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第1章 婚約破棄

III.妹グロリア

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 「まぁ、素敵ね」
 「リドル様にはいつもご贔屓にしてもらっているので」
 「本当によろしいの?」
 「ええ、是非」
 「ありがとう」

 「羨ましいわ、リドル様」
 「本当によくお似合いで」
 「うふふ。ありがとう」

 今日は中庭でお茶会を開いていた。
 リドル様は私のお土産をとても気に入っていらして、私は安心した。

 時間の感覚のない方の為に敢えて言わせてもらうとあの夜会から一ヶ月は経っている。
 みんな、夜会の状況を見て私には友達が居ないと勘違いをしたかもしれないなで、ここらで誤解は解かせてもらいます。

 実は私を嫌っている人間と同じぐらい好いてくれる方もいらっしゃるのですわ。

 私が楽しく友達と話していると視界の隅にチラチラと映るとても不快な影があった。
 妹のグロリアだ。
 彼女が木の陰からこちらを見ているのだ。

 「あら、あちらにいらっしゃるのわ」
 お茶会に参加していた1人がグロリアの存在に気づいた。
 それを皮切りにみんなが一斉にグロリアの方へ向いた。

 「妹のグロリアですわ」
 「確かお身体が弱い方でらしたわよね」
 「・・・・」

 いつの話だよ。
 グロリアは確かに幼い頃は病弱だった。
 でも今ではすっかり健康体だ。
 ここ何年かは風邪だって引いてない。

 「ねぇ、あなた。そんな所に居ないでこちらにいらっしゃいな」

 友人のスーザンがグロリアに声をかけた。
 無視すればいいのに。
 グロリアはお茶会には呼んではいない。
 だからお茶会をしている席に本来近づかないのがマナー。

 少々甘やかしすぎて礼儀がなってはいないのよね。

 声をかけられたグロリアはビクリとしてから何かを思案したあとオドオドしながらこちらへ来た。
 私と目があった瞬間、体を強張らせ私から目をそらす。

 はぁ?
 何、その態度。
 私何かした?
 本当、ムカつく。

 「妹のグロリア様ね。
 初めましてになるわね」
 「・・・・はい」
 「グロリア、こちらは私の友達のスーザンよ。ご挨拶を」
 「・・・・・はい」
 と、言いながらもグロリアはなかなか口を開かない。
 困ったスーザンが私の方を見る。
 私はグロリアを下がらせよう思い口を開きかけた時蚊の鳴くような声で「妹のグロリアです」と言った。

 これは貴族の子女がするような挨拶では到底ない。
 下町の女の子の挨拶だ。
 私は思わず口をあんぐりとしてしまった。
 他の方達も驚いたり眉間にしわを寄せたりしている。

 「・・・・そう。
 確かグロリア様とセシルは双子なのよね」
 「ええ、そうよ」
 グロリアは俯き、もじもじと手を膝の上で動かしている。
 スーザンの質問には私が答えた。
 だが質問を投げかけられたの私ではなくグロリアなのだ。
 でも終始下を向いているグロリアはそれに気づかない。

 そんな彼女の様子に他の方達も困惑している。
 まぁ、当然だろう。
 こんな貴族令嬢が居てたまるか。

 「あまり似ていないのね」
 「二卵性だから」というのが私の答え。
 「私はお姉様みたいに美人じゃないから」というのがグロリアの答えた。
 折角のお茶会がおかしな空気に呑まれていく。
 主催した私としてはこの空気をなんとかしないといけない。

 「ごめんなさい、そういうつもりで言ったわけではないのです。
 お気を悪くしたのなら謝るわ。
 本当にごめんなさいね」

 悪意はなかったが無神経なことを言ったと詫びるリドル様にグロリアは怯えながらも笑顔を返した。

 「いいのです。慣れていますから」

 その答えはアウトだ。
 悪口に慣れているともとられるし、それではリドル様がグロリアに対してみんなに悪口を言ったという印象を与え兼ねない。

 笑顔を向けながらもリドル様はピクピクと頬を痙攣させていた。

 これ以上のグロリアの同席は好ましくないと私は判断した。

 「グロリア、このお茶会にあなたは呼んではいないのですから退席なさい」
 私の言葉にグロリアは傷ついたような顔をする。

 でも呼んでいないのも事実。
 それに図々しくも参加するのがおかしいのだ。

 「・・・・はい」

 蚊の鳴くような声を絞り出し目に涙を溜めてグロリアは退席した。

 「妹が無作法をしました。
 何分、体が弱く甘やかされて育った為にマナーなどがあまり身についておらず、皆様にはとんだ不快な思いをさせてしまいました。
 主催者側とてもグロリアの姉としても謝罪いたします。
 申し訳ありません」

 「そんな、セシル様は何も悪くありませんわ」
 「そうですわ。少し驚いてしまっただけですわ」
 「あまり夜会にも出られない方なのに慣れない席に私が呼んでしまったのが悪かったのよ」
 「いえ、そんな」

 この後は何とか空気を和やかなものに戻し無事にお茶会を終了させた。
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