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監視人集会
狸じじい
しおりを挟む「お客様、ちょっとお待ちを!
その箱を私めにお譲りいただけないでしょうか」
ドルバンがひょこひょことカイを追いかけてくる。
「高値で買い取らせていただきます。
損なんてさせませんから」
鳥肌が立つような猫なで声だ。
カイが扉の手前で折れたテーブルの足にけつまずく…
その一瞬の隙に、ドルバンがさっと扉の前に立ちふさがった。
「お願いでございます」
ドルバンは哀れっぽい、気弱な様子で哀願している。
「あなたにだけは絶対に渡さない。どいてください」
ここへ来たことで収穫はあった。
やはりこの箱にはなにかあるんだ。
ドルバンの態度はカイの確信を強める結果になった。
怒りを抑え、静かにドルバンを脇に押しやると、カイは黙って店を出て行った。
バタン…
扉が閉まると、周囲からどっと爆笑の声が湧き上がった。
「あやつめ、こともあろうに、ワシを狸じじいと呼びおってからに」
顔を歪めて、ドルバンが憎々しげに言い放つ。
「あら、たいした役者だったわよ 実際」
ドルバン以外、誰もいないはずの店内で、どこからか艶っぽい女性の、くすくす笑いがした。
「ワシだって大変なんじゃ」
ドルバンがしょんぼりして言う。
すると続いて、
「狸じじいとは言い得て妙なものだ。
遠からず近からず」
と、猛々しく低い声の独り言が聞こえた。
それを聞いたドルバンが真っ赤になって怒り出す。
「おのれ"鷹の目"、おぬしまでワシを下等な狸と一緒にするのか」
「仕方がないじゃないの。狸と狐は人間を化かす動物の代名詞なんだから…昔っからね。
まったく、怒りっぽいと女の子にモテないわよ?
老いぼれ爺さん」
「大きなお世話じゃわい。
"赤毛"の毒舌は相変わらずじゃな。
まさに、じゃじゃ馬!
……馬だけに」
最後にさらっと皮肉を追加する。
「どうせならサラブレットと言ってちょうだいよ。
そんなことより、この窮屈で埃まみれな小汚い部屋をなんとかしてくれないかしら?
お肌が荒れたらあんたのせいだからね!
高い化粧水を買わせるわよ?狐火」
ドルバン、もとい狐火が狭苦しい店内の中央までやってきて、取り出した杖を軽く振るうと……
散乱した骨董品や調度品の数々が一瞬で消え失せ、部屋はがらんとして塵ひとつなくなった。
「これで文句はないじゃろ。
みんな隠れ身を解いて出てくるんじゃ」
あちこちでブーンと蜂の羽ばたきそっくりな音がし、黒い服を着た男と女がどこからともなく現れた。
「集まったのはこれだけ?」
狐火をたしなめた女性だ。
声と同じくしなやかな美しい体をしている。
すらりと伸びた足、黒目がちの瞳。そして名前と同じ、燃えるような赤毛色の髪…
「私は期待していなかったぞ」
もう一人の長身の男が言った。張り出した広い額に、高いけれど厚みのない薄っぺらい鼻。
彫りが深く、猛禽類を思わせる鋭い目をしている。
「まあまあ、鷹の目よ、そう言わずに。
"蛇眼"と"鬣"が来ないのは最初から分かっていたこと。
"福耳"は気ままな奴じゃから忘れたころに顔を見せにくるはずじゃ」
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