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エルフの子供?

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「……え? もう一回お願いします……」

 レイカさんの幼児退行を見届けた次の日の昼過ぎのこと。
 俺はEランク冒険者として二度目のクエストを受注するためにギルドを訪れていたのだが、そこで受付嬢から耳を疑うような事を言われていた。

「ですから、ゲイルさんは今日からCランク冒険者です」

「……いきなりCランク冒険者……? なんでですか……?」

 普通に考えるとありえないとは思うが、確かにA、Bランククエストを一つずつクリアしたので、上がってもおかしくはない。
 それにしても疑問が残る部分も多いが……。

「はい。実は今朝方にはギルドマスターと【氷雹】のレイカ様からのお達しがありまして、特例中の特例ですが無事にランクが上がることが認められました。おめでとうございます!」

 馴染みのある受付嬢はパチパチと軽く拍手をしながら笑顔を見せたが、当の本人である俺は全くその実感が沸いてこない。

 というか昨日は調査が終わってから真っ直ぐ宿に帰ってしまったので報告を忘れていたが、レイカさんは律儀に早朝からギルドに来ていたみたいだな。

「あぁ……そういうことですか……」

 たった一回だけのクエストでそうそう簡単にランクが上がるわけないか。だって俺がEからDに上がるのに一年はかかったしな。
 二人の権力者からの鶴の一声がそうさせたのだろう。

「はい。それで本日はどうなさいますか?」

「そうだな……」

 最近はレイカさんと戦闘したし、調査も二回したからな。

 今日はリフレッシュがてら自分のために有意義に時間を使うとしよう。

「武器の整備ができる場所を教えてほしいのですが……」

 俺は腰に下げた刀をとんとんと叩きながら聞いた。
 よくよく考えてみれば四年と少しの期間、まったく整備していなかったので、しっかりと見てもらったほうがいいだろう。

「武器の整備ですか……それでしたらここがよろしいかと」

 受付嬢はテーブルの下からアノールドの店名が記された紙と地図を取り出すと、迷うことなくある場所に指を差した。

「『マルジェイラの武器屋』ですか? ここには別の武器屋がありませんでしたか?」

 マルジェイラの武器屋はアノールドの中心部から程近い立地に位置していた。
 待て。確かここには俺が刀を買った武器屋があったはずだ。
 どうして俺の知らない武器屋に変わっているんだ?

「あぁ。確か数年前に店主が生まれ故郷に帰ってしまったんですよね。その入れ替わりとしてマルジェイラの武器屋が店舗を構えたんですよ」

「……そうなんですか。マルジェイラの武器屋に行けばこの刀を見てもらえますかね?」

 俺の刀はその店主のオーダーメイドだ。
 言っちゃあ悪いが、そんじょそこらの武器屋で整備できるとは思えない。そもそも刀は極東の島国で生まれた武器だからな。刀鍛冶の経験がある者にしか整備は難しいだろう。

「うーん……どうですかね。マルジェイラの武器屋は、ここ数年で新しくできたんですけど、主な客層はBランク冒険者以上となっているので、おそらく大丈夫かと……」

 主な客層がBランク冒険者ということは結構な腕前の持ち主かもしれないな。
 興味もあるし、取り敢えず行ってみるしかないか。
 流石にCランク冒険者を門前払いするとは思えないし、ここは考えるより動いたほうが早いな。

「わかりました。ありがとうございます」

「いえいえ。また何かありましたらお気軽にお越しください。では、いってらっしゃいませ」

 俺が背を向けて軽く手を上げると、受付嬢は礼儀正しい言葉遣いで俺を見送ってくれた。
 Eランク冒険者の頃よりも物腰が柔らかくなった気がするし、対応も丁寧になった気がするが……まあいいか。






「——バカヤロォ! 出直してきなッ! Cランク冒険者程度を相手にしてる暇はねぇんだ!」
 
「……優しくノックして丁寧に自己紹介までしたのに軽く門前払いされんのかよ……」

 俺は勢いよく閉められた扉の前で立ち尽くしていた。
 中に一歩入り、Cランク冒険者と名乗った瞬間こうなってしまったので、余程ここの敷居が高いことがわかる。
 敷居が高いにしても客にこんな扱いをしていい理由にはならないがな。

 この後どうしようか。せっかく受付嬢が親切に紹介してくれたのにこんな目にあってしまって申し訳ないな。

「そこに立ってるモジャモジャ頭! とっととどけや! 天下のBランク冒険者ドウグラス様のお通りだ!」

「っと……今度は何だよ……ってか、モジャモジャ頭って俺のことか?」
 
 俺がぼーっと今後の行動について考えていると、背後から如何にも戦士といったような格好の男が横柄な歩き方で現れたので、俺は大人しくサッと静かに横に避けた。
 そして男は通り様に鋭い目つきで俺のことを睨みつけると、慣れた手つきでマルジェイラの武器屋の扉を開けて中に入っていった。

 どうやらこの男は常連客らしいな。

「……なんだったんだ……」

 嵐のような男はBランク冒険者のドウグラスと名乗ってはいたが、俺はこの男を全く知らなかった。
 もしかすると俺がいない四年間で実力をつけた男なのかもしれないな。

「あ、あの! お、お兄さん……!」

「立て続けに何だ……って、誰もいない……?」

 俺は中性的な声が後ろから聞こえてきたので振り返って見たが、そこには誰もいなかった。

 見えるのは視界の遥か下方に映る虫型のモンスターのようにピクピクと動くピンク色の触覚のようなもののみ。

「下ですっ! 下!」

「下……お、おお……わ、悪い。まさか俺が子供に話しかけられるなんて思ってなくて……。で、君は迷子かな? ご両親はどこにいるかわかるかな?」

 ゆっくりと視線を下に向けると、そこには肩口で綺麗に切りそろえられた金髪を持つ、性別不明の可愛らしい子供が立っていた。
 今の俺は自分で言うのもなんだがあまり人相は良くないので、まさか子供に話しかけられる日が来るなんて思いもしなかったな。

「僕は小さいけど子供じゃないです!」

 子供はその小さな体を強調するように堂々と腕を組んだが、どう見ても子供にしか見えない。
 子供によくある「自分は子供じゃない」というアピールだろうな

「……そうだな。君は立派な大人だよ」

 俺は適当に流して頷いておくことにした。

「はい! あ、それより! お兄さんは武器を探しているんですか?」

「まあな。これを研いでくれる人を探していたんだよ」
 
 俺はほんの数センチだけ刀を抜いて、目の前の子供に見せつけた。
 案の定子供の目はキラキラと輝いており、刀への興味が伺える。

「それ! 僕に任せてくれませんか!」

「君に任せる? 君のご両親は刀鍛冶の経験があるのかな?」

 俺は膝を曲げることで途端に真面目な顔つきになる子供と視線を合わせた。
 この子の両親が武器屋なのかもしれないな。ここを断られた以上、ついていってみてもいいかもしれない。

「もう! さっきから何言ってるんですか! 僕はタイニーエルフですから子供じゃありません!」

 子供は肩口まであった明るい金髪をふわりと片手でかきあげた。

 ん? ん? 今なんて言った……?
 それにその尖った耳は……?

「……え? エルフ……? ほんとに?」

 エルフ? それもタイニーエルフ……?
 普通のエルフよりも寿命が長く、体躯が小さいことで有名なあのタイニーエルフなのか?

「はい! 名前はユルメルと言います! ちなみに年齢は五十歳です!」

 五十歳って……俺よりも倍以上年上……。
 俺は開いた口が塞がらなくなっていた。
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