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あべこべ舌
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「この実験は、へそ曲がりや嫌われ者にとって救いの神になるぞ」
突然、声を張り上げて叫ぶI博士。
そこへ、美人秘書がコーヒーを運んできた。いつになくセクシーな、超ミニのタイトスカート姿。男なら振り向かずにはいられないその美しい脚線を惜しげもなく晒し、心なしか顔が紅潮している。
「今度はどんな発明ですか?」
返事はない。顔も上げずに、黙々とペンを走らせ続けるI博士。美人秘書がにっこりしながら再度、声をかける。
「I博士…」
沈黙。
「I博士!」
「ああ、なんだ君か」
顔を上げたI博士がじっと美人秘書を見つめる。
「ん?熱でもあるのかな?少し顔が赤いようだが」
」
「ご心配なく。熱なんてありません!」
美人秘書は、ぷいとそっぽを向いて行ってしまった。
「やや?突然、機嫌が悪くなったぞ?いったい彼女はどうしたというのだ?女性というのは難しい生き物だな。
そんなことより、この薬もいよいよ完成だ。これを服用したら…どんな天の邪鬼も素直になれる優れもの」
I博士が作り上げた新薬は画期的な物だった。服用すると、心に思ったことと正反対の言葉を無意識に口にしてしまうのだ。お世辞ひとつ言えないサラリーマンの出世に役だったり、性格に難のある者ほど人気者になれたりと、素晴らしい効果が見込まれるだろう。
使用法は簡単。
万年筆状の容器の上部についたノズルを押して、薬液を舌に直接スプレー。効果は、噴射してから24時間ほど続く。
手鏡に向かって大きく口を開けるI博士を、遠くから熱のこもった目で見守っている美人秘書。
そして博士は、勢いよくスプレーを舌に吹きかけた。
翌日。
あのあと博士は、完成したての新薬について、社会貢献に役立つどれほど偉大な発明かをスタッフたちに力説した。
しかし、話せば話すほど皆、困惑を浮かべた表情をするばかりで話にならない。
最後には、流石の博士も怒り心頭となり「君たちは正しい。私は君たちのような天才とは違い、ダメな発明ばかりする落ちこぼれ博士なのだ」と真っ赤な顔で怒鳴り散らした。
おまけに美人秘書の不機嫌は、今日になっても続いている。
昨日とはうって変わって地味なグレーのパンツスーツにアップにまとめた髪。キリリとしたいでたちでテキパキと仕事をこなしていく。
なぜか今日は、ときおりチラチラと時計を見るのが気にはなったが、やはり彼女ほど有能なパートナーは他にはいない。
「ちょっと君」
博士の脇に無言でコーヒーカップを置いて立ち去ろうとした美人秘書の背中に、I博士が声をかけた。
「はい」
「君のファッションのことだけど。すごく似合っているね」
美人秘書の右眉がピクリとし、鋭い目でキッと博士を見据える。なぜ睨まれるのか理由がわからず怯えた様子で肩をすくめるI博士。
「では博士は、昨日のファッションより、今日のほうが良いと思われますか?」
「まあ、そうなるかな。露出が多いのはちょっとね」
これは本心。
彼女の武器は類い希なる知性であり、肉体で男の気を引くような安い女ではないのだ。
「博士は…セクシーなのはお嫌いなんですか?」
まさかの質問に困った表情を浮かべながらも、こくりと頷くI博士。
「他の女性のなら見たいかな。でも、なぜかな…君の刺激的な姿だけは見たくないんだよ」
博士は正直なのだ。
と…美人秘書の顔がみるみる紅葉のように赤く染まってゆき。最後には両手で顔を覆ってしまった。
「分かりました。博士がそうおっしゃるなら」
小走りに去っていく美人秘書。あとに残されたI博士は、狐につままれたような表情をし…
やがてまた、研究のデータを取るために机に向かう。
と、そのとき何かがけたたましく鳴り出した。
昨日、博士が新薬を服用してからちょうど24時間が経過したことを知らせるタイマーが作動したのだ。
度重なる臨床テストの結果、実験は100%とは言えないもののおおよそ成功と呼べる域に達していた。ただ一人、博士だけがある残念な事実に気づいていた。
それは新薬の継続時間。
開発当初は24時間を目指していたが…実際には平均して23時間しか効果が保てなかったのだ。
薬の効きには個人差があるため、説明書きに『継続時間は23時間』と記載すれば、逆に消費者に混乱を与える。
博士の独断で、23時間のくだりは伏せて「効果は約1日」をうたい文句に売り出すことにした。
それともう一つ、ここ数日の間で気づいたことがある。
美人秘書の様子がおかしい。
I博士は納得がいかない様子で眉間にしわを寄せた。
