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第一章

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「セイレーン」
どんな心境の変化があったのか分からない。
ディアモンとミアの婚約パーティーの一件が私に好意的な噂の広まり方はしないだろうと覚悟して学園に登校した。
ところが、私に侮蔑の眼差しを向けるのは下級貴族の獣人が多い。
残りは同情的な眼差しだ。
疑問を浮かべながらも教室に入って授業の準備をしていると懲りずにミアが来た。
「昨日は来てくれてありがとう。とても嬉しかったわ。でも、ごめんなさい。私の思慮が足りなかったせいで怒らせてしまって」
元気よく教室に入ってきてずかずかと遠慮のない足取りで私の元へ来たミア。
大きな声で場所を弁えずに謝罪の言葉を口にする。
目を涙で潤ませながら言うその態度は周囲にどう思わせるかを分かった上でのことだろう。
『思慮が足りない』
もっともだと思う。
本当にそう思っているのなら成長したなと思うけど、本心からではないのは火を見るよりも明らか。
私を悪役として貶めてやろうとギラギラ光る眼が物語っている。
「あなたが昨日、汚してしまったドレスのことだけど気にしなくていいのよ。私が悪かったんだから」
まるで私が意図的に汚したかのように彼女は言う。
さて、どう反論してやろうかと思案していると別の所から声が上がった。
「アドラー伯爵令嬢にワインをかけようとしたのはそっちだろ」
「失敗したからって人のせいにしてんじゃねぇよ」
「なっ!」
ミアは男たちを睨みつける。
まさか私を擁護する言葉が出てくるなんて思いもしなかったから私は驚いて彼らの方を見る。そして更に驚いた。私を擁護した男たちは獣人だった。
獣人はみんなディアモンとミアに賛成派で、私は『番』の二人を邪魔する悪女だという認識だと思っていたから。
「ジュノン様と婚約したからってもう侯爵夫人気どりかよ。伯爵家の出身であるアドラー伯爵令嬢の名前を呼び捨てとか。ふざけてるよな」
「しかも婚約パーティーに呼びつけるとか常識疑うわ」
言っているのは全て上級貴族の獣人。
ミア達に賛成派だったのは下級貴族だ。内心はどうであれここで声をあげることはできない。
保身に走るのは獣人も人族も同じなのだ。
上級貴族の獣人に便乗して人族たちもミアを非難する声を上げ始めた。
ミアの傍若無人ぶりな態度に鬱憤がかなり溜まっていたのだろう。けれど背後にいるジュノン侯爵家を気にして誰も何も言えなかったのだ。
けれど幾らジュノン侯爵家と言えどもこれほど多くの上級貴族を敵に回しては没落も免れないだろう。だからジュノン侯爵家は今回の件に関して沈黙するしかない。
それが分からないミアは「酷いわ!ディアモンに言いつけてやる!」と言って教室を飛び出した。
ディアモンがどういう対応をしてくる分からないけどミアはもう大きな顔はできないだろう。
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