上 下
6 / 91

新たな旅立ち

しおりを挟む
「地上に戻ってくるのも久しぶりだな」

 俺は無事に名も知らぬドラゴン種のモンスターを討伐し終えたあと、早々にダンジョンを抜け出し地上へと帰還していた。

 帰還方法は至って簡単。
 地上からの光が差し込むまで斬撃を上に飛ばし続け、無理矢理道を作るのだ。
 後はそこを駆け上がれば、楽に地上に辿り着けるというわけだ。

「とっととアノールドの冒険者ギルドに行って、マクロスの場所を調べるか」

 現在の時刻は太陽の位置から察するに真っ昼間だろう。
 ここから冒険者ギルドがあるアノールド活動拠点の国までは今の俺が全力で向かえばすぐに到着できそうだ。

 そうと決まればやることは一つ。
 俺は今出せる限界の八割ほどのスピードでアノールドへ向けて走り始めた。
 無計画にも程があるが頭よりも先に体を動かすタイプなのだ。

 走り始めて数分後。見覚えのある街並みがようやく視界に入ってきた。
 中には知らない建物も多くあったが、冒険者ギルドの存在感や王城の迫力は健在だった。

 流石は冒険者の数がここら一体の国の中でもナンバーワンなだけあるな。
 軍事力に関しては他国の追随を許さないだろう。

 久しぶりの帰還で柄にもなくワクワクしてしまった俺は一気にトップギアに入りスピードを上げることにしたのだが、思いの外スピードが出ていることに気がついた。
 狭いダンジョンの中ではスピードや力をどうしても制限せざるを得なかったせいか、広い地上だとどうしても手加減が難しくなりそうだな。

 そんなことを考えているうちにあっという間に国の唯一の入り口である正門に到着した。

「入国したいのですが」

 俺はすぐに初老の衛兵に声をかける。

 幸い人はいなかったため、怪しまれることなく振る舞えそうだ。
 俺が入国の手続きをしたのはここに初めて来た時——十歳の頃だが、その時と同じ手続きならば簡単に入国することができるはずだ。

「ふむ。冒険者ですかな?」

「ええ。ですが身分を証明できるものもなければ、入国金もないのですが、どうすれば良いでしょうか?」

 どの国でもそうだが、入国する時には入国金と呼ばれる金銭と身分を証明できるものが必要になる。
 身分を証明できるものには色々とあり、冒険者は無料で支給されるギルドカード、商人をしているものは商会からバッジが支給される。
 それ以外のものは国に書類を提出すれば住民票を発行してもらえるそうだ。

 ちなみに俺はダンジョンを攻略している時に全てを紛失している。

「そうですね。それらをお持ちでなくても入国することは可能です。しかし、入国から三日以内に再びこちらに来ていただきまして、入国金を納めて身分を証明していただく必要があります」

 ふむ。やはり十年前と変わっていなかったか。

 俺も十歳から冒険者を始めてこの制度のおかげで入国することができたのだ。
 
「わかりました。明日また来ます」

「明日? 失礼ですが、あなたは盗賊にでも襲われたのでしょう? 私の裁量で期間は少しですが延長できますから無理はなさらないでください」

 初老の衛兵は可哀想な浮浪者を見るような目で俺の全身を眺め始めた。

 どうやら俺はそれほどまでに見窄らしい見た目をしているらしい。
 着ていた袴はボロボロな布切れになり、髪だって伸びっぱなしでボサボサだ。
 側から見れば怪しいことこの上ない見た目だと言える。

「お気遣いどうも。では、失礼します」

 時間も惜しいので俺はとっとと門を潜り、冒険者ギルドへ向かうことにした。

 周囲からの「なんだこいつ」とでも言いたげな視線をチクチクと感じるが仕方がないだろう。





「——ゲイルさん? でしたか? 申し訳ありませんが、そのような方は当ギルドに登録されていませんが……」

「……え?」

 意気揚々とギルドに到着した俺の表情を凍らせたのは、受付嬢の意味のわからない一言だった。

 何言ってんだ? 俺は四年前までここでAランク冒険者として活動してたんだぞ。
 自分で言うのもなんだが、この国の中でも結構名は知れていたはずなんだがな。

「ですから、ゲイルさんという方は当ギルドに登録されていません。本当にお名前は合っていますか?」

 再登録しようとやってきたのにそんなことを言われても困る。
 何かの間違いだろう。

「ちょ、ちょっと確認してみてもいいですか?」

 俺は尚も困惑した表情を浮かべる受付嬢から名簿を受け取り、一つ一つ冒険者の名前を確認していく。
 五十音順に並べられた名簿の中には見知った名前の冒険者も多く見られ、そこにはマクロスの名前もしっかりと記されていた。

 パラパラと紙をめくっていくと、やっとのことで「ゲイル」と記されたページを見つけることができた。

「ほら。ちゃんとありますよ。Aランク冒険者のゲイルですよ。」

 俺は受付嬢に「ほらみたか!」と自慢するように名簿を見せる。

 やはり受付嬢の見間違いだったようだ。
 
「……あの……その方は既に亡くなられていますよ?」

「……え……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

ただの世界最強の村人と双子の弟子

ヒロ
ファンタジー
とある村にある森に、世界最強の大英雄が村人として生活していた。 そこにある双子の姉妹がやってきて弟子入りを志願する! 主人公は姉妹、大英雄です。 学生なので投稿ペースは一応20時を目安に毎日投稿する予定ですが確実ではありません。 本編は完結しましたが、お気に入り登録者200人で公開する話が残ってます。 次回作は公開しているので、そちらも是非。 誤字・誤用等があったらお知らせ下さい。 初心者なので訂正することが多くなります。 気軽に感想・アドバイスを頂けると有難いです。

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました

ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。 そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった…… 失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。 その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。 ※小説家になろうにも投稿しています。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

うどん五段
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...