どうぞお好きに

音無砂月

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シャーベットのお披露目パーティー。と、言っても夜間ではなく昼間に行われた。パーティーというよりはお茶会だろう。
「商人の娘なんですってね。クスクス」
「だからこのような恥ずかしい会を開けるのですわ。ご自分が愛人などと宣伝して回るのは後にも先にも彼女だけでしょうから。クスクス」
「正に歴史に名を残す偉人ですわね。クスクス」
お披露目パーティーに招待された女性陣、特に噂好きで有名な三人組。
右から赤いドレスに小粒のダイヤモンドをあしらったものを着ているフレイヤ。
黄色のドレスに銀の装飾が施された物を着ているのがオードレット。
最後にピンクのドレス。裾に一周するようにバラとレースをつけたものを着ているのがミルトレッド。
彼女たちはそれぞれドレスと同じ色の扇を広げて口を隠し、チラチラとセルフ殿下に引っ付いているシャーベットを見て笑っていた。
一方のシャーベットは目の前に現れたイケメンの分類に入るアーサに見惚れていた。
「スカーレットの友人のアーサです。こちらは妻のマーガレット」
「マーガレットです」
マーガレットは軽く一礼したがシャーベットの目にはアーサしか入っていない。
「シュワロフス国第二王子セルフだ。こちらは恋人のシャーベット」
「シャーベットです」
自分が王籍を既に外されているにも関わらず堂々と王族を名乗るセルフ殿下。
そして、明らかにシャーベットよりも身分が上のはずのマーガレットを完全に無視してアーサしか見えていないシャーベット。
そんな二人にアーサもマーガレットも素直に感情を表に出すような愚かな真似はしない。
アーサは誰が見ても見惚れるくらい貴公子然とした笑みを浮かべ、マーガレットは穏やかな笑みを浮かべている。
彼らのやり取りを遠巻きに見ていた招待客たちはアーサの招待を知っているが為に顔を強張らせていた。
だがそんな姿にセルフ殿下もシャーベットも気づかない。
「セルフ殿下、婚約おめでとうございます。スカーレットは私にとって大切な友人。なので幸せになることを祈ってます」
にこやかにアーサは愛人であるシャーベットの前でスカーレットのことを出した。
セルフ殿下は眉間にシワを寄せ、不快をあらわにする。
「あれの態度次第だ」
セルフ殿下の言葉にアーサは思わず噴き出しそうになり、マーガレットは口の端をひくひくさせていた。
「もぉう。セルフは照れ屋なんだから」と、言ってシャーベットはアーサの手にそっと触れる。
「大丈夫ですわ、アーサ様。スカーレットはとてもお優しい方。私もスカーレットが大好きですわ。だからセルフの恋人としてスカーレットのことを気にかけていますの」
そう言ってにっこりと頬笑むシャーベット。
既に妻のいる男に、妻の前で触れてくる。本来ならあり得ないことだ。
不貞を疑ってくれと言っているようなもの(シャーベットは普段からパーティーで身分のある男に馴れ馴れしいと評判なので、アーサの地位も相まって、不貞を疑う人間はいなかったが)。現にマーガレットらは笑ってはいるが完全に怒っている。
妻の中では大人しい方だがそれでもアーサに嫁げるだけの地位はある。当然だが彼女も気位の高い女だ。
己が侮辱されたと内心はかなり荒れまくっているだろう。
そんなマーガレットを横目で見ながらアーサは妻のご機嫌取りをどうしようかと考える。
「スカーレットが優しいのは当然ですわ(でなければあんたなんかさっさと追い出されているもの)。でも年上として忠告するならば、それに甘えてばかりではダメよ。いざという時己の身を守れるのは己だけなのだから。油断しないことね(図々しい態度がとれるのも今のうち。あんたなか所詮、スカーレットの手の平で踊らされているだけ。直ぐにドン底に落ちるわ)。」
マーガレットはにっこりと微笑んだ。
その笑顔につれられてシャーベットも頬笑む。
「そうですわね、スカーレットに甘えすぎるのもよくありませんわ。彼女の助けが必要なくなるぐらい頑張りますわ(何れ乗っ取って追い出してやる)。」
温かな陽射しに恵まれたお披露目パーティー。けれどその会場はまさに氷河期のようだった。

特に大きな問題もなく終えたお披露目パーティーだが終始、シャーベットがアーサに馴れ馴れしくしていたこともあり、その悪評は社交界だも有名になった。
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