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1:年上上司の口説き方
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「……す……すみません……」
「……」
しばらく黙った奥村は、意味わかんねえ、と静かに呟き、ソファーを立ち上がってデスクを片付け始めた。濱口はソファーに座ったまま、耳の奥でどっどっどっ、と心臓の音が響くのを自覚し始める。
(やばい、何か、言わないと……!)
好きなんです、ともう一度漏れるように口から出ていた言葉に、奥村は一度動きを止めて、お前、男が好きなのか、と訊いた。
「いえ、そうじゃ……ない……はずなんですけど……」
「そうか」
じゃあ、くだらない賭けでもしてるのか、と呆れた声が聞こえてきたので、思わず立ち上がって、違います! と叫んでいた。
「そういうんじゃなくて! オレ、本気で……っ!」
濱口の声に驚いた奥村が突っ立っているのを、あああ、もう! と肩を引き寄せて抱き締める。なんだか情けなく、泣きそうな声で、大好きなんです……という声が絞り出ただけだった。
ぎゅうっと力いっぱい抱き締める。そんなに身長差はないが、自分よりも薄い体だと思った。すごくいい匂いがする。煙草でもなく、チョコでもコーヒーでもなくて。首筋かな、コロンかな……なんて思って抱き締めて鼻を埋めようとしたが、ぐっと拳で押され、離されてしまった。我に返った濱口が奥村を見ると、彼は俯いたまま、眉間に深い皺を刻み、意味わかんねえよ、とまた呟いた。
「お前……からかうのも、いい加減にしろ」
「違……っ、オレ、本気で……!」
「もっと意味わかんねえだろうが!」
頭冷やせ、と奥村は低い声で言うと、ノートパソコンを閉じ、濱口を置いたままフロアを出ていった。いつもより乱雑な靴音が誰もいないフロアに響く。エレベーターの開く音がなったところで、濱口は力が抜けてその場に座り込んだ。
(……さい……てい……っ!)
多分、少しは向けられていた好意よりの感情も、信頼も、全部。全部白紙になってしまったんじゃないだろうか。最初から玉砕覚悟だなんて思っていたけれど、でも……
(オレ……最低……だ……!)
後悔でぐちゃぐちゃの頭の中でも、唇柔らかかった……なんて思ってしまう自分の煩悩に呆れて、また、真夜中一人きりのオフィスで膝を抱えて叫びたくなってしまった。その腕に抱き締めた感触を忘れることなどできそうになくて。
「……」
しばらく黙った奥村は、意味わかんねえ、と静かに呟き、ソファーを立ち上がってデスクを片付け始めた。濱口はソファーに座ったまま、耳の奥でどっどっどっ、と心臓の音が響くのを自覚し始める。
(やばい、何か、言わないと……!)
好きなんです、ともう一度漏れるように口から出ていた言葉に、奥村は一度動きを止めて、お前、男が好きなのか、と訊いた。
「いえ、そうじゃ……ない……はずなんですけど……」
「そうか」
じゃあ、くだらない賭けでもしてるのか、と呆れた声が聞こえてきたので、思わず立ち上がって、違います! と叫んでいた。
「そういうんじゃなくて! オレ、本気で……っ!」
濱口の声に驚いた奥村が突っ立っているのを、あああ、もう! と肩を引き寄せて抱き締める。なんだか情けなく、泣きそうな声で、大好きなんです……という声が絞り出ただけだった。
ぎゅうっと力いっぱい抱き締める。そんなに身長差はないが、自分よりも薄い体だと思った。すごくいい匂いがする。煙草でもなく、チョコでもコーヒーでもなくて。首筋かな、コロンかな……なんて思って抱き締めて鼻を埋めようとしたが、ぐっと拳で押され、離されてしまった。我に返った濱口が奥村を見ると、彼は俯いたまま、眉間に深い皺を刻み、意味わかんねえよ、とまた呟いた。
「お前……からかうのも、いい加減にしろ」
「違……っ、オレ、本気で……!」
「もっと意味わかんねえだろうが!」
頭冷やせ、と奥村は低い声で言うと、ノートパソコンを閉じ、濱口を置いたままフロアを出ていった。いつもより乱雑な靴音が誰もいないフロアに響く。エレベーターの開く音がなったところで、濱口は力が抜けてその場に座り込んだ。
(……さい……てい……っ!)
多分、少しは向けられていた好意よりの感情も、信頼も、全部。全部白紙になってしまったんじゃないだろうか。最初から玉砕覚悟だなんて思っていたけれど、でも……
(オレ……最低……だ……!)
後悔でぐちゃぐちゃの頭の中でも、唇柔らかかった……なんて思ってしまう自分の煩悩に呆れて、また、真夜中一人きりのオフィスで膝を抱えて叫びたくなってしまった。その腕に抱き締めた感触を忘れることなどできそうになくて。
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