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パングとの出会い
目覚め
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十二月三十日。
いまカイはヒイラギ荘のベッドの上にいる。
パングに連れられて傷ついた体を引きずりながら…
路地裏を抜け小道を歩き、駅前まで案内してもらったのが朝方。
今こうしてヒーターの効いた暖かな室内で目を閉じると、すべてが幻だったような気になってくる。
しかし……
おずおずと手を這わすと、指先が膨らんだ瞼に触れる。
動かす度にズキズキする右肩の痛みは、ゲームセンターの裏口で倒れ込んだとき打ちつけたものだ。
その鈍痛は、カイに微睡む隙を与えなず…
やもすると逃避の世界に逃げ込もうとする意識に張り手をしてカイを現実に引き戻していた。
痛覚はカイの正気を保つのに十分すぎる役を担っている。
イマジェニスタ。
ここではないもう一つの世界。
カイが反芻する。
にわかには信じられない。
そんなものはお伽話や映画の中の出来事だ。
だが、本当に…
それらすべてが空想だと言い切れるだろうか。
世界には今なお謎に包まれた古代遺跡や未開の文明、解明不可能な事象が数多く存在する。
人知の及ばぬ摩訶不思議。
それは美しく青い、この星の上で確かに息吹いているのだ。
イギリスのストーンヘッジ、ナスカの地上絵、アンコールワット、イースター島のモアイ像、王家の墓と呼ばれるエジプトのピラミッド。
ネッシーだけでなくイエティやチュバカブラのように各地で目撃されている未確認生物もいる。
まことしやかな説が飛び交い、夢と現実が交差したかのような異常な現象と歴史の数々。
(得体の知れない何者かが、
イマジェニスタから次元を越えて、こちら側に流れ込んだ結果だとしたら?)
時空に開いたブラックホールの端が、別な次元と繋がって…二つの異なる世界を結ぶ。
そして、この世界に奇跡が生み出されて。
(本当にそんなことが有り得るのか?)
カイは自分が狂人になってしまったのかも知れないと恐怖に駆られる反面、冷静に身に起こった現実を受け止めていた。
そして、日々確かに存在する世界の不思議も。
真っ直ぐにバスルームに向かい、正面をじっと見る。
鏡にはカイの姿。赤紫に変色した瞼と切れた唇がそこだけハッキリしていて、青白い皮膚と不自然なコントラストを作っている。
ぼんやりした淡色の砂地に浮かぶ、どぎつい華のようだ。
(まるで知らない男って感じだ…)
苦笑しながら自分の顔をさらにじっと見つめていると、
自分が自分ではないような……空中遊泳しているような…
そんな錯覚が押し寄せてくる。
「もう一度パングのバラッドを訪ねてみよう」
低く乾いた声。
けれども一語一句漏らさず復唱するような丁寧さで。
今度は手を伸ばして鏡に触れてみる。擦り剥けた顎のあたりを。
傷口に痛みは感じない。
変わりに感じたのは指先から伝わる、硬く冷たい鏡の感触だけ。
目をつむり五感のうちの一つを閉じてみる。
聴覚、触覚、味覚、臭覚……
研ぎ澄ませることで伝わってくるすべての感覚を噛み締めながら、体に現実を刻みつけていく…
臨場感を求め再確認する作業。
だが皮肉にも
夢を諦めた小説家の卵は、
今またも夢の世界に足を踏み入れようとしている。
いまカイはヒイラギ荘のベッドの上にいる。
パングに連れられて傷ついた体を引きずりながら…
路地裏を抜け小道を歩き、駅前まで案内してもらったのが朝方。
今こうしてヒーターの効いた暖かな室内で目を閉じると、すべてが幻だったような気になってくる。
しかし……
おずおずと手を這わすと、指先が膨らんだ瞼に触れる。
動かす度にズキズキする右肩の痛みは、ゲームセンターの裏口で倒れ込んだとき打ちつけたものだ。
その鈍痛は、カイに微睡む隙を与えなず…
やもすると逃避の世界に逃げ込もうとする意識に張り手をしてカイを現実に引き戻していた。
痛覚はカイの正気を保つのに十分すぎる役を担っている。
イマジェニスタ。
ここではないもう一つの世界。
カイが反芻する。
にわかには信じられない。
そんなものはお伽話や映画の中の出来事だ。
だが、本当に…
それらすべてが空想だと言い切れるだろうか。
世界には今なお謎に包まれた古代遺跡や未開の文明、解明不可能な事象が数多く存在する。
人知の及ばぬ摩訶不思議。
それは美しく青い、この星の上で確かに息吹いているのだ。
イギリスのストーンヘッジ、ナスカの地上絵、アンコールワット、イースター島のモアイ像、王家の墓と呼ばれるエジプトのピラミッド。
ネッシーだけでなくイエティやチュバカブラのように各地で目撃されている未確認生物もいる。
まことしやかな説が飛び交い、夢と現実が交差したかのような異常な現象と歴史の数々。
(得体の知れない何者かが、
イマジェニスタから次元を越えて、こちら側に流れ込んだ結果だとしたら?)
時空に開いたブラックホールの端が、別な次元と繋がって…二つの異なる世界を結ぶ。
そして、この世界に奇跡が生み出されて。
(本当にそんなことが有り得るのか?)
カイは自分が狂人になってしまったのかも知れないと恐怖に駆られる反面、冷静に身に起こった現実を受け止めていた。
そして、日々確かに存在する世界の不思議も。
真っ直ぐにバスルームに向かい、正面をじっと見る。
鏡にはカイの姿。赤紫に変色した瞼と切れた唇がそこだけハッキリしていて、青白い皮膚と不自然なコントラストを作っている。
ぼんやりした淡色の砂地に浮かぶ、どぎつい華のようだ。
(まるで知らない男って感じだ…)
苦笑しながら自分の顔をさらにじっと見つめていると、
自分が自分ではないような……空中遊泳しているような…
そんな錯覚が押し寄せてくる。
「もう一度パングのバラッドを訪ねてみよう」
低く乾いた声。
けれども一語一句漏らさず復唱するような丁寧さで。
今度は手を伸ばして鏡に触れてみる。擦り剥けた顎のあたりを。
傷口に痛みは感じない。
変わりに感じたのは指先から伝わる、硬く冷たい鏡の感触だけ。
目をつむり五感のうちの一つを閉じてみる。
聴覚、触覚、味覚、臭覚……
研ぎ澄ませることで伝わってくるすべての感覚を噛み締めながら、体に現実を刻みつけていく…
臨場感を求め再確認する作業。
だが皮肉にも
夢を諦めた小説家の卵は、
今またも夢の世界に足を踏み入れようとしている。
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