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第二章
act 25 チンピラ
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賢司の面会に行ってから、数日後の事だった。
瑠花と買い物に行った帰りに、マンションの前に見るからにガラの悪そうなふたり組がフェンスにもたれ掛かっていた。
一瞬、嫌な予感がしたが、その横を何気なく通り過ぎようとしたその時。
「宮原さんですか?」
「えっ?はい」
呼び止められた。
手のひらに冷たい汗が吹き出してくる。
「これ、見覚えあるでしょ?あんたのダンナが書いた借用書だよ」
「・・・・」
「あんたのダンナが今どうなってるのかは知ってるけどな、これの利息、四月から払ってねぇだろ?」
「・・・・それはあたしには関係ないですけど」
「関係なくねぇんだよ。あんたのダンナだろ?あんたが代わりに払うのが筋じゃねぇのかよ?」
「そんなお金はありません」
瞳は、足が震えてくるのを感じていた。
同時に手も震えていた。
声は上ずって、一体この場をどう切り抜けたらいいのか判らなかった。
「あんた今働いてんのか?」
「いえ・・・・、探してはいますけど全部面接で落とされて・・・・」
「じゃあ今どうやって生活してんだよ?あぁ!」
「主人の仕事のお金が少しだけ入って来るので、子供とふたりギリギリの生活をしてます・・・・」
あぁ!
叫びたい!
誰か助けて!
「じゃあな、三日間だけ待ってやる。あんたその間に仕事探せ!それで毎月六万ずつ払え!判ったか?」
「はい・・・・」
「じゃあな、今日は来なかった事にしといてやるから、ちゃんと仕事探せよ!」
「・・・・判りました」
とにかく早く帰って貰いたい。
チンピラの話しに合わせて返事をした。
内心では早く警察に通報してやる、と考えながら。
「そんじゃ三日後にまた来るからな」
ヤミ金が家まで取り立てに来た事など、一度もなかった。
バカなんじゃ、ないの?
瞳はすぐに警察署に通報した。
賢司が逮捕された時の担当刑事に成り行きを説明した。
「・・・・いうわけなんです。それで三日後にまた来るって言ってました」
「成る程、事情は判りました。相手がヤクザという事でしたら、一課の刑事に話してみた方がいいでしょうね。宮原さん、署の方に来られますか?」
「はい、それじゃ明日の午前中に行きます」
「それじゃ一課の刑事に話しておきますから」
・・・・その夜は、20錠飲んだ安定剤も睡眠薬すらも効かなくて、一睡も出来なかった。
ベッドに横になっても、全く震えは止まらなかった。
そのまま朝が来るのを待った。
一睡も出来なかったまま、瞳は警察署に向かった。
二階の刑事課のドアをノックして中に入り、佐川刑事を呼んでもらった。
「すぐ来ますから、外で座ってお待ち下さい」
佐川刑事はすぐに来てくれた。
「宮原さん、どうぞ中に来て下さい」
案内されたのは、取調室。一課の刑事さんと一緒に佐川刑事は瞳の話しを聞いてくれた…。
と、言うより取り調べみたいだったけど。
瞳は昨夜大量に飲んだ安定剤のせいで、記憶が曖昧になっていた。
「それで、昨夜は何時頃に来たんですか?」
「買い物から帰って来た時だったんで、多分、七時頃だったと思います」
「それで借用書を見せられて?それで何と言われましたか?」
「とにかく金を払え、の一点張りで、あたしがお金はないと言ったら、ふざけてんじゃねぇ、と怒鳴られて頭を殴られました」
「殴られた、ちょっと見せて下さい」
刑事が頭を触る。
「うーん、これでは傷害は付けられませんね。暴行程度にしか診断書も取れないでしょうね」
実際あの時、あまりの恐さですごく殴られた、って認識してただけかも知れない。
「昨夜は110番通報はしたんですか?」
「いえ、110番じゃなくて警察署に通報しました」
「パトカーは向かったのですか?」
「いえ、電話だけでした」
「警官は呼ばなかったのですか?」
