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建国~対列強~編
171 いざ!グワルフへ【中編】
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無事、教会領に入った私たち。ここでいったん隊列を離れて、私は中央教会へと赴いた。せっかくだから国の代表として、顔を繫いでおこうと思ったんだ。…大変な思いをすることも知らずに。
「これはこれは。ようこそお越し下さった」
好々爺然としたおじいちゃん司祭様が応対してくれたんだ。それはいい。好感触だし。
問題は…
「?サイラス殿、お加減がよろしくないのかな?」
「な…ハハハ。強行軍だったもので、顔色が悪いかもしれませんね」
「額に汗が…。ご無理なさらずとも…?」
「あ…厚着しておりましてぇ~…」
私、魔物。
ここ、教会。しかも中心部。
めっちゃ気分が…うあぁ~…ぎぼぢわるぅ~い!
背中が汗びっしょりだよ。もっと気持ち悪い。眩暈がっ!吐き気がっ!ぐああっ!
気張れ!私!
『私』はその昔、急性胃腸炎でも笑顔で会議・プレゼンやった女だ!できるっ!
……。
……。
「サイラス君?!ちょ…さっきなんかすごい音がした…わぁ!顔、真っ青よ!どうしたのっ?!」
ヘロヘロになって、馬車に入るや倒れこんだ私に、エヴァがギョッとした。
「横になりな?ほら、私の膝を枕にして、ね?」
無謀をやらかしてスミマセン…。
横になり、衣服を弛め(体型補正も解いた)横を向いて…グロッキーな私を乗せて、馬車は再び動き出した。
◆◆◆
ゴトゴト揺れる中、まんじりともせずに夜を明かし、起きたら教会領に来ていた。
荷馬車の中から、そっと幌を持ち上げた侯爵子息。最後尾だから、前の様子はわからない。イヴァンジェリン殿下は先頭の馬車か?
あっ。サイラスが馬車を離れた。
これはチャンスだ!早速ご挨拶に行こう!
いそいそと荷馬車の中で衣服を整えいざ出陣!というところで、靴が片方ないことに気づいた。おかしいな…確か寝る前に脱いで…どこやった??薄暗い荷馬車の中を引っ掻き回し、ようやく靴と再会。意気揚々と、荷馬車から降り、先頭の馬車へ。
「あ゛ぁ~…やりきった…やりきったよぉ…」
颯爽と扉に手をかけたところで、
ゴン!
「ベッ?!」
バゴッ!
何かが突然侯爵子息の背中に激突したから堪らない。しかも相手はご丁寧に、侯爵子息の膝裏にも一撃を入れてくれた。ガクリと膝から頽れ、さらに背中に相手の体重が丸ごと乗っかり、侯爵子息は馬車の扉に顔から突っ込んだ。
「*□∵▽≒※~」
扉で顔を擦るように崩れ落ちた侯爵子息。馬車の扉に二筋の鼻血の痕がついた。グシャアッと、ヒトにぶつかってコケやがった不届き者に巻きこまれる形で、地面にキスをした侯爵子息の悲劇は、これで終わりではなかった。
「お゛…お゛も……ふぐぉ?!」
なんとはた迷惑な不届き者、立ち上がって侯爵子息の背中と頭を踏んづけていった。おかげで、侯爵子息は地面と熱烈なディープキスをするハメに陥った。ちょっと…いや、かなり見られない格好になった侯爵子息。しばらく立ち上がれなかった。
◆◆◆
教会領を出発してすぐ。
私たちは、例の『魔窟』に直通するという森に辿り着いた。
「おい、ゴブリンがいるぞ!」
馭者さんが叫んだ。きたか。
「今そっちに行くから」
馬車を降りてみると、一匹のゴブリンが……喜色満面に駆け寄ってきた。もみ手すってるよ、このゴブリン。
「…お仕事ご苦労様」
厨二魔王から話がいっているようで何よりだ。
ゴブリンの案内で、馬車の隊列は森へ進入。途中で透明な壁を通り抜けたような不思議な感触があった。ダンジョンの入口かな?
