α、β、Ωで結婚したら無敵だった

2、玄関開けたら

3

　男性Ωの場合、αやβの成人男性と比べ体格も体力も何もかもが劣る。他にも免疫系が過剰反応してしまうアレルギー体質で、肌が弱く蕁麻疹や湿疹がでやすい。しょっちゅうばりばりと掻いて傷を掻き壊したりしている。
　つまり流助は見た目からΩの特徴をもっていて、わかる人間にはすぐピンとくる。αはもちろん、少し鼻の利くβならヒートじゃなくても微量に出ている流助のフェロモンに気づく。
　世の中では男性Ωが妊娠可能であるという事実は、恰好のポルノの餌食だ。
　一つのジャンルになっているくらいで、大多数の人々にとってはΩへの理解などその程度のものだった。つまり流助は日々ゲスな好奇の目にさらされており、その目は当然パートナーであるイオにも向けられる。
　結婚前にそのことについて話し合ったことがあったにもかかわらず、新しく生活を形づくっていくことに夢中で、イオはそんな事実を失念してしまっていた。
　店員が差別的だったわけではない。触れてはならないものと接して、差別的ではならぬと意識しすぎたため、必要以上に慇懃になったのだ。それが違和感のもとだ。
　自分もかつてそうだったからわかる。流助を初めて見た時驚き戸惑ったように、これまでΩのことなんてまったく理解しておらず、理解しようとも思わなかった。
　Ωに対するろくでもない話題になると、一緒になって笑ってきた。それがどんな種類のものかを考えもせずに、自分とは無関係な世界のことだと思って。
「βがαと結婚したら勝ち組、βがΩと結婚したら頭の悪いやつ」
　キヒヒと自嘲的に笑ったその顔は、もはやそんな偏見にまみれた扱いなど慣れっこだと物語っている。
「『恋愛結婚』だなんてきれいな言葉を使うやつもいるけど、みんな本音は俺らがどんなセックスしてるか興味津々、ってわけ」
　実際流助の言うとおりだった。αの鳥飼といる場合、決して奇異な目で見られることはない。
　αは絶対強者で、どんな相手を選択したとしても社会的なすわりがよいのだ。
　α同士の結婚もありだし（パワー婚とよばれる）、Ωを選べば「番（つがい）」と判断される。βを選んだなら選ばれたβは羨望のまなざしで見られる。βにとって上昇婚だからだ。