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8、失恋と旅行

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 知らない場所で流助が生活してる。知らない流助のくらし。二年ぶりの再会にかかわらず、流助は思いのほか普通で、以前と何も変わった様子はなかった。
 想像の中では、悲しそうだったり苦しそうだったり、湿疹が悪化していたりと、悪い状態になっている流助ばかり思い描いていた。しかし実際の流助はそんなことはなかった。自分たちと別れて、ひどい目にあっていて欲しいと心のどこかで思っていたのだ。そんな自分たちを恥じた。
 そして保育園。
 それが何を意味するのか、誰でもわかる。鳥飼もイオも言葉をなくし、流助の戻りを待った。
「さようならー」
「また明日」
 保育士らしき人と挨拶をしながら流助が出てきた。抱っこ紐をつけていて、小さな手足がとびだしている。顔は、ぽやぽやの髪がわずかにのぞいているのが見えるだけで、かくれて見えない。
「ごめん、お待たせ。これ、俺の子」
「……」
「せっかくだから、海の方でも行く? うち、狭いし」
「話せるところがあればどこでも」
 歩く足取りは迷いがない。子どもを抱いて歩く姿に圧倒される。イオは終始無言だった。流助は時々振り返って街の説明や、観光名所についてなど普通に話してくる。鳥飼はそれに相槌をうつのが精いっぱいだった。
 海のそば、堤防のところに出ると、流助は止まった。
「この辺でいい? 気持ちいいでしょ。結構気に入ってて時々来るんだ。人もあまり来ない」
 三人並んで座った。
「で、なに?」
 鳥飼の前では「流助に会いに行く」とゆるぎない意志を見せていたイオが、さっきから一言もしゃべっていない。流助の方を見ようともしない。鳥飼は二人の真ん中で無駄に大きな身体のやり場に困ってしまう。
「……元気そうですね」
「うん。この子、巌太(ガンタ)。ガンちゃん」
「寝てるんですか?」
「うん。すごくよく寝てくれるから、いつも助かってる」
「何歳なんですか」
「八か月。最近つかまり立ちするようになって、もう目が離せなくて」
「そうですか」
 流助が鳥飼の口調があまりにも固いので笑いだした。
「かわいいとか、お世辞でも言ってよ、鳥飼さん」
 鳥飼は「すみません」と謝った。
「顔が見えてないのでなんとも」
 イオは二人の会話をぶった切るようにして、突如立ちあがった。
「誠、帰ろう」
「え」
「用事すんだ。流助が元気なのがわかったんだから、もうそれでいい」
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