優しい手に守られたい

水守真子

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番外編

夫婦から家族へ 10 ※R18

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「かな、ただいま」

 亮一の声がするのに目が開かない。可南子は寝返りを打って声のする方を向いたが、それで精いっぱいだった。
 この一週間はずっと緊張をしていたらしい。亮一にすべてを受け止めてもらい、美味しい食事をしたことで、張りつめていた気持ちが解(ほど)けた。瞼が重くて開かないほどに眠い。

 なんとか、途切れ途切れの記憶を辿り寄せる。
 昨夜、可南子は食事が終わった頃にはすでにうとうととしていて、亮一と握っていた手を頼りに家まで帰ってきたようなものだった。帰宅してすぐ亮一が湯船に湯を張ってくれた。薄荷(はっか)の香りのする入浴剤を更湯(さらゆ)溶かしてもらい、冷えた身体が隅々まで温まるとベッドに横になった。昨夜はそれからの記憶が無い。朝方、亮一に『ジムに行ってくる』と声を掛けてもらった気がするのだがこれも定かではない。

 それでも寝すぎてしまったことはわかり、どうにか起きようと瞼を強くこすった手は、大きな手にやんわりと包まれた。

「傷がつく」

 亮一の手はいつも熱く感じるのだが今は体温の差を感じなかった。自分の体温が高いのだ。エアコンが効いた部屋は暖かいが布団の中の温もりには敵わない。
 明日も会社でいつまでも寝ているわけにもいかず、可南子は力を入れるために亮一の手を握り返したが、自分でも情けないくらい力が入らなかった。
 小さく溜息を付きながら目を開け、すぐに閉じる。一瞬視界に入った自分の手を握っている亮一の手の残像が、可南子の胸の高鳴りを呼び起こした。はっきりと速くなった鼓動に呼吸を僅かに乱されながら、もう一度目を開ける。
 寝起きの心の隙間にするりと入り込んだ亮一の優しいまなざしは、木の枝の先から漏れてくる夏の日差しのようだった。眩しくて可南子は目を細める。

「ずっと寝てたのか」
「ん……」
「水は」
「飲む……飲みます……」

 出した声は掠れていた。水を飲みに行くために身体を起こそうとすると掛け布団の上からポンポンと肩を叩かれた。頭に疑問が浮かんだ数秒後、可南子の乾いた唇に亮一の濡れた唇が触れる。

「んっ」

 驚いた口の端から水が一筋零れた。亮一の肩に手をやって押し戻すがまったく動かない。少しずつ流れ込んでくる水を飲み干すしかなく、閉ざそうとした唇をやむなく開いた。全てを飲み終わった可南子が口を拭うと、またペットボトルの水を口に含んでいる亮一と目が合う。

「自分で飲めるから」

 起き上がり亮一が手に持っているにペットボトルに手を伸ばしたが避けられた。頬を両手で包むように捉えられて再び唇が触れ合う。
 膝立ちのまま水を流し込まれ、可南子は亮一の腕を掴んだまま飲み干す。水分を摂った身体が安堵したのも束の間、そのまま角度を変えながら咥内をまさぐる深い口づけに繋がった。熱い劣情を吹き込むように、亮一は可南子の頬を支えたまま角度だけでなく幾度も口づけの深さも変える。
 可南子が息苦しさに亮一の肩を押すと、亮一は飢えたような低い声を喉から出して可南子をベッドの上に押し倒した。身体を溶かすような情熱的な口づけに、寝起きの可南子は混乱した。

「抱きたい」

 カーテンが引かれても明るい部屋に可南子は「夜に」と目を俯かせて答える。亮一は、レースカーテンは遮像を選ぶが、遮光カーテンが嫌いらしく薄い光を通すものしか使わない。陽光に恵まれた部屋は冬の昼間とはいえ明るい。

