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6、初めての終わり

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 揃いの時計を買った。
 イオに高価なプレゼントをしたら機嫌が悪くなった。受け取ってもらうのに苦労した。
 両親と働く店に何度か来てくれた。かっこいい二人をみせびらかすことができ、悪気はなくとも流助を見下してくる一部の常連の鼻を明かすことができた。ざまあみろ。
 楽しくて楽しくてはしゃぎすぎて帰った夜、転んだ。全員で路上に尻もちついて楽しくてゲラゲラ笑った。
 それは面倒くさく泥くさい愛の日々だ。
 思えばずっとあの帰り道みたいだ。笑いっぱなしで、身体のどこかはいつも二人と触れ合っていてケンカしても仲直りして、そして。
 あの夜、三人とも気持ちが昂っていて、何度も何度も、長く、しつこく、明け方まで愛し合ったっけ。
 すごく……すごく気持ちよかった。
 そんな毎日が、交際期間をいれると一年七か月も続いたのだ。

 たくさんのことを思いだし、流助は、微笑んだ。
 あの薄い水色のはがきが来てから、ずっとぼうっとしている。
 出会ってからずっとぼうっと、二人を眺めている。自分のような世の中からはじき出された存在が、二人に愛され、求められて結婚することができたなんて夢みたいだ。
 醒めて欲しくない夢。
 起こりうるはずのない日々。
 宝くじに当たったような、いや、それ以上のラッキー。
 こんなに結婚が楽しくいいのだろうか。
 時々幸せすぎて怖かった。
 実は何かの間違いじゃないだろうか。
 急に誰かに「違いますよ」って言われるんじゃないか。
 あの日、中学の授業で、性によって人生が決まってしまうと宣告された時みたいに、お前はそれを受け取る権利はない、と突然誰かに言われるんじゃないか。

 流助は、家に戻ると自分の荷物をまとめた。ここに引っ越してきた時は、バッグ一つだったというのに、一年も暮らせばものがふえるものだ。
 ぐるりと部屋を見渡す。
 イオのばか、相変わらず散らかして。ソファの上に脱ぎ散らかした服を拾った。セクシーな形のぱんつがぽろっと落ちる。ほんと、しょうがない、困った夫だ。
 頬が温かく濡れた感じがして、それで初めて自分が泣いていることに気づく。イオの服に顔をうずめた。ぱんつを握って嗚咽した。
 立ち去らなければいけないのに、足が動かない。ぐずぐずしているひまはない。
 万が一彼らがこの部屋に戻ってきたら、大変だ。
 合わせる顔がなかった。こんな姿を死んでも見せたくなかった。そしてなにより流助は彼らに説明する言葉がなかった。
 イオ、は、きっと、めちゃめちゃ、怒る。
 それから、泣く。かわいそうな、イオ。
 そっと自分の首筋に触れる。
 鳥飼は泣くイオに困り果てる。
 目に浮かぶようだった。泣きながら激怒するイオに、おろおろしてしいる鳥飼。それを思うと涙はとまらなかった。しばらく声をあげて泣いた。
 触れた指先、首筋はヒリヒリと痛み、まだ熱をもっている。
 カーテンを閉めていない窓ガラスに自分の姿がうつっていて、そこには自分の知らない顔つきのちっぽけな男がいた。首筋には噛まれた痕がくっきりとついている。 早く荷物をまとめなければ。
 流助はさっきから、何を持っていっていいかわからない。途方にくれて目についたものをいれた。そして逃げるように一年間暮らした部屋を後にした。

 その日流助は、休みをもらって結婚記念日の準備をしていた。
 貯金をおろし、いい肉をブロックで買って、オーブンで炙るのだ。前回随分うまくできたからコツもつかんでいるし、二人からも好評だった。喜ぶ顔が簡単に想像できた。記念日だから少々はりこんでもいいだろうと、普段行かない高級スーパーまで足をはこんだ。
 
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