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「まさか、お前がマキナー殿下の愛人の座を手に入れるとはな」
いろいろあったけれど、まだ反対意見がちらほら出てきていますがそれでも私とイリス殿下の縁談話が着実に進んでいっています。前向きな形で。
お互いの国にとって悪い話ではないから反対意見が出てもねじ伏せるだけの利益がある。
何よりもお互いの国の王様が仲が良いのだ。だからトントン拍子で進んでいる。
逆に反対意見の方は私が魔力を持たないということと我が家に権力が集まりすぎるのではないかという懸念のみ。
しかも反対する貴族は己の利益しか考えていないのでそこまで強くなれないのだ。
そんな中、私は父に呼び出された。父の書斎には母もいた。
母は書斎に来客用に備え付けられたソファーに腰掛け優雅に紅茶を飲んでいた。
「無能のわりにはようやりましたと誉めるへま気なのでしょうが、伯爵家から愛人を出そうとは。嘆かわしいですね」
母の冷たい言葉と視線が私をい抜く。
イリス殿下は私を王妃にと望んでくださったけれど両親はそれを信じていない。
魔力を持たない私は家の恥じ。そんな私が隣国の妃になどなれるはずがないと思い込んでいるのだろう。
「まぁ、そう言うな。愛人であれ王族の一員になれることに代わりはないのだ。それに次期王太子を産めばそれなり格好がつくだろう。それぐらいの役には立つだろう」
嘲笑を込めて父は言った。
こういう親だから姉は魔力に固執した。姉の中の無意識が分かっていたのだ。
魔力が持たないと私同様に見向きもされないことを。自分が愛されているのは娘だからじゃない。加護持ちだから。便利な道具だから。
「私もお姉様もあなた達を飾るアクセサリーじゃないわ」
「なんだと?」
父に睨まれた。
ガチャンっ。と、母は大きな音をたててカップをソーサに戻した。激しく置いたせいで中身が僅かに溢れた。
「たかが王族の愛人になれるぐらいで随分と図に乗ったことを言うのね」
「っ」
母が私の手を掴んだ。そして、手のひらに魔力を集中させた。
捕まれた手がジクジクと痛む。僅かに肉の焼けるような臭いがする。
母が火炎魔法を、かなり威力を押さえたものを私の手をつかんでいる手に集中させたのだ。痕までは残らないものの赤くなり、水ぶくれを起こしている。
「この程度の魔力を防げないで図に乗るんじゃないわよ。どうせ愛人なんて一時だけのこと。すぐ飽きられて捨てられるわよ」
「ヴィオラ。もしお前がマキナー殿下に捨てられてもこかにお前の戻ってくる場所はないならな。戻ってきたかったらせいぜい愛人として頑張ることだ」
私は痛む手を押さえながら一礼して書斎を出た。
ここへ戻ってくるつもりは私には初めからなかった。でもそんなことを言ってまた二人と何らかのやり取りをするのが億劫だったので黙っていることにした。
部屋に戻った私の腕に軽い火傷があることをミランダは直ぐに気づいて手当てをしてくれた。
「ミランダ。私ねイリス殿下が好きなの。だから隣国に行こうと思う」
できればミランダにもついてきてほしい。でもスミナレタ故郷を離れることはそんな簡単にできることではない。
私と違って友人だっているだろうし。もしかしたら恋人も。それに家族だって。
私のそんな考えを見越したかのようにミランダは優しく微笑んだ。
「それはとても喜ばしいことですわ。きっとマキナー殿下ならお嬢様を幸せにしてくださいます。もちろん、私もともに隣国へ行かせていただきます」
「・・・・ついてきてくれるの?」
か細くかすれてしまった声。そんな声を出した私を安心させるかのようにミランダは私の手に自分の手を重ねた。
「ヴィオラ様のお世話を私以外の人間にさせるつもりはございません。たとえヴィオラ様が嫌だとおっしゃっても無理にでもついていきます」
ニッコリと笑って言うミランダを見て胸の奥が暑くなるのを感じた。本当は不安で仕方がなかった。私はあまり公の場に出させてもらえないし、外にも滅多に出させてはもらえない。
そんな私が隣国とは言え、国境を超えるのだ。誰も知らないところへ行って、王妃の公務をこなす。私にそれができるだろうか。
ずっとそんな不安があった。浮上する度に大丈夫だと己に言い聞かせた。
「ミランダがいるのなら安心ね。とても心強いわ」
自分のことを分かってくれる人が一人でもいるのならどんな困難でも乗り越えられる。それぐらい勇気が貰える。