 可南子の返事が聞こえなかったのか、亮一は可南子のスウェットを押し上げて腕から抜いて脱がせた。肌に感じたヒヤリとした外気は、亮一に覆いかぶされて緩和する。
 亮一は椀を返したような形の良い乳房のぴんと尖り出た桃色の乳首を指の間で挟み、白い膨らみを揉みしだく。淫靡な痺れが下腹部に溜まり、両脚の間はすぐに潤った。可南子の口から甘い喘ぎ声が吐息と一緒に漏れると、亮一の手つきはますます急(せ)いた。

 可南子を裸にすると亮一も服を脱ぎ、身体を隠そうとする可南子を四肢で囲い筋肉質の身体で覆う。可南子が視線を下に移すと猛(たけ)りが反り返っていた。可南子は何度見ても慣れないそれから目を逸らす。

 膝の裏に手を入れられ亮一に腰を持ちあげられた。可南子は肩甲骨から上だけで身体を支える格好になり、両脚の間に亮一の顔がよく見える。その光景に呆然としていると亮一は迷いなく可南子の秘所に口を寄せた。

「シャワーを浴びさせて!」

 身体を捩ろうとして膝の裏にある亮一の手に阻まれる。すでに濡れているぱくりと割れた蜜唇に亮一の息が掛かり、舌が触れた。

「ああっ」
「もう濡れてるな」

 明るい中でこんな体勢で見られるのは初めてだった。恥ずかしさを通り越して可南子は自分の顔を手で覆った。やめて欲しいのに火照りは肌を桃色に染めていく。ヒクヒクと動く陰唇を亮一は丁寧に舐めていく。そのたびに悦楽に腰が動き蜜芯が震えるのがわかる。わざと唾液を零しながらなぞられ、すっかり柔らかくなった蜜唇の窪(くぼ)みから蜜が零れだし臀部に伝わっていく。すっかりほどけて柔らかくなった花弁をぴちゃぴちゃと音を立てながら舐(ねぶ)られ可南子は短い息を繰り返した。
 亮一の余裕の無さを感じて、可南子はまた何かしてしまっただろうかと不安になる。

「りょ、いちさん。私、何かした……ッ?」
「したな。覚えてないか」
「ごめん、なさ……い。ッあ」
「……謝る事じゃない。むしろ、ずっとそうあったらいいと思う」
「私、何をしたの。ぁっ」

 隘路は侵入してきた亮一の二本の指を何の抵抗も無く飲み込んだ。その指がバラバラと動き始めると可南子の身体を漂っていた愉楽が一か所に集まりその密度を高めていく。蠢く蜜路の中、奥までねじ込まれた亮一の長い指がピアノを弾(ひ)くように蜜襞を弾(はじき)ながら動く。亮一の与えてくれる恍惚に可南子は我を忘れ、目をぎゅっと閉じたまま喘ぐ。

「あっ、もぅ、……イッ」

 可南子が口を手の甲で押さえながら息も絶え絶えに言うと、亮一は蜜唇の上にある膨れた赤い芽を、唾液を垂らしながら舌で転がした。可南子の身体は光の中に持ちあげられ水の中に落ちて溶け込む。悦楽に呑み込まれ身体全てが拍動(はくどう)して、ぼうっと目を開けた。

 いつもなら、ここで少し休めた。亮一が避妊具を付けるからだ。だが亮一は可南子の脚の間に腰を密着させるように、蜜口に先端部であるカリをあてていた。子供を作ろうとちゃんと二人で気持ちを確かめあったせいだ。形容しがたい高揚感に可南子は震えた。蜜襞がずぶずぶと亮一の反り立った猛りを呑み込んでいく。

「ぁっ」
「痛くないか、大丈夫か」

 奥まで挿入した後、動かず可南子の身体を気遣う亮一は先程より落ち着いた様子だった。可南子は頷いて、亮一の手首を握る。

「私、何をしたの」

 亮一が荒々しくなるのは経験的に高確率で可南子が何かした時だ。すると亮一は満足そうににやりと笑った。

「寝言で『亮一さん、大好き、一緒に居て』と言ってた」
「……覚えてない」
「寝言だからな」

 そんな寝言を言うような夢を見ていただろうか。亮一がそんな嘘を付く必要もないのは確かだ。
 亮一は可南子の身体に自分を刻むように律動を始めた。すぐに可南子の身体は薄紅色に染まっていく。いつもより隘路にみっちりと大きく感じる亮一の劣情に貫かれ身を法悦に絡ませる。蜜をたっぷりと絡ませた猛りは楔のように可南子を突き埋めながら、時折浅く蜜口を兜部分で刺激する。蜜路は猛りを押し返すように締め付けては蠢動していた。