ダンジョンの中は、道というよりただっ広い空間が続いているという感じ。魔物はそこかしこにいた。襲ってはこないけど、ジィーッと物珍しそうに馬車の隊列を眺めている。野次馬だ。カルビ君がこれ見よがしに、馭者さんの膝の上でふんぞり返っていた。可愛い。一緒になってふんぞり返っているキノコが邪魔。
「なぁ…サイラス君。ダンジョンって馬車の隊列で素通りできるものだっけ?」
引き攣った顔のイライジャさんに聞かれた。
「フツーはできないね」
だってコイツら、みぃ~んな追い剥ぎだし。今日は入れたからって、ホイホイダンジョンに行かないでね?身ぐるみ剥がれてスッポンポンにされるよ?
そして…進み始めてどれくらい経ったのだろう。途中から洞窟とあって空が見えないから、時間の経過がわからないのだけど…感覚にして約半日くらい?私たちはゴブリンの案内で、サイクロプスがいるボス部屋に辿り着いた。エヴァ曰く、ここを通り抜ければ例の砦前まで行けるという。
「じゃ、イライジャさん。行くよ?」
「うう~…わかったよ。何度も聞くけど、出会い頭にひと飲みにされないよね?大丈夫なんだよね?」
渋々厭々のイライジャさんを促して馬車から降りて、上を見上げた。
遥か頭上に真っ赤な目玉が一つ、こちらを見下ろしている。禿頭に大きな角が一本屹立し、鷲鼻に大きな口。筋骨隆々とした巨軀は緑色。手には、殴られたら一発でミンチ間違いなしな巨大な金棒を持っている。
「……デケぇ」
私の竜体より体積あるぞ。恐々馬車から降りてきたエヴァも、あんぐりと口を開けた。
「サ~イ~ク~ロ~プ~ス~!!」
イライジャさんが泣き声でしがみついてきた。
「ウガ、ウギギッ」
「ああ。今降ろすよ」
案内役のゴブリンに急かされて、私は気持ちを切り替えた。
「イライジャさん、例の荷物、全部ここに降ろすから。荷卸し手伝って」
ダンジョンの通行料は、三台の荷馬車に満載した果実水とクッキー。オリバーの店で買い占めてきた。これで誰にも知られず、国境まで行けるのなら安い通行料だ。
「ウガッウガッ」
ゴブリン、嬉しそう。一応、魔王様への贈り物だけど、コイツらにも分け前があるのかな。
「ダンジョンの実績にカウントしてよしって魔王様から寛大なご許可があったんだぞ、ブゥ」
「あっそ…」
◆◆◆
なんか滅茶苦茶ヤバい気配がする。隠れていた馬車の幌から恐る恐る外を窺い見た侯爵子息の目に映ったのは……巨大な膨ら脛。そして、聞こえてきたのは…
「サ~イ~ク~ロ~プ~ス~!!」
オッサンの泣き声だ。サイクロプス?!もう一回巨大な膨ら脛を見た。膨ら脛でも巨木並みの太さがある。ということは、怪物はどれだけデカいのか…。侯爵子息が馬車の中で震え上がったその時、
「わぁ…本物は迫力あるねぇ」
鈴を振るような女性の声を耳が拾った。
「イヴァンジェリン王太女殿下?!」
なぜこんな魔窟に王太女殿下が?!侯爵子息は思わず幌から飛び出した。声を追えば、居並ぶ馬車の向こうに青色のスカートが見える。
(怪物の前で呑気に!)
…いや、深窓の姫君だ。怪物なんて生まれて初めて見るんだろう。恐怖よりも珍しさが勝ってしまったのだろうか。
「贈り物…足りなかったかな」
この声は…!
サイラス・ウィリス?!
