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無印良品「天然」
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「なんやこれ、意外に高いんやな。ありえへん」
中年のおばちゃんが勢いよく毒づいた。
「これなんかほらな、どこがええのかまるでわからん!そこいらにある普通の無地のバスローブちゃいますんか?」
(うわあ…嫌なババア…!
ついてないわ俺)
悟流は心の中で舌打ちした。
最近いつもこうだ、なんで俺ばっかり貧乏くじ?
ヘルプを求めて周囲を見回したが、みな一様に忙しく動き回っている。
おばちゃんの馬鹿でかい声は聞こえているはずなのに…
なんとか自力で乗り切れってか!
悟流は満面の笑みで浪花のおばちゃんと向きあった。
「えーお客様、そちらのバスローブは、オーガニックのコットン100%の商品でございまして…」
「はあん?」
悟流の必死の言葉を遮り、おばちゃんがたたみかけてきた。
「なんや、オーガニックだかガーリックだかよう知らんけどな、そんなんはうちの知ったこっちゃないんやで。シルクでもあるまいに、見たとこ百均のな、安いタオルと大差ない生地やいうてんねや。あんさんも本音はそう思ってるんやろ?」
(う…)
手強い。
だが負けるわけにはいかない。気を取り直し、悟流は言い返した。
「思いませんよ。オーガニックというのは有機栽培で育てられた植物のことなんです。有機栽培ってご存知ですか?」
「そら、そんぐらいうちかて知ってはりまんがな。で、ちょいと詳しく説明してみてや。
西じゃ有機なんちゃら?そないな言葉よう聞かん」
(知らないってことじゃねぇかぁあ!誰か…助けて…)
「えーと、農薬だけでなく、化学肥料も一切使わず、数年間汚染されていない土壌を使って育てる栽培方法をですね、えーと…有機栽培、つまりオーガニックと呼ぶんですよ」
「えーと、は余分や。えーと、えーと、やかましくてしゃあない」
(これ絶対、話を聞いてないだろ!)
おばちゃんの狙いはなんだ?
値切るつもりか?単なるストレス発散か?
「細かいことはええわ。で、これ、いくらか勉強(値引き)してくれはるん?」
ダイレクトアターック…!!
「申し訳ありません。当店ではクリアランスセール期間以外は基本的に値引きはしない方針でし…」
「あんさん、喧嘩でも売ってるんか?値引きできないなんて、そないアホことありますかいな。東京もんは心が冷たいいうんはホンマやなあ…」
「有機栽培は安全なのでアトピーやアレルギーのある方には優しいんです。そちらのバスローブも、着る人の肌に優しく作られているんですよ」
「なるほどなあ、オーガニックが優しいのはようわかったわ」
悟流は胸をなで下ろした。
(よし、勝った!)
「けどな?せやかて、それをいうたらあんさん…」
(この期に及んでババアいったいなにを…)
「うちのほうが百万倍、優しいんちゃいますん?オーガニックが飴ちゃんくれはりまっか?」
まるで会話が噛み合わない。
ヒャッハッハッ!!
豪快におばちゃんが笑い出した。
「そんな顔しなさんなて。ほんのジョークでんがな、ハッハッハ!」
鞄に手を突っ込み、取り出した飴を二粒、悟流の手に握らせようとする。
「え、あ、あの、えっ?」
しどろもどろになる悟流。
「遠慮せんと貰っとき。で、まぁこれが高いんは、オーガニックいう素材が、いうてみりゃ薬を使わんと天然もんみたいなアレやからなんね。おばちゃん勉強なったわ。あんさん勉強せんとうちが勉強すんのもしゃくやけどな!ハッハッハ」
(…て、天然?)
「つまり物がいい、ってことやろ?んじゃ、ほなこれ、こっから……ここまでの棚の全部こうたる。うちな、天然いう言葉にめっぽう弱いんやわあ」
「ここからここまで…全部…
ですか?」
「せや、このオーガニックK、書いてあるコーナーの、天然もん全部や」
しめて29万3千2百円。
浪花のおばちゃんが買い占めた金額。
悟流は狐に摘まれたように立ちつくし、おばちゃんは満足げに帰っていった。
「ス、スケールが違う…」
(あんさん勉強さすはずが、うちが勉強すんのもしゃくやけどな!)