「かなの中、気持ち良すぎだな……避妊具(ゴム)無しでする時、いつも出さないように我慢してたが……我慢できた俺を尊敬する」
「んっ」

 昨夜に可南子がすぐにベッドに入ったのにはもう一つ理由があった。帰宅してすぐに亮一が仕事のメールをチェックしたので、その邪魔をしたくなかったのだ。一緒に住んで四年、亮一が働いてくれている事に文句や不満は無い。ただ、時々寂しくなる。真の恋敵は亮一の仕事なのかもしれない。

 この一週間、可南子は一人で気持ちを整えようと奮闘していたつもりだった。実際は背後で亮一がいろいろ立ち回ってくれていたのを目の当たりにした。
 自分の不安を口に出すことは可南子にとっては魂をさらけ出すようなような恐怖だ。それでも、亮一を失うくらいなら、少しずつ乗り越えていきたい。悩みは一人で抱えずにできるだけ口に出していこうと眠りに落ちる直前に思ったのだ。寝言はその一端かもしれない。

 ……寝言じゃ、ダメ……。

 結合部のぐちぐちという粘着質な音は獰猛な突き上げと比例していて、可南子は檻のように圧し掛かってくる亮一の体温を感じながら、肩に手を回して必死について行く。

「だ、大好き。一緒にいた、いっ、ああっ」
「かな……」

 亮一は泣きそうに顔を歪めて可南子の耳元の横に額を落とし、可南子の細い身体を折れるほどに抱き締めた。剥き出しの感情に火を灯すような抽送は烈しく、可南子から零れ落ちた蜜はシーツに染みを広げていく。抱き締められる安心感もあり、蜜襞は亮一の動きに呼応して快楽を拾っては体中を根のように巡らせていく。可南子はそれに包み込まれ酩酊しながら再び法悦に身を委ねる。

「駄目だ……我慢できない。イっていいか」
「んっ。わ、たし……もッ」

 可南子の身体は快楽に巻き上げられ弛緩してベッドのシーツに沈む。そんな中でも亮一の猛りが張りつめたのが可南子にはわかった。亮一は二三度、烈しく腰を突き入れて、窪みの最奥に精を迸らせる。

 亮一がゆっくりとまだ硬さの残る猛りを抜くと、白濁の精がこぽりと出て可南子の内股を濡らす。亮一は可南子の頭の下に腕を入れると自分の身体へと抱き寄せ掛け布団を掛けてくれた。

「亮一さん、一緒にいてくださいね」

 可南子は囁く。
 身体は疲れているのに、気持は新しく芽吹いたようだ。

「ああ。……やっとだ」

 亮一は可南子を強く抱きしめた。骨が軋むほどの抱擁に息が詰まる。

「り、亮一さん?」
「結婚するなら可南子と決めていた。子供も可南子としか考えられない。やっとだ」

 初めて亮一の家に来た時の事を思い出して、可南子はハッとする。亮一は確か最初に『俺の子を産むか』と聞いた。あれは本気だったのだ。節目節目で改めて気づく。結衣や広信が『重い』と評する亮一の気持ちを。
 だが、重いというより深いと思ってしまうのは、同じ穴の狢だからだろうか。

「重いですね……」
「今更だな」

 あくびを嚙み殺した亮一は、可南子を抱く腕の力を弱める。
 呼吸が楽になった可南子は、亮一の身体に手を回して精一杯強く抱きしめた。
 亮一がこめかみに口づけをしてくれる。
 幸せだと可南子は心の平和を感じながら微笑んで亮一の頬にそっと口づけた。
 
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