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8、失恋と旅行

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 鳥飼は流助の子の瞳をのぞきこんだ。
 青い虹彩。αの瞳、それは鳥飼と同じ色だった。
「……抱っこ、してみたい?」
 流助が鳥飼に尋ねる。鳥飼は赤ん坊を震える手でうけとった。赤ん坊は何事かという顔になるが、されるがまま、鳥飼のひざに落ち着いた。調査書の写真、流助の相手のαは暗い赤紫の虹彩だった。
「いったい……どうして」
「……たまにそういうことがあるんだって。αの精子ってしぶとくて、何か月も腹の中で生きていて、忘れた頃に動き出す」
 子どもがこの膝じゃないというようにむずがり、流助の方に手をのばす。流助は何を思ったか、今度はイオの膝にのせた。イオは渡されたものは拒否できず、ぎこちなく子どもを抱いた。赤ん坊はとたんに大人しくなる。
「はは、やっぱイケメン好きだ」
 流助は笑う。
「遺伝子かな」
「流、ちゃんと話せよ、ぼくら頭がおかしくなりそうだ」
 イオは正面から流助を問いただす。今度は流助が目をそらした。
「好きだったんだ。でもふられちゃった。ただそれだけの話だよ」

 流助は「運命の番」と出会った。
 すべてを捨てて、彼を選んだ。会ってまもない相手のもとに転がりこんだ。離婚が成立するやいなや、すぐに結婚した。
「悪いけど、二人のことはほとんど考えなかった。それくらいあの人に夢中だったんだ」
 流助は三人での交際・結婚しか知らない。それは優しく穏やかで楽しいばかりの関係だった。
「運命の番」との、まったくの二人きりの恋愛には逃げ場がなく、だが、その逃げ場のなさ、双方向な関係は狂おしくも愚かしく流助の心をわけがわからなくした。
「すごく幸せだった。そして苦しかった。毎日、相手のことしか考えなくて。あの人も俺のことしか見てなくて。憎しみあってるみたいに二人、いつもがんじがらめに好きすぎて」
 ある日異変が訪れた。体調が優れない日が続いたため病院に行った。妊娠を告げられた。
「全然喜んでくれなかった。匂いが、匂いがおかしいって言われて。俺の方も、急に熱が冷めたみたいにどんどん冷静になっていって」
 二人の溝は急速に広がっていった。それに比例するように命の存在は日増しに大きくなってゆく。
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