「昨夜は佐川さんに相談して、今日来る事にしました」
「ご主人はいくら借りていたのですか?」
「三十万です。でも月に一割五分の金利が付きます。三十万で月四万五千円です」
「月に一割五分の金利は暴利ですね」
「はい。けれど三十万全額支払わなければ元金は減りません。もう二年以上金利だけ支払って来ました」
「というと、元金以上に払ったわけですね」
「はい、でも主人が捕まった4月以降は払っていませんでした。そしたら・・・・」
「家に来たわけですね?」
「はい、それであたしに仕事探せと、そして毎月六万払えと言われました」
「判りました。ヤミ金担当の者がいますので、そちらと話して下さい」
「はい」
ヤミ金担当刑事は、生活安全課の刑事だった。
「例え知人から借りたとしても、乗せられる金利は100%です。つまり倍までて、毎月四万五千円払ったとすれば、半年で元金になります。それを二年以上払ったとすれば、もう払う必要はありません。なので、払えと言われても断って下さい」
「判りました」
「警察には110番登録というものがあります。あなたの携帯番号を登録しておけば、あなたの携帯から110番すれば自動的にパトカーがあなたの家に向かいます。登録しますか?」
願ってもない事。
「お願いします」
「それじゃ、この書類に携帯番号と住所、氏名を書いて下さい。印鑑はお持ちですか?」
「あ、今日は持ってないです」
「じゃあこっちの黒い方で左手の人差し指でここに指印を押して下さい」
「はい」
「それじゃこれで登録しておきますね。また来たらすぐに通報してください」
「はい、ありがとうございます」
出来る限りの事はやった。三日後に本当に来るだろうか?
いや。
多分、来る。
たかだか三十万の金額で、捕まる危険を顧みずに(かえりみず)家まで来たんだ。
よっぽどお金が必要なのだろう。
だからこそ、110番なのだ。
瞳は瑠花とふたりでは不安だったので、弟に相談した。
「姉ちゃん、俺そっちに行ってようか?何かあったら危ないしさ」
「うん・・・・、瑠花もいるし、秀に来て貰えれば有難いな」
果たして三日後に本当に来るだろうか?
来たらあまりにもバカだと思うけど。
しかし、瞳の考えとは裏腹に本当にあのチンピラは、三日後の土曜日、それも昼間に来たのだった。
弟達はまだ来ていなかった。
ピンポーン!
呼び鈴が鳴ったので、インターホンで見ると、例のチンピラふたりの姿が映っていた。
すかさず瞳は携帯から110番してから、玄関を開けた。
「よぉ!仕事は見付かったのか?」
たかが三日で見付かる筈がないわ。やっぱりバカだ。
「いえ、まだです」
「何やってんだよ?ああっ?あんた金払う気あんのかよ?」
「もう一度借用書を見せて下さい。本当に主人が書いたものですか?柏は借用書は要らないって言ってたと聞いてますけど」
「これ、よ~く見ろよ。あんたのダンナの字じゃねぇのかよ?」
「日付が違いますけど?もっと以前に借りた筈です」
遠くからパトカーのサイレンが聴こえて来た。
やっと来た。
するとチンピラ達は、急に慌ただしくこう言った。
「取り合えず今日は出直すからな」
慌てて車に乗り込もうとした時、パトカーがその車の後ろに付いた。
「あの車の人です」
瞳は警官に向かって叫んだが、物凄い速さで走り去って行った。
一台のパトカーがその後を追っていったが、逃げられたらしく戻って来た。
結局三台のパトカーが来たが、警官は事情を何も知らなかった。
瞳は警官にまた一から説明する羽目になった。
その時、弟達が来た。
「間に合わなかったの?」
「うん、思ったより早く来ちゃったから」
そして瞳は警官に事情を説明した。
「・・・・判りました、また来た時は直ぐに通報して下さい。パトカーが来ると判ればいずれ来なくなるでしょう」
「はい、ありがとうございます」
ヤクザもチンピラも、警察には敵わない。
何処の組の代紋を出そうが、桜の代紋に敵う相手はいない。
いつだか賢司がそんな事を話していたのを思い出す。
そう。
こんな時は警察が一番権力があるのだ。
