仄暗い部屋から

神崎真紅

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第二章

act 8 妊娠

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ある日。
 瞳は、生理が遅れている事に気付いた。
 『妊娠』
の二文字が、瞳の脳裏を過った(よぎった)。

 薬局で、妊娠検査薬を買い、急いでマンションに戻った。
ドキドキしながら、検査薬のキャップを外し、先端に尿をかける。

すると…。
そこには、くっきりと妊娠陽性の反応を示すラインが浮き上がった。
 瞳は、嬉しくて先ずは仕事中の、賢司に電話した。

 「賢司、あたし赤ちゃんが出来たよ。妊娠したんだよ。賢司の赤ちゃんだよ」

 興奮して、思わず大声で叫ぶ瞳に、賢司は驚いて言った。

 「本当か?じゃあ俺明日有休取るよ。一緒に病院行こうな」
 「うん。あたしのお腹に賢司の赤ちゃんがいるんだよ」
 「判ったから、今仕事中だから、帰ってから話そうな」

ヤバイ…。
 部長と視線が合ってしまった。
 私用電話は禁止なのだ。

 「宮原君、何かあったのかね?」

そら、来た。

 「瞳から電話で、子供が出来たらしいので、明日休み貰えますか?」
 「森下君が、失礼。今は宮原さんだったね、そうか。それはおめでとう。明日一緒に病院に行くのかね?」 
 「はい、是非そうしたいと思います」
 「そうか。それはおめでとう。瞳君もいよいよ母親になるのか…」

 瞳は、殊更部長に可愛がられていた。
 部長はまるで、自分の孫でも生まれる様に、感極まっていた。
やれやれ…。


 次の日。
ふたりは病院に診察に出掛けた。

 「妊娠してますね、ほら、この黒い部分が赤ちゃんの入っている袋ですよ。この小さいのが赤ちゃん、心臓が動いているのが見えるでしょう?」

ぅわ〜…。
 感動的〜。

 「今5週目ですね…出産予定日は、5月5日かな」

 子供の日〜。
 男の子かなぁ。
 待合室で待ってた賢司が、やっと終わったとばかりに瞳の傍に来た。

 「どうだった?」
 「へへ…妊娠してたよ。出産予定日は5月5日だって」
 「子供の日?」
 「うん、後今から採血があるんだって」
 「採血?何で?」
 「貧血とかエイズとか調べるんだよ」
 「ふぅん…」

 賢司はあまり判らない様子で、上の空に返事を返した。
しかし、瞳が採血の検査をしている様子を、食い入る様に見ていた。

 瞳の静脈に注射の針が刺さる。
 細い管を通って、血液が流れる様を、賢司は何を思いながら見ていたのだろうか。
 瞳は嫌な予感がしていた。そしてその予感は、瞳の思いとは裏腹に的中してしまう。
 病院から帰って来てから、賢司はそわそわと落ち着きがない。
 酒も呑まず、食事も摂らない。
 何時もなら瞳より先に寝てしまう賢司が、リビングでテレビをつけたまま、一向に寝る素振りを見せない。

 「賢司?寝ないの?」
 「あぁ…先に寝ていいぜ」
 「そう?じゃあおやすみ」

 瞳は寝室のベッドに横たわったが、賢司が気になって眠ろうにも、眠れない。
カチャリ…。
 玄関のドアの開く音が聞こえた。

…やっぱり薬を買いに行ったんだ。
 瞳は落胆した。

 子供が出来た事を、あれだけ喜んでいだその夜なのに、覚醒剤の誘惑には勝てないのか?
 数分後、賢司が帰って来たので、瞳はベッドを抜け出し、リビングに入って行った。

 「…何処か行って来たの?」
 「コンビニに煙草買いに行ったけど、瞳寝たんじゃなかったのかよ?」
 「喉が渇いちゃって、何か飲もうかなって。妊娠してから、やたら喉が渇くし、眠いしでね」

 話しながら、冷蔵庫から牛乳を取り出し、グラスに注いだ。

 「瞳、コップに水をくれ」

 言われるままに、ミネラルウォーターをグラスに注いで、賢司に渡した。

 「瞳、やるか?」
 「えっ?あたし赤ちゃんがいるんだよ?」
 「一回くらいなら大丈夫だよ」

そんな保証は何処にもない。
ただ賢司は、瞳と覚醒剤をやりたかっただけに過ぎないのだ。

 「腕出せよ」

 瞳の上腕部分を掴み、そのまま針を刺した。

 「賢司、あたし嫌だよ」
 「そんな事言ってももう入っちまったぜ」
 「えっ」

 身体中を駆け巡る熱。

 「ぁ…あ、つ…」
 「効いただろ?もう動けねぇ位に効いただろ?」
 「あ…ぁ…」
 「俺の乳首を舐めて感じさせてくれ」

 覚醒剤が身体に入ってしまった瞳は、賢司の言いなりになる、操り人形に成り下がる。
 言われるままに、賢司の乳首を舐めて感じさせる。
それが本当の麻薬の恐ろしさかも知れない。

 「け…ん、じ…あか、ちゃんが…」
 「大丈夫だよ、瞳にはちゃんと産ませてやるからな」
 「う、ん…」
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