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 「まぁ。この国の王妃ともあろう方がこのような場所で一人だなんてお寂しいことですわね」
 私は王宮の図書館で本を読んでいた。
 そこへ、先程まで中庭で楽し気に過ごしていたシャルロッテ達が来た。
 シャルロッテの腰を抱いているのは陛下。
 そして、後五人シャルロッテの周りに居る。
 「初めまして、王妃様。私はこの国の宰相のコブラ・カタブラと言います」
 慇懃に挨拶をしてきたのは長い銀色の髪を後ろに一つに束ね、眼鏡をかけている男。黒いローブを羽織り、首元には白いスカーフを撒いている。
 「俺は騎士団長を務めているジョセフ・マダータです」
 大きい。身長は二メートルを超えている。赤いマントに隠されていても分かる筋肉で埋められたような体。顔は野性的で、貴婦人に好かれそうだ。
 「僕はジム・マッケン。財務大臣を務めています」
 そう名乗ったのは童顔なのか、子供に見える男。金色の髪は肩で綺麗に切り揃えられ、瞳の色は青だ。身長は平均男性より少し下ぐらいだろう。
 「宰相補佐をしています。ジョン・マレフィセントです」
 子供のような可愛らしい笑みを浮かべる茶髪にアメジストを嵌め込んだような瞳をしている。
 「エイベル・アッカーマンです。宰相補佐です」
 アメジスト色の髪をひと房束ね、横に垂らしている金色の髪の男。
 みな、顔が整っており、そして重要な官職に就いている。どれも経験と知識が必要で、基本的には年配の方が就く役職だ。よほど優秀でない限り、そのような地位には付けない。
 彼らはどう見ても二〇代。
 それに王妃の許可もなく口を開く躾の無さから彼らが優秀ではないことぐらい分かる。
 陛下が即位してから陛下が勝手に人事を動かしたのだろう。
 「そんなジメジメしたところに居ないであなたも一緒に中庭でお茶などいかが?」
 シャルロッテが笑ってそう誘ってくる。
 「シャルロッテ、お前は優しいな。あんな傲慢な女を気にかけるなんて」
 「さすがはシャルロッテ。傲慢で我儘と名高い我が国の王妃とは違う」
 「王妃にも見習ってほしい限りです」
 「全くです」
 陛下が自分達の味方だから、王族である私に何を言っても問題ないと思っているのだろう。普通なら不敬罪で死罪を言い渡されることでも平気でしてくる。
 図書館の管理を任されている司書はこの状況に今にも倒れそうなぐらい青褪めているのに。
 「せっかくのお誘いですが、お断りさせてもらいます」
 「え!?どうしてですか?私、あなたが一人で可哀想だと思ったから誘ってあげたのに」
 頼んでない。
 目を潤ませながら言うシャルロッテに周囲の男達は慌てだした。
 「おい、幾らなんで酷すぎるだろ」
 何が?
 「そうだぞ!せっかくのシャルロッテの心遣いを」
 「酷いと言うのはどういうことでしょうか?
 王妃でありながら侍女も護衛もない。罪を犯した王族を幽閉する塔に閉じ込めること。
 一日一回、パンとコップ一杯の水だけの食事を提供されること。
 それはたかが無神経なお茶会の誘いを断ったことがそれよりも酷いと仰るのですか?」
 「そ、それは」
 さすがの陛下達も黙る。
 だが、これで黙らないのがシャルロッテだ。
 「無神経だなんてひどい。私はあなたのためを思って」
 「私のため?お忘れかもしれませんが、あなたが腕に巻き付いているこの男は私の夫です。最悪なことに。人の男を寝取っておいて、別に欲しくもないけど。人の男とイチャイチャする場面を見せるためだけのお茶会にどうして私が参加しないといけないんですか?痛む心なんてないけど。それを無神経でないというのならなんだと言うのですか?」
 「私は、ただ、あなたが可哀想だから」
 「そうさせているのはあなたです」
 反論はするがシャルロッテの顏は既に崩れ、涙を引っ込ませて私を睨みつけていた。
 「私は歴史が古い大国の王女です。現状を知れば、怒り狂った父がこの国に戦争を仕掛けてくるかもしれませんね」
 「嫁いだ国を亡ぼすと言うのか?何て酷い王妃だ」
 「血も涙もないとはこのことですね」
 「同じ人間だとは思えない」
 「私も同じだとは思いたくはありませんね。何も知らないようですが、王族の結婚とは力量が同じであるのならばそういうことです。小国であるのなら黙って従うしかないでしょうけどね。
 それではこれで失礼させて頂きます」
 もう話すことはないと思い踵を返した。後ろでまだぎゃんぎゃん喚いているようだが、無視だ。
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