侯爵子息の脳裏にあらぬ妄想が膨れあがった。もしやサイラス、王太女殿下を騙してこの怪物の生贄に差し出したとか…?さっき奴は『贈り物』とか言っていたし、間違いない。侯爵子息は思いこんだ。
なら、自分は王太女殿下を華麗に救出するまでだ。…自分の腕力や魔力で怪物をどうこうできるかは考えなかった。
「王太女殿下!今お助けしますぞーっ!」
悪辣なサイラスは実は女だ。男の自分には到底敵うまい、と侯爵子息は考えた。柄に魔石を嵌めた呪印付の短剣をサイラス目がけて振り下ろす――
「《ウォータージェット》!」
凛とした詠唱。直後、白い一閃が魔石ごと短剣の柄を打ち砕いた。
「?!」
しかし、走りだしたら急には止まれない。勢いのまま、侯爵子息はサイラスに突撃し、絶妙な位置で…
グギッ
足首がガクッとなった。そして…
「ふぎゅおっ?!」
何か柔らかいものが顔に当たった。温かい。なんかいい匂いがする。これは…!…サイラスは実は女だ。コレの正体は考えるまでもない。侯爵子息の心は、羽のように舞い上がった。
しかし…。
舞い上がった後は、必ず落ちるものだ。
「サイラス君に何してくれんだあ゛あ゛っ?」
「ごっふぁーッ!?」
襟首摑まれて「ぐえっ」となったか思うと、横っ面を強烈な右フックが直撃した。侯爵子息は吹っ飛んで地を転がった。え?何…今の。気のせいじゃなければ、王太女殿下と同じ声だったような…
「うわーん!サイラス君は私のなのにぃ~!」
泣きながらヒトの胸をモミモミする……エヴァ。地面には、鼻血垂らして呆けた顔の貴族。
「……。」
えっとぉ…誰コイツ?エヴァ、教えて?
「えぇ~…ルッドゥネス侯爵のどら息子だよ」
ルッドゥネス……ああ、エヴァの伴侶候補か。
「淫蕩野郎で有名なの」
「……そう」
エヴァにちょっかいかけに馬車に忍びこんだのかな。まあせっかく出てきたし?セクハラもしてくれたし?
私はルッドゥネス侯爵子息とやらを、近くにいたゴブリンに差し出した。
「コレも実績にしていーよ」
「ウガガッ♪」
さて、念のため他に侵入者がいないかチェックして。次行きますか!
「これはこれは。ようこそお越し下さった」
好々爺然としたおじいちゃん司祭様が応対してくれたんだ。それはいい。好感触だし。
問題は…
「?サイラス殿、お加減がよろしくないのかな?」
「な…ハハハ。強行軍だったもので、顔色が悪いかもしれませんね」
「額に汗が…。ご無理なさらずとも…?」
「あ…厚着しておりましてぇ~…」
私、魔物。
ここ、教会。しかも中心部。
めっちゃ気分が…うあぁ~…ぎぼぢわるぅ~い!
背中が汗びっしょりだよ。もっと気持ち悪い。眩暈がっ!吐き気がっ!ぐああっ!
気張れ!私!
『私』はその昔、急性胃腸炎でも笑顔で会議・プレゼンやった女だ!できるっ!
……。
……。
「サイラス君?!ちょ…さっきなんかすごい音がした…わぁ!顔、真っ青よ!どうしたのっ?!」
ヘロヘロになって、馬車に入るや倒れこんだ私に、エヴァがギョッとした。
「横になりな?ほら、私の膝を枕にして、ね?」
無謀をやらかしてスミマセン…。
横になり、衣服を弛め(体型補正も解いた)横を向いて…グロッキーな私を乗せて、馬車は再び動き出した。
◆◆◆
ゴトゴト揺れる中、まんじりともせずに夜を明かし、起きたら教会領に来ていた。
荷馬車の中から、そっと幌を持ち上げた侯爵子息。最後尾だから、前の様子はわからない。イヴァンジェリン殿下は先頭の馬車か?
あっ。サイラスが馬車を離れた。
これはチャンスだ!早速ご挨拶に行こう!
