追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした

チドリ正明@不労所得発売中!!

文字の大きさ
上 下
36 / 91

アウタートの策

しおりを挟む
「どうぞ。ここには感情に左右される者は誰一人としていないので、席にお掛けになって楽にしてください」

「ありがとうございます」

 アウタートさんは俺のことを以前と同様の客室に通した。

「それで……わたくしも詳しくは把握しておりませんので、ゲイルさんの口からお聞かせ願いますか?」

 俺が席に着くと同時に、アウタートさんはまたもや謎の薄い板を懐から取り出してテーブルに置いた。

 だが、その行動や視線には特に疑いの感情を孕んではいなかったので、アウタートさんは対等な視線でものを考えてくれていることがわかる。

「はい。アウタートさんもコロシアムにいらしていたので既にご存知だとは思いますが、俺の決闘の相手であるドウグラスが死にました」

「本当に死んだのですか?」

「ええ。ですが、厳密には俺の目の前で殺されました……」

 俺は頭の中でドウグラスが爆発死散ばくはつしさんする様子がフラッシュバックしていた。
 同時に元凶である悪魔ボルケイノスの笑みも思い出される。

「殺された……? それはゲイルさんではなく、第三者が、ということですか? 一体誰が……」

 アウタートさんは俺のことを疑う様子もなく、目を細めて自身の髭を撫でると、謎の薄い板に目をやった。
 
「悪魔ですよ。悪魔ボルケイノスです。ドウグラスは悪魔と契約を結んだ結果、身を滅ぼされたんです。コロシアムにボルケイノスの死体はありませんでしたか?」

 俺は疑われないようにボルケイノスの死体をあえてコロシアムに残しておいた。
 それがあれば、もしも俺が疑われても弁明することができると考えたからだ。

「悪魔……ですと? そのような死体は見受けられませんでしたが、キメの細やかな砂はコロシアム上にありましたね。風に流されて散りばめられていましたよ」

 死体はなかった……というよりも時間と共に消えた、いや、砂になったという考えの方が正しいか。
 どういう原理なのかは不明だが、死体がない以上、そうじゃないとおかしいからな。

「そうですか。となると今一番怪しいのは……俺……ですかね?」

 俺はアウタートさんの顔色を伺いながら言った。

 色々と考えを巡らせてみたが、第三者視点で考えてみれば俺が一番怪しい存在だろう。
 情報に踊らされた無知な民衆が起こしたあの行動にも少しは納得がいく。

「確かにそうかもしれませんが、わたくしはゲイルさんが殺したとは考えていないので安心してください」

「本当ですか? 自分で言うのもなんですが、今の話は何の信憑性もないですよ? 俺が嘘をついている可能性だって大いにありますし……」

 予想外のアウタートさんの答えに俺はやや前傾姿勢になりながら言った。
 こうまでして俺のことを信頼する理由がわからないからだ。

「いえ、ゲイルさんはわたくしとの会話で一度たりとも嘘はついていませんよ……その証拠に、ほら? これが光を発していないでしょう?」

 アウタートさんはこれまで度々視線を送っていた謎の薄い板を手に取って見せてきた。

「光……? それは一体なんですか?」

「これは相手の嘘がわかる優れもので、嘘をつくと光るんです。例えば、……と言った感じです」

 アウタートさんが棒読みでそれを口にすると、薄い板が淡い光を発し始めた。
 
 これはすごいな。何年も冒険者をやってきたが嘘がわかる道具があるなんて知らなかった。

「ということは、前回の時も俺が嘘をついていないとわかっていたんですね?」

「ええ。そして今回も嘘はついていませんでした。なので、ゲイルさんの決闘相手を殺したのは悪魔ボルケイノスで間違い無いでしょう」

 アウタートさんは俺の目を見ながら薄らと笑みを浮かべた。

「……安心しました。これで何とかなりそうですね」

 それを見た俺は肺の中から濁ったような冴えない空気が全て出ていくような感覚を味わっていた。

 なにはともあれ、これでアノールドには身の危険を感じることなく滞在できそうだな。

「いえ。これはわたくしの予想ですが、ゲイルさんはもうアノールドには今までのようには身を置けないと思います」

 だが、そんな俺の期待を裏切るようにアウタートさんは言葉を返した。

「え……? ど、どうしてですか? これで疑いが晴れたわけですから、今すぐにでも国から声明を発表してくれれば——」

「——いえ、先ほどの民衆の声はそれだけでは確実に収まらないでしょう。国からの声明とはいえ、民衆がそれを絶対に信じるわけでありません。中には疑いにかかる人もいるくらいです。それにゲイルさんも知らなかったように、民衆は”コレ”の存在を全くと言っていいほど把握していませんしね」

 アウタートさんは焦る気持ちを表に出していた俺の言葉を遮ると、それを落ち着かせるようなトーンでゆっくりと淡々と言葉を並べていった。

「それでは、ギルドカードで悪魔を討伐した証明をするというのはどうですか?」

 ギルドカードには討伐したモンスターの名前と数が自動的に記される。
 どういう理論かは不明だが、これなら証明できるかもしれない。

「それも可能です……しかし、冒険者よりも一般人の方が多いことを忘れてはいけません。それに、国からの説明もギルドからの説明もそう大差はありません」

 唯一俺が思いついた提案だったが、アウタートさんは首を横に振ってすぐに却下した。

「……では、どうすれば?」

 ここにきて冷静さを取り戻した俺はアウタートさんに聞き返したが、何かこれ以上の策があるとは思えなかった。

「ふふっ……ゲイルさん、お忘れですか? わたくしとの約束を……」

「約束……ですか?」

 アウタートさんはらしくない不敵な笑みを溢すと意味ありげなことを言い出したが、俺には何が何だかわからなかった。

「ええ。前回お話しした際に約束をしたでしょう?」

「前回……約束……あっ! 名も無き領地の件ですか? ですが、それについてはもう終わったはずじゃ……」

 ここで俺は閃いた、というより思い出した。
 名も無き領地についての件は既に達成できなかったものとして俺の中で処理されていたので、まさかここにきてその話をするとは思っていなかった。

「終わりだなんてとんでもない! ゲイルさんは人類共通の敵とも言える悪魔を単独で討伐し、人々の命を救ったのです。そのお礼として、わたくしから個人的に悪魔を討伐したことへの感謝を示す報奨金に加えて、約束通り名も無き領地を譲渡することに決めました」

「……え……?」

 アウタートさんの言葉に、俺はその場で口をあんぐりと開いて固まってしまったのだった。

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

処理中です...