例えダンナが刑務所に服役中でも、瞳には関係ない。瞳は一般人だ。
・・・・多少問題はあるけれど。
瑠花と買い物に行った帰りに、マンションの前に見るからにガラの悪そうなふたり組がフェンスにもたれ掛かっていた。
一瞬、嫌な予感がしたが、その横を何気なく通り過ぎようとしたその時。
「宮原さんですか?」
「えっ?はい」
呼び止められた。
手のひらに冷たい汗が吹き出してくる。
「これ、見覚えあるでしょ?あんたのダンナが書いた借用書だよ」
「・・・・」
「あんたのダンナが今どうなってるのかは知ってるけどな、これの利息、四月から払ってねぇだろ?」
「・・・・それはあたしには関係ないですけど」
「関係なくねぇんだよ。あんたのダンナだろ?あんたが代わりに払うのが筋じゃねぇのかよ?」
「そんなお金はありません」
瞳は、足が震えてくるのを感じていた。
同時に手も震えていた。
声は上ずって、一体この場をどう切り抜けたらいいのか判らなかった。
「あんた今働いてんのか?」
「いえ・・・・、探してはいますけど全部面接で落とされて・・・・」
「じゃあ今どうやって生活してんだよ?あぁ!」
「主人の仕事のお金が少しだけ入って来るので、子供とふたりギリギリの生活をしてます・・・・」
あぁ!
叫びたい!
誰か助けて!
「じゃあな、三日間だけ待ってやる。あんたその間に仕事探せ!それで毎月六万ずつ払え!判ったか?」
「はい・・・・」
「じゃあな、今日は来なかった事にしといてやるから、ちゃんと仕事探せよ!」
「・・・・判りました」
とにかく早く帰って貰いたい。
チンピラの話しに合わせて返事をした。
内心では早く警察に通報してやる、と考えながら。
「そんじゃ三日後にまた来るからな」
ヤミ金が家まで取り立てに来た事など、一度もなかった。
バカなんじゃ、ないの?
瞳はすぐに警察署に通報した。
賢司が逮捕された時の担当刑事に成り行きを説明した。
「・・・・いうわけなんです。それで三日後にまた来るって言ってました」
「成る程、事情は判りました。相手がヤクザという事でしたら、一課の刑事に話してみた方がいいでしょうね。宮原さん、署の方に来られますか?」
「はい、それじゃ明日の午前中に行きます」
「それじゃ一課の刑事に話しておきますから」
・・・・その夜は、20錠飲んだ安定剤も睡眠薬すらも効かなくて、一睡も出来なかった。
ベッドに横になっても、全く震えは止まらなかった。
そのまま朝が来るのを待った。
一睡も出来なかったまま、瞳は警察署に向かった。
二階の刑事課のドアをノックして中に入り、佐川刑事を呼んでもらった。
「すぐ来ますから、外で座ってお待ち下さい」
佐川刑事はすぐに来てくれた。
「宮原さん、どうぞ中に来て下さい」
案内されたのは、取調室。一課の刑事さんと一緒に佐川刑事は瞳の話しを聞いてくれた…。
と、言うより取り調べみたいだったけど。
瞳は昨夜大量に飲んだ安定剤のせいで、記憶が曖昧になっていた。
「それで、昨夜は何時頃に来たんですか?」
「買い物から帰って来た時だったんで、多分、七時頃だったと思います」
「それで借用書を見せられて?それで何と言われましたか?」
「とにかく金を払え、の一点張りで、あたしがお金はないと言ったら、ふざけてんじゃねぇ、と怒鳴られて頭を殴られました」
「殴られた、ちょっと見せて下さい」
刑事が頭を触る。
「うーん、これでは傷害は付けられませんね。暴行程度にしか診断書も取れないでしょうね」
実際あの時、あまりの恐さですごく殴られた、って認識してただけかも知れない。
「昨夜は110番通報はしたんですか?」
「いえ、110番じゃなくて警察署に通報しました」
「パトカーは向かったのですか?」
「いえ、電話だけでした」
「警官は呼ばなかったのですか?」
「昨夜は佐川さんに相談して、今日来る事にしました」
「ご主人はいくら借りていたのですか?」
「三十万です。でも月に一割五分の金利が付きます。三十万で月四万五千円です」
「月に一割五分の金利は暴利ですね」