いそいそと荷馬車の中で衣服を整えいざ出陣!というところで、靴が片方ないことに気づいた。おかしいな…確か寝る前に脱いで…どこやった??薄暗い荷馬車の中を引っ掻き回し、ようやく靴と再会。意気揚々と、荷馬車から降り、先頭の馬車へ。
「あ゛ぁ~…やりきった…やりきったよぉ…」
颯爽と扉に手をかけたところで、
ゴン!
「ベッ?!」
バゴッ!
何かが突然侯爵子息の背中に激突したから堪らない。しかも相手はご丁寧に、侯爵子息の膝裏にも一撃を入れてくれた。ガクリと膝から頽れ、さらに背中に相手の体重が丸ごと乗っかり、侯爵子息は馬車の扉に顔から突っ込んだ。
「*□∵▽≒※~」
扉で顔を擦るように崩れ落ちた侯爵子息。馬車の扉に二筋の鼻血の痕がついた。グシャアッと、ヒトにぶつかってコケやがった不届き者に巻きこまれる形で、地面にキスをした侯爵子息の悲劇は、これで終わりではなかった。
「お゛…お゛も……ふぐぉ?!」
なんとはた迷惑な不届き者、立ち上がって侯爵子息の背中と頭を踏んづけていった。おかげで、侯爵子息は地面と熱烈なディープキスをするハメに陥った。ちょっと…いや、かなり見られない格好になった侯爵子息。しばらく立ち上がれなかった。
◆◆◆
教会領を出発してすぐ。
私たちは、例の『魔窟』に直通するという森に辿り着いた。
「おい、ゴブリンがいるぞ!」
馭者さんが叫んだ。きたか。
「今そっちに行くから」
馬車を降りてみると、一匹のゴブリンが……喜色満面に駆け寄ってきた。もみ手すってるよ、このゴブリン。
「…お仕事ご苦労様」
厨二魔王から話がいっているようで何よりだ。
ゴブリンの案内で、馬車の隊列は森へ進入。途中で透明な壁を通り抜けたような不思議な感触があった。ダンジョンの入口かな?
ダンジョンの中は、道というよりただっ広い空間が続いているという感じ。魔物はそこかしこにいた。襲ってはこないけど、ジィーッと物珍しそうに馬車の隊列を眺めている。野次馬だ。カルビ君がこれ見よがしに、馭者さんの膝の上でふんぞり返っていた。可愛い。一緒になってふんぞり返っているキノコが邪魔。
「なぁ…サイラス君。ダンジョンって馬車の隊列で素通りできるものだっけ?」
引き攣った顔のイライジャさんに聞かれた。
「フツーはできないね」
だってコイツら、みぃ~んな追い剥ぎだし。今日は入れたからって、ホイホイダンジョンに行かないでね?身ぐるみ剥がれてスッポンポンにされるよ?
そして…進み始めてどれくらい経ったのだろう。途中から洞窟とあって空が見えないから、時間の経過がわからないのだけど…感覚にして約半日くらい?私たちはゴブリンの案内で、サイクロプスがいるボス部屋に辿り着いた。エヴァ曰く、ここを通り抜ければ例の砦前まで行けるという。
「じゃ、イライジャさん。行くよ?」
「うう~…わかったよ。何度も聞くけど、出会い頭にひと飲みにされないよね?大丈夫なんだよね?」
渋々厭々のイライジャさんを促して馬車から降りて、上を見上げた。
遥か頭上に真っ赤な目玉が一つ、こちらを見下ろしている。禿頭に大きな角が一本屹立し、鷲鼻に大きな口。筋骨隆々とした巨軀は緑色。手には、殴られたら一発でミンチ間違いなしな巨大な金棒を持っている。
「……デケぇ」
私の竜体より体積あるぞ。恐々馬車から降りてきたエヴァも、あんぐりと口を開けた。
「サ~イ~ク~ロ~プ~ス~!!」
イライジャさんが泣き声でしがみついてきた。
「ウガ、ウギギッ」
「ああ。今降ろすよ」
案内役のゴブリンに急かされて、私は気持ちを切り替えた。
