予定となっている。
制服も仕立て屋に頼んである物を取りに行かねばならない。
そして、昼過ぎには身体測定があると言っていた。
新学期までに受ければいいと言われたが、できればそれにも参加したいところだ。
ゆっくりするのは、やるべきことをやってからだ。
11
お気に入りに追加
511
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜
青空ばらみ
ファンタジー
一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。
小説家になろう様でも投稿をしております。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる