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3:年上上司の愛し方(※)

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 一晩で一気に関係が進んでしまった。濱口は満足感と信じられない気持ちで寝転がっていた。自分に愛撫され、乱れていた奥村の先程までの姿を思うと胸が熱くなる。慣れてないと言われた言葉に驚いたが、もうそれならばと押せ押せでいけたのも大きい。今まで知らなかった彼の深くを知れたようで、とにかく嬉しくて仕方がなかった。
 二人でベッドに移動してぼんやり寝転がっていると、ぼうっとした奥村が体を寄せてくる。暖を取りに来る猫のようですごく可愛らしい。

「……前に……お前はこういうことしたいのかなって、思って」
「え、うん……」
「そういう、とこ、ネットとかで見たら、ちょっと無理で。気持ち悪く……なっちまって……」

 軽い感じとか、パートナー探すとか、オレ、お前がどういうことしたいのかわかんなくなって、と頬を赤らめながら一つずつ言葉にしていく。

「お前は男がスキなわけじゃねえって言ってたし、じゃあ……オレの何がスキなのかわかんねえ、意味わかんねえから。仕事忙しくて考えられない間に、今日のこと、きいて……焦って……女の方がやっぱりいいのかも、とか……くっそ……女々しい……こと考えちまうし!」

 ぽつぽつと紡がれる言葉に、濱口はもう十分!と衝動にかられ、礼人さん! と抱き締めてキスをした。

「オレがどんだけスキか、すげえわからせてえんだけど……」

 音を立てながら何度も口付けて、体を重ねて見つめ合う。奥村はずっと照れて濱口をみてくれなかったけれど、ようやくゆっくりと視線をあわせてくれた。

「礼人さんが……そういうの、ダメなら……オレもちゃんと待つし。どうしたいか言ってくれたらなって思う」
(きついけど! 慣れてないなんてきいて超興奮してるけど! 礼人さんに嫌われたくねえし!)

 本音と言葉が交錯するが、濱口はとても幸せで、心の中があたたかく満たされていくのが自分でもわかる。まだ不安そうな目の奥村の髪をゆっくりと撫で、少し潤んでいた目元を指の腹で拭った。恥ずかしそうに視線を何度か揺らし、けれど、また見つめてくるきれいな瞳に、濱口は思わず笑いかける。

「ごめん。オレ、礼人さんは男とも経験あるのかなって思ってた」
「んなっ……!?」
「すげえ色っぽいから。こう、魔性感がすごくて!」
「ま、魔性!? は!?」
「いや、誤解しててゴメンナサイ」
「……意味わかんねえ」

 年上だし、オレの気持ち、結構抵抗なく受け入れてくれてたから、そういうのあったのかなって……と言うと、奥村は少ししょげたような表情になる。やはり、こういうことをリードできないというのは、彼の中では堪え難い屈辱なのかもしれない。
 しまった、と濱口は焦り、あの、そういう意味じゃなくて無理しなくていいよ……とよくわからない弁解を始めようとしたのだが、奥村が意を決したようにゆっくりと唇を開いた。

「……ぃい……」
「え?」
「お前となら……いい。初めてだから、うまくできねえけど。それでもいいなら、したい……かもって思ってる」

 そんなことを震えながら言われて、興奮しないはずがない。ごくりとまた鳴りそうな喉を抑えて、緊張が伝染してくるのを必死でおさえる。奥村の細い手に指をからめ、ぎしり、と体重をかけると、また不安そうな視線が濱口に向けられた。

「いい、の?」

 ほんとに、と最終確認のように濱口も心臓の音が耳の奥で鳴り響く中、必死になりすぎないように問いかけた。奥村はもう片方の震える指先を濱口に伸ばし、ぎゅうっと彼を抱き締める。あたたかな心臓の音が重なり、耳元で互いの息が交わる。

「スキに……しろよ」

 スタートの合図のように告げられた言葉で、また視線が交わるが、それに戸惑いの色はない。閉じた視界の中で、もう一度スキと呟いて、あとは言葉を奪うような口付けを繰り返し息を飲むだけ。
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