一番の天然はおばちゃんだなと悟流は思った。
中年のおばちゃんが勢いよく毒づいた。
「これなんかほらな、どこがええのかまるでわからん!そこいらにある普通の無地のバスローブちゃいますんか?」
(うわあ…嫌なババア…!
ついてないわ俺)
悟流は心の中で舌打ちした。
最近いつもこうだ、なんで俺ばっかり貧乏くじ?
ヘルプを求めて周囲を見回したが、みな一様に忙しく動き回っている。
おばちゃんの馬鹿でかい声は聞こえているはずなのに…
なんとか自力で乗り切れってか!
悟流は満面の笑みで浪花のおばちゃんと向きあった。
「えーお客様、そちらのバスローブは、オーガニックのコットン100%の商品でございまして…」
「はあん?」
悟流の必死の言葉を遮り、おばちゃんがたたみかけてきた。
「なんや、オーガニックだかガーリックだかよう知らんけどな、そんなんはうちの知ったこっちゃないんやで。シルクでもあるまいに、見たとこ百均のな、安いタオルと大差ない生地やいうてんねや。あんさんも本音はそう思ってるんやろ?」
(う…)
手強い。
だが負けるわけにはいかない。気を取り直し、悟流は言い返した。
「思いませんよ。オーガニックというのは有機栽培で育てられた植物のことなんです。有機栽培ってご存知ですか?」
「そら、そんぐらいうちかて知ってはりまんがな。で、ちょいと詳しく説明してみてや。
西じゃ有機なんちゃら?そないな言葉よう聞かん」
(知らないってことじゃねぇかぁあ!誰か…助けて…)
「えーと、農薬だけでなく、化学肥料も一切使わず、数年間汚染されていない土壌を使って育てる栽培方法をですね、えーと…有機栽培、つまりオーガニックと呼ぶんですよ」
「えーと、は余分や。えーと、えーと、やかましくてしゃあない」
(これ絶対、話を聞いてないだろ!)
おばちゃんの狙いはなんだ?
値切るつもりか?単なるストレス発散か?
「細かいことはええわ。で、これ、いくらか勉強(値引き)してくれはるん?」
ダイレクトアターック…!!
「申し訳ありません。当店ではクリアランスセール期間以外は基本的に値引きはしない方針でし…」
「あんさん、喧嘩でも売ってるんか?値引きできないなんて、そないアホことありますかいな。東京もんは心が冷たいいうんはホンマやなあ…」
「有機栽培は安全なのでアトピーやアレルギーのある方には優しいんです。そちらのバスローブも、着る人の肌に優しく作られているんですよ」
「なるほどなあ、オーガニックが優しいのはようわかったわ」
悟流は胸をなで下ろした。
(よし、勝った!)
「けどな?せやかて、それをいうたらあんさん…」
(この期に及んでババアいったいなにを…)
「うちのほうが百万倍、優しいんちゃいますん?オーガニックが飴ちゃんくれはりまっか?」
まるで会話が噛み合わない。
ヒャッハッハッ!!
豪快におばちゃんが笑い出した。
「そんな顔しなさんなて。ほんのジョークでんがな、ハッハッハ!」
鞄に手を突っ込み、取り出した飴を二粒、悟流の手に握らせようとする。
「え、あ、あの、えっ?」
しどろもどろになる悟流。
「遠慮せんと貰っとき。で、まぁこれが高いんは、オーガニックいう素材が、いうてみりゃ薬を使わんと天然もんみたいなアレやからなんね。おばちゃん勉強なったわ。あんさん勉強せんとうちが勉強すんのもしゃくやけどな!ハッハッハ」
(…て、天然?)
「つまり物がいい、ってことやろ?んじゃ、ほなこれ、こっから……ここまでの棚の全部こうたる。うちな、天然いう言葉にめっぽう弱いんやわあ」
「ここからここまで…全部…
ですか?」
「せや、このオーガニックK、書いてあるコーナーの、天然もん全部や」
しめて29万3千2百円。
浪花のおばちゃんが買い占めた金額。
悟流は狐に摘まれたように立ちつくし、おばちゃんは満足げに帰っていった。
「ス、スケールが違う…」
(あんさん勉強さすはずが、うちが勉強すんのもしゃくやけどな!)
一番の天然はおばちゃんだなと悟流は思った。
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