追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした

チドリ正明@不労所得発売中!!

文字の大きさ
上 下
8 / 91

初クエスト

しおりを挟む
「——っはぁ……」

 俺は大きなため息を吐きながら刀を鞘に収めた。

 というのも熱い戦闘を期待してAランクとBランクという高ランク帯のクエストを同時に受注したのだが、なんともあっけなく終わってしまったせいだ。

「軽い攻撃一回で死ぬなんて聞いてないぞ……。かなり手加減したのになぁ」

 さらにモンスターはともに一撃で討伐されてしまう始末だ。
 期待外れにも程がある。
 最も俺が強くなりすぎたのがいけないのだが。

 何はともあれクエストはクリアしたのでギルドへ帰還することにする。
 幸いまだ夕方なので全力で向かえば暗くなる前に到着できるだろう。

「戦い足りねぇ……あれは……? 誰か襲われているのか?」

 まだまだ戦い足りないと思いながらも帰ろうとした矢先。
 だだっ広い草原の果ての方に目を凝らしてみると、そこには複数人のチンピラのような男たちと一人の少女がいた。その周りには倒れ伏す冒険者らしき者の姿も確認できる。
 少女は小綺麗なドレスを着ているし、どこかの貴族かなんかだろうか?

「よくわからんけど、取り敢えず助けるか。どっかの貴族だったら良いことありそうだしな」

 俺はおよそ二百メートルほどの距離を一瞬で詰めるために、グッと腰を低くして勢いよく地面を蹴った。
 今の俺はさながら極東にいるというニンジャのようだ。
 腰に下げた刀も様になる。そんな動きである。

「……」

 俺は走りながら考える。
 どうしてこんなにもだだっ広い草原の中からピンポイントで馬車を襲おうと思ったのだろうか。
 あまりにも不自然だ。
 ここで襲うのはあまりにもリスクが高すぎる。
 辺りにはCランク程度のモンスターが多いが、中にはBランク程度の彷徨いているし、俺のようにクエストに出向いた冒険者に見つかっても全くおかしくはない。
 それに襲っているチンピラが仮にただの盗賊なのだとしたら、ここ以上に人気のない地帯にいるはずだ。

 どうして俺以外の冒険者やモンスターに一切バレることなく、あそこまで残忍な行いができるのか。
 少なくとも

「わからんな」

 まあいい。とりあえず背後に回っておくか。

「——へへへ。お前の護衛はもう戦闘不能だぜ? 大人しくこっちに来な。俺たちが存分に可愛がってやるよ」

 そこでは俺以上に不潔な三人組のチンピラが貴族のような見た目をした少女を襲っているところだった。

 俺はチンピラたちの背後でちょうど良いタイミングを待つことにした。
 人が悪いとは思うが、助けるのにもタイミングがある。
 悪役がイキリ散らし、ヒロイン役が弱々しい姿を見せたその時だ。
 ここが一番格好良く、ヒーローのように振る舞えるのだ。

「だ、誰か! 助けて……」

 少女は声を枯らし今にも泣いてしまいそうな声で助けを求めるが、護衛と思われる冒険者は既に息絶えてしまっているようだ。

 そろそろかな。

「ぐへへへへ! だから助けは来ねぇっての! こんな何もねぇ草原に人がいるわけ——」
「——いるぞ」
「ひぃっ!? な、何者——ウッッ! グッゥゥ……ッ……」

 俺は消していた気配を一気に解放すると同時にリーダー格のチンピラの耳元で存在を教えてあげた。
 リーダー格のチンピラは心底驚いたというような声をあげたが、気がついた時にはもう遅い。
 すぐに背後から首を絞めつけて力を込める。
 そして一瞬にして意識を奪う。

「おかしら! 貴様! いつからそこにいた!」

 そんなに焦らなくてもいい。
 そもそも俺はモンスター以外を殺さないと決めているんだ。

「ずっとだよ」

 俺は残りのチンピラに余裕を持った笑みを見せる。
 自分よりも明らかに格下な相手にはこれが有効だ。
 これは経験談になるが、俺はダンジョンで何度も見下されてきた。
 コカトリスに始まり、そこから下に行けば行くほどモンスターの力は増していき、何度も何度も辛い思いをしてきた。
 そこで俺が一番ゾッとしたのは余裕のある笑みだった。
 こちらは焦り、嘆き、真剣になっているというのに、強者はそんなものを嘲るような態度で平然と過ごしている。
 だから俺も実行してみることにしたのだ。
 もちろん相手が悪意のある行為で人を傷つけていた場合に限るがな。

「っ!? な、な、なんなんだよ! お前は! どうしてここがわかった!」

 二人のチンピラは眼光を見開いて小さく後退した。
 その表情から若干ではあるが恐怖の情を感じることから、俺の作戦は見事成功したと言える。

「たまたま通りかかったら何やら揉めている様子だったんだよ。んで、弱い方の味方につこうと思ったってわけ」

 俺はリーダーを失った二人のチンピラから目線を外して少女の姿を見やった。
 少女は両手を貝殻のように重ね合わせて涙を流しながらこちらを見ていた。

 はぁ……そんな目をされたら居心地悪いなぁ……。
 口が裂けても打算ありで助けたなんて言えないな。
 助けた後どうしようかなぁ。

「——隙ありッ!」

 俺が事後処理について考えながら小さく息を吐くと、それをチャンスと見たのかチンピラの一人が剣で攻撃をしてきた。

 けど、そんなバレバレの攻撃が見えてないわけないだろ。

「隙なんかねぇよ。剣筋がバレバレだ」

 俺は剣を紙一重のところで回避する。

「おらァッ! 後ろだァッ!」

 次はもう一人のチンピラが俺の後ろから鉄の斧を振り下ろしてきた。
 普通ならこれで勝負ありになるんだが、いかんせん実力差がありすぎてそうもいかないのだ。

「当たり前の事だが、攻撃する時は余程の余裕でもない限り何も言わない方が賢明だ。後ろから攻撃することがバレてしまうからな。ほら……こんな風に避けられるだろ?」

 俺はチンピラの不意打ちに対して何の苦しい表情も浮かべずに回避し、背中を蹴り付けて意識を刈りとった。
 これじゃあ戦闘ではなく遊びをしているみたいだな。

 長引いても面倒だしここらで終わらせるとしよう。

「た、助けてくれぇっ! 俺は悪くない——」

「——もういい。お前らは少女が助けを求めた時もそれに応じなかっただろう?」

「ア……ァァ……」

 残された一人のチンピラが責任逃れをしながら命乞いを始めたが、俺は容赦なくその言葉を遮り、刀の柄の部分でチンピラの鳩尾を打った。
 チンピラは体をくの字に折り曲げ、苦悶の声を上げる間も無くその場に力無く倒れ込む。

 チンピラが倒れ込むと同時に懐からコインのようなものが落ちてきた。

「……なんだこれ」

 本当はじっくり確かめたかったが俺は少女にバレないように自分の懐に収め、すぐに少女の方へ向き直り、柔らかい表情を作り上げる。
 そして一言。

「……お嬢さん。お怪我は?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

処理中です...