「イライジャさん、例の荷物、全部ここに降ろすから。荷卸し手伝って」
ダンジョンの通行料は、三台の荷馬車に満載した果実水とクッキー。オリバーの店で買い占めてきた。これで誰にも知られず、国境まで行けるのなら安い通行料だ。
「ウガッウガッ」
ゴブリン、嬉しそう。一応、魔王様への贈り物だけど、コイツらにも分け前があるのかな。
「ダンジョンの実績にカウントしてよしって魔王様から寛大なご許可があったんだぞ、ブゥ」
「あっそ…」
◆◆◆
なんか滅茶苦茶ヤバい気配がする。隠れていた馬車の幌から恐る恐る外を窺い見た侯爵子息の目に映ったのは……巨大な膨ら脛。そして、聞こえてきたのは…
「サ~イ~ク~ロ~プ~ス~!!」
オッサンの泣き声だ。サイクロプス?!もう一回巨大な膨ら脛を見た。膨ら脛でも巨木並みの太さがある。ということは、怪物はどれだけデカいのか…。侯爵子息が馬車の中で震え上がったその時、
「わぁ…本物は迫力あるねぇ」
鈴を振るような女性の声を耳が拾った。
「イヴァンジェリン王太女殿下?!」
なぜこんな魔窟に王太女殿下が?!侯爵子息は思わず幌から飛び出した。声を追えば、居並ぶ馬車の向こうに青色のスカートが見える。
(怪物の前で呑気に!)
…いや、深窓の姫君だ。怪物なんて生まれて初めて見るんだろう。恐怖よりも珍しさが勝ってしまったのだろうか。
「贈り物…足りなかったかな」
この声は…!
サイラス・ウィリス?!
侯爵子息の脳裏にあらぬ妄想が膨れあがった。もしやサイラス、王太女殿下を騙してこの怪物の生贄に差し出したとか…?さっき奴は『贈り物』とか言っていたし、間違いない。侯爵子息は思いこんだ。
なら、自分は王太女殿下を華麗に救出するまでだ。…自分の腕力や魔力で怪物をどうこうできるかは考えなかった。
「王太女殿下!今お助けしますぞーっ!」
悪辣なサイラスは実は女だ。男の自分には到底敵うまい、と侯爵子息は考えた。柄に魔石を嵌めた呪印付の短剣をサイラス目がけて振り下ろす――
「《ウォータージェット》!」
凛とした詠唱。直後、白い一閃が魔石ごと短剣の柄を打ち砕いた。
「?!」
しかし、走りだしたら急には止まれない。勢いのまま、侯爵子息はサイラスに突撃し、絶妙な位置で…
グギッ
足首がガクッとなった。そして…
「ふぎゅおっ?!」
何か柔らかいものが顔に当たった。温かい。なんかいい匂いがする。これは…!…サイラスは実は女だ。コレの正体は考えるまでもない。侯爵子息の心は、羽のように舞い上がった。
しかし…。
舞い上がった後は、必ず落ちるものだ。
「サイラス君に何してくれんだあ゛あ゛っ?」
「ごっふぁーッ!?」
襟首摑まれて「ぐえっ」となったか思うと、横っ面を強烈な右フックが直撃した。侯爵子息は吹っ飛んで地を転がった。え?何…今の。気のせいじゃなければ、王太女殿下と同じ声だったような…
「うわーん!サイラス君は私のなのにぃ~!」
泣きながらヒトの胸をモミモミする……エヴァ。地面には、鼻血垂らして呆けた顔の貴族。
「……。」
えっとぉ…誰コイツ?エヴァ、教えて?
「えぇ~…ルッドゥネス侯爵のどら息子だよ」
ルッドゥネス……ああ、エヴァの伴侶候補か。
「淫蕩野郎で有名なの」
「……そう」
エヴァにちょっかいかけに馬車に忍びこんだのかな。まあせっかく出てきたし?セクハラもしてくれたし?
私はルッドゥネス侯爵子息とやらを、近くにいたゴブリンに差し出した。
「コレも実績にしていーよ」
「ウガガッ♪」
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