願わくば姉にもそんな人が現れてくれますように。
いろいろあったけれど、まだ反対意見がちらほら出てきていますがそれでも私とイリス殿下の縁談話が着実に進んでいっています。前向きな形で。
お互いの国にとって悪い話ではないから反対意見が出てもねじ伏せるだけの利益がある。
何よりもお互いの国の王様が仲が良いのだ。だからトントン拍子で進んでいる。
逆に反対意見の方は私が魔力を持たないということと我が家に権力が集まりすぎるのではないかという懸念のみ。
しかも反対する貴族は己の利益しか考えていないのでそこまで強くなれないのだ。
そんな中、私は父に呼び出された。父の書斎には母もいた。
母は書斎に来客用に備え付けられたソファーに腰掛け優雅に紅茶を飲んでいた。
「無能のわりにはようやりましたと誉めるへま気なのでしょうが、伯爵家から愛人を出そうとは。嘆かわしいですね」
母の冷たい言葉と視線が私をい抜く。
イリス殿下は私を王妃にと望んでくださったけれど両親はそれを信じていない。
魔力を持たない私は家の恥じ。そんな私が隣国の妃になどなれるはずがないと思い込んでいるのだろう。
「まぁ、そう言うな。愛人であれ王族の一員になれることに代わりはないのだ。それに次期王太子を産めばそれなり格好がつくだろう。それぐらいの役には立つだろう」
嘲笑を込めて父は言った。
こういう親だから姉は魔力に固執した。姉の中の無意識が分かっていたのだ。
魔力が持たないと私同様に見向きもされないことを。自分が愛されているのは娘だからじゃない。加護持ちだから。便利な道具だから。
「私もお姉様もあなた達を飾るアクセサリーじゃないわ」
「なんだと?」
父に睨まれた。
ガチャンっ。と、母は大きな音をたててカップをソーサに戻した。激しく置いたせいで中身が僅かに溢れた。
「たかが王族の愛人になれるぐらいで随分と図に乗ったことを言うのね」
「っ」
母が私の手を掴んだ。そして、手のひらに魔力を集中させた。
捕まれた手がジクジクと痛む。僅かに肉の焼けるような臭いがする。
母が火炎魔法を、かなり威力を押さえたものを私の手をつかんでいる手に集中させたのだ。痕までは残らないものの赤くなり、水ぶくれを起こしている。
「この程度の魔力を防げないで図に乗るんじゃないわよ。どうせ愛人なんて一時だけのこと。すぐ飽きられて捨てられるわよ」
「ヴィオラ。もしお前がマキナー殿下に捨てられてもこかにお前の戻ってくる場所はないならな。戻ってきたかったらせいぜい愛人として頑張ることだ」
私は痛む手を押さえながら一礼して書斎を出た。
ここへ戻ってくるつもりは私には初めからなかった。でもそんなことを言ってまた二人と何らかのやり取りをするのが億劫だったので黙っていることにした。
部屋に戻った私の腕に軽い火傷があることをミランダは直ぐに気づいて手当てをしてくれた。
「ミランダ。私ねイリス殿下が好きなの。だから隣国に行こうと思う」
できればミランダにもついてきてほしい。でもスミナレタ故郷を離れることはそんな簡単にできることではない。
私と違って友人だっているだろうし。もしかしたら恋人も。それに家族だって。
私のそんな考えを見越したかのようにミランダは優しく微笑んだ。
「それはとても喜ばしいことですわ。きっとマキナー殿下ならお嬢様を幸せにしてくださいます。もちろん、私もともに隣国へ行かせていただきます」
「・・・・ついてきてくれるの?」
か細くかすれてしまった声。そんな声を出した私を安心させるかのようにミランダは私の手に自分の手を重ねた。
「ヴィオラ様のお世話を私以外の人間にさせるつもりはございません。たとえヴィオラ様が嫌だとおっしゃっても無理にでもついていきます」
ニッコリと笑って言うミランダを見て胸の奥が暑くなるのを感じた。本当は不安で仕方がなかった。私はあまり公の場に出させてもらえないし、外にも滅多に出させてはもらえない。
そんな私が隣国とは言え、国境を超えるのだ。誰も知らないところへ行って、王妃の公務をこなす。私にそれができるだろうか。
ずっとそんな不安があった。浮上する度に大丈夫だと己に言い聞かせた。
「ミランダがいるのなら安心ね。とても心強いわ」
自分のことを分かってくれる人が一人でもいるのならどんな困難でも乗り越えられる。それぐらい勇気が貰える。
願わくば姉にもそんな人が現れてくれますように。
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