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第五章

【エルフ】キリエ・シルフベルは癒されたい 4

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 二人に連れられてやってきたのは、森の中でも少し開けた草原地帯。
 そこには大木がベンチ代わりかのように横に倒れている。
 元気なドリアードの男の子と女の子が、俺のことを挟み込むようにして座る。

「ぼくはリーフ。こっちは妹のフローラ。見ての通り双子だよ」

「確かに、顔つきが似ているな」

「ねえ、おにーさん、遊びは楽しかったけど、ちょっと聞いてほしい話があるんだ」

 俺が互いの顔を見比べていると、リーフが真剣な表情で言った。

「何か悩みでもあるのか?」

 俺が尋ねると、リーフは少しうつむく。

「実はね、森の中で遊んでいると、エルフたちと一緒に遊んでたころのことを思い出すんだ。最近、エルフたちがあまり森に来なくなって、ぼくたちも少し寂しいんだ」

「ソロモン兄ちゃんと遊んで思い出しちゃったの。わたしたちはエルフたちのことが大好きなのに、エルフたちはわたしたちのところに来なくなっちゃったの」

 リーフとフローラの言葉の意味がよくわからなかった。

 おかしい。明らかにおかしい。キリエさんから聞いていた内容だと、ドリアード側がエルフを避けているような、確執があるような、そんなニュアンスだった気がする。

 でも、二人の反応を見る限り、そういうわけではないのか?

「えーっと……エルフとドリアードは昔はよく一緒に過ごしていたのかい?」

 俺は無知を装って尋ねた。

 リーフは頷く。

「うん、そうだよ。エルフたちと一緒に遊んでたし、お互いに助け合っていたんだ。でも、あるときからエルフたちがあまり来なくなって、ぼくたちだけで遊ぶことが多くなったんだ」

 リーフの言葉を聞いたフローラも加わる。

「わたしたちのことを忘れてしまったみたいで悲しいの」

「……そうか。ちなみに、風の噂で聞いたんだけど、エルフとドリアードは太古の昔に仲が悪かったとか?」

 試しに確認してみる。
 食い違いがありそうだから慎重に。

「それはぼくたちの仲間が悪いんだ」

 リーフは頬を膨らませていた。見た目だけならただの男の子だから可愛いだけだ。

「……ドリアードは、一体どんな悪行をしでかしたんだ?」

「おやつのリンゴをエルフにつまみ食いされた腹いせに、エルフのありもしない悪口を言いふらしたんだよ! ひどいよね!」

「お、おやつのリンゴ?」

 思わず素っ頓狂な声を漏らす。

「うん。ソロモン兄ちゃんはリンゴ好き?」

「好き、だけど……」

「食べてみて!」

 フローラは手のひらから小さなリンゴを出現させた。
 ポンっ……と、小気味良い音で唐突に現れた。

「ん? どうやって出したんだ?」

「ドリアードは全部の植物を自由に操れるんだよ。それよりも、いいから食べて食べて!」

「むぐっぅ……お、う、うまい!」

 説明そっちのけで小さなリンゴを口に突っ込まれたが、その味は何とも美味だった。

 うまい、うますぎる! 人間界で食った色の薄くて果汁のないパサついたリンゴとは訳が違う。ジューシーで肉厚で味が濃い!

「このリンゴを大事に残しておいて勝手に食べられたら、怒る気持ちはわかるかもしれない……」

 あっという間に咀嚼した俺は、しょうもない理由に納得してしまう。

 リンゴを褒められて嬉しいのか、それとも理解してくれて嬉しいのか、リーフとフローラは自慢げに胸を張っている。

「ふふんっ、でねでね……おにーさんに頼みがあるんだ!」

「ソロモン兄ちゃんにしかできないこと!」

 リーフとフローラは大木から飛び降りて、俺の目の前に立った。

「俺にしかできないこと?」

「うん! おにーさんは魔人ハーフデーモンだから、人間の気持ちも魔族の気持ちもわかるでしょ?」

「まあ、多分」

「だから、エルフの誤解を解いてここに連れてきてほしいの! わたしたちは昔みたいにエルフと遊びたいの! お願い!」

「お願い!」

「わかった! おにーさんに任せなさい!」

 俺は二つ返事で快諾した。

 つぶらな瞳で見上げられたら抗えない。
 
 キリエさんが変態化する理由がわかる気がする。この子たちの愛嬌と可愛らしさは誰にも負けない。
 容姿もさることながら言動一つ一つがとんでもないくらい愛らしい。

「ありがとー! それじゃあ、もう少しぼくたちとあそぼーよ!」
「ぼーよ!」

「いいぞ。んじゃ、今度は鬼ごっこだな! 逃げていいぞ!」

「わーーーーい!」
「逃げろー!」

 こうして、俺はリーフとフローラと共に、楽しい楽しいひと時を過ごしたのだった。


    









 
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