「あれ以来、なぜだか彼女の露出度が日増しにエスカレートしている気がするんだが」
突然、声を張り上げて叫ぶI博士。
そこへ、美人秘書がコーヒーを運んできた。いつになくセクシーな、超ミニのタイトスカート姿。男なら振り向かずにはいられないその美しい脚線を惜しげもなく晒し、心なしか顔が紅潮している。
「今度はどんな発明ですか?」
返事はない。顔も上げずに、黙々とペンを走らせ続けるI博士。美人秘書がにっこりしながら再度、声をかける。
「I博士…」
沈黙。
「I博士!」
「ああ、なんだ君か」
顔を上げたI博士がじっと美人秘書を見つめる。
「ん?熱でもあるのかな?少し顔が赤いようだが」
」
「ご心配なく。熱なんてありません!」
美人秘書は、ぷいとそっぽを向いて行ってしまった。
「やや?突然、機嫌が悪くなったぞ?いったい彼女はどうしたというのだ?女性というのは難しい生き物だな。
そんなことより、この薬もいよいよ完成だ。これを服用したら…どんな天の邪鬼も素直になれる優れもの」
I博士が作り上げた新薬は画期的な物だった。服用すると、心に思ったことと正反対の言葉を無意識に口にしてしまうのだ。お世辞ひとつ言えないサラリーマンの出世に役だったり、性格に難のある者ほど人気者になれたりと、素晴らしい効果が見込まれるだろう。
使用法は簡単。
万年筆状の容器の上部についたノズルを押して、薬液を舌に直接スプレー。効果は、噴射してから24時間ほど続く。
手鏡に向かって大きく口を開けるI博士を、遠くから熱のこもった目で見守っている美人秘書。
そして博士は、勢いよくスプレーを舌に吹きかけた。
翌日。
あのあと博士は、完成したての新薬について、社会貢献に役立つどれほど偉大な発明かをスタッフたちに力説した。
しかし、話せば話すほど皆、困惑を浮かべた表情をするばかりで話にならない。
最後には、流石の博士も怒り心頭となり「君たちは正しい。私は君たちのような天才とは違い、ダメな発明ばかりする落ちこぼれ博士なのだ」と真っ赤な顔で怒鳴り散らした。
おまけに美人秘書の不機嫌は、今日になっても続いている。
昨日とはうって変わって地味なグレーのパンツスーツにアップにまとめた髪。キリリとしたいでたちでテキパキと仕事をこなしていく。
なぜか今日は、ときおりチラチラと時計を見るのが気にはなったが、やはり彼女ほど有能なパートナーは他にはいない。
「ちょっと君」
博士の脇に無言でコーヒーカップを置いて立ち去ろうとした美人秘書の背中に、I博士が声をかけた。
「はい」
「君のファッションのことだけど。すごく似合っているね」
美人秘書の右眉がピクリとし、鋭い目でキッと博士を見据える。なぜ睨まれるのか理由がわからず怯えた様子で肩をすくめるI博士。
「では博士は、昨日のファッションより、今日のほうが良いと思われますか?」
「まあ、そうなるかな。露出が多いのはちょっとね」
これは本心。
彼女の武器は類い希なる知性であり、肉体で男の気を引くような安い女ではないのだ。
「博士は…セクシーなのはお嫌いなんですか?」
まさかの質問に困った表情を浮かべながらも、こくりと頷くI博士。
「他の女性のなら見たいかな。でも、なぜかな…君の刺激的な姿だけは見たくないんだよ」
博士は正直なのだ。
と…美人秘書の顔がみるみる紅葉のように赤く染まってゆき。最後には両手で顔を覆ってしまった。
「分かりました。博士がそうおっしゃるなら」
小走りに去っていく美人秘書。あとに残されたI博士は、狐につままれたような表情をし…
やがてまた、研究のデータを取るために机に向かう。
と、そのとき何かがけたたましく鳴り出した。
昨日、博士が新薬を服用してからちょうど24時間が経過したことを知らせるタイマーが作動したのだ。
度重なる臨床テストの結果、実験は100%とは言えないもののおおよそ成功と呼べる域に達していた。ただ一人、博士だけがある残念な事実に気づいていた。
それは新薬の継続時間。
開発当初は24時間を目指していたが…実際には平均して23時間しか効果が保てなかったのだ。
薬の効きには個人差があるため、説明書きに『継続時間は23時間』と記載すれば、逆に消費者に混乱を与える。
博士の独断で、23時間のくだりは伏せて「効果は約1日」をうたい文句に売り出すことにした。
それともう一つ、ここ数日の間で気づいたことがある。
美人秘書の様子がおかしい。
I博士は納得がいかない様子で眉間にしわを寄せた。
「あれ以来、なぜだか彼女の露出度が日増しにエスカレートしている気がするんだが」
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