「はい。けれど三十万全額支払わなければ元金は減りません。もう二年以上金利だけ支払って来ました」
「というと、元金以上に払ったわけですね」
「はい、でも主人が捕まった4月以降は払っていませんでした。そしたら・・・・」
「家に来たわけですね?」
「はい、それであたしに仕事探せと、そして毎月六万払えと言われました」
「判りました。ヤミ金担当の者がいますので、そちらと話して下さい」
「はい」
ヤミ金担当刑事は、生活安全課の刑事だった。
「例え知人から借りたとしても、乗せられる金利は100%です。つまり倍までて、毎月四万五千円払ったとすれば、半年で元金になります。それを二年以上払ったとすれば、もう払う必要はありません。なので、払えと言われても断って下さい」
「判りました」
「警察には110番登録というものがあります。あなたの携帯番号を登録しておけば、あなたの携帯から110番すれば自動的にパトカーがあなたの家に向かいます。登録しますか?」
願ってもない事。
「お願いします」
「それじゃ、この書類に携帯番号と住所、氏名を書いて下さい。印鑑はお持ちですか?」
「あ、今日は持ってないです」
「じゃあこっちの黒い方で左手の人差し指でここに指印を押して下さい」
「はい」
「それじゃこれで登録しておきますね。また来たらすぐに通報してください」
「はい、ありがとうございます」
出来る限りの事はやった。三日後に本当に来るだろうか?
いや。
多分、来る。
たかだか三十万の金額で、捕まる危険を顧みずに(かえりみず)家まで来たんだ。
よっぽどお金が必要なのだろう。
だからこそ、110番なのだ。
瞳は瑠花とふたりでは不安だったので、弟に相談した。
「姉ちゃん、俺そっちに行ってようか?何かあったら危ないしさ」
「うん・・・・、瑠花もいるし、秀に来て貰えれば有難いな」
果たして三日後に本当に来るだろうか?
来たらあまりにもバカだと思うけど。
しかし、瞳の考えとは裏腹に本当にあのチンピラは、三日後の土曜日、それも昼間に来たのだった。
弟達はまだ来ていなかった。
ピンポーン!
呼び鈴が鳴ったので、インターホンで見ると、例のチンピラふたりの姿が映っていた。
すかさず瞳は携帯から110番してから、玄関を開けた。
「よぉ!仕事は見付かったのか?」
たかが三日で見付かる筈がないわ。やっぱりバカだ。
「いえ、まだです」
「何やってんだよ?ああっ?あんた金払う気あんのかよ?」
「もう一度借用書を見せて下さい。本当に主人が書いたものですか?柏は借用書は要らないって言ってたと聞いてますけど」
「これ、よ~く見ろよ。あんたのダンナの字じゃねぇのかよ?」
「日付が違いますけど?もっと以前に借りた筈です」
遠くからパトカーのサイレンが聴こえて来た。
やっと来た。
するとチンピラ達は、急に慌ただしくこう言った。
「取り合えず今日は出直すからな」
慌てて車に乗り込もうとした時、パトカーがその車の後ろに付いた。
「あの車の人です」
瞳は警官に向かって叫んだが、物凄い速さで走り去って行った。
一台のパトカーがその後を追っていったが、逃げられたらしく戻って来た。
結局三台のパトカーが来たが、警官は事情を何も知らなかった。
瞳は警官にまた一から説明する羽目になった。
その時、弟達が来た。
「間に合わなかったの?」
「うん、思ったより早く来ちゃったから」
そして瞳は警官に事情を説明した。
「・・・・判りました、また来た時は直ぐに通報して下さい。パトカーが来ると判ればいずれ来なくなるでしょう」
「はい、ありがとうございます」
ヤクザもチンピラも、警察には敵わない。
何処の組の代紋を出そうが、桜の代紋に敵う相手はいない。
いつだか賢司がそんな事を話していたのを思い出す。
そう。
こんな時は警察が一番権力があるのだ。
例えダンナが刑務所に服役中でも、瞳には関係ない。瞳は一般人だ。
・・・・多少問題はあるけれど。
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