上 下
16 / 46
第Ⅱ章

3

しおりを挟む
 「お母さん、明日ね学校が終わったら友達と買い物に行く約束したの。
 だからお金頂戴。今お財布に千円しか入ってないの」
 お風呂から上がりリビングに取り込んだままになっていた洗濯物を仕分けし、それぞれの部屋に運んでいたら由利が母にお金をねだっていた。
 高校生になり、由利のお小遣いは五千円から一万円になった。
 対して私はお小遣いをもらってはいない。
 「アルバイトをしてるからいいでしょ」と母に言われてしまったので。
 私は由利とは違って勉強に必要な筆記用具や服は自分のお金で買っている。
 一人暮らしの為に貯めていたいのであまり自由になるお金はない。
 しかも由利にはよく服を盗られるのだ。
 何度抗議をしても「これは私も持っていた」と言い張る。
 目印のようなものをタグにつけてもそう言い張るのでもう手の打ちようがない。
 しかも、何年かして黄ばみや色褪せで着られなくなった服を見せて「これ、柚利愛のでしょ」とか言ってくるんだから腹が立って仕方がないな。
 兎に角何が言いたいかと言うと私は由利の盗られるせいで服代もかかるのだ。
 取り返せれる分は取り返してはいるが。
 対して由利は服も靴も勉強に必要な物も全て母が買っている。
 それなのに一体何がそんなに足りなくなるのか私は不思議でならない。
 「今月は厳しいから柚利愛に貰って」
 は?
 今とんでもないことを聞いた。
 思わず服のシワを取るために当てていたアイロンで自分のシワまで取ろうとしてしまった。
 「何よ?いいじゃない。あんたはアルバイトしてるんでしょ」
 なら、由利もすればいい。
 別に由利の学校だってアルバイトを校則で禁止しているわけじゃない。
「今月はお母さんに五万渡したから無理」
 「だからお給料が入ったら返すって言ったじゃない!」
 先月もそう言って返してもらえなかった。
 しかもさりげなく催促したら「そんなお金あるわけないでしょっ!」と逆ギレされた。
 この人は自分もパートで働いているくせに娘がアルバイトを始めたら億万長者にでもなったきでいるのだろうか。
 お金が無尽蔵に湧いてでるとでも思っているのだろうか。
 学校が終わってからの数時間しか働けない学生の給料がそんなに良いわけがない。
 それに高校の昼ごはんに給食はない。
 私は少ないお金から何とか捻り出したりしている。
 もちろん、夜ご飯を多目に作ってお弁当に詰めるときもあるけど気を付けないと由利に取られたりする。
 由利はお小遣いとは別に昼飯代を母からもらっているのにだ。
 「無理。お昼ごはんだって買わないといけないし」
 「どうせ大して食べないでしょ!
 それこそあんたはおにぎりで良いじゃない」
 何だ、その言い分は。
 だいたい私が渡したお金だって生活費とかよりも由利の物を買ったり、由利が水族館に行きたいとお強請りしてその足にしたり、寿司を食べたいと言った由利の為に寿司を買うお金にしたりしているのを私は知っている。
 「私は由利の為にお金を稼いでいる訳じゃないっ!」
 「我が儘言わないで!
 今月は生活が厳しいって言ってるでしょ」
 だからそれは由利の為に散財するからでしょう。
 少しは節約すればいいのに。
 それに由利が友達と買い物に行かなければすむ話じゃないか。
 「早く由利にお金を渡しなさい」
 「・・・・・」
 「早く!」
 私は結局、由利に五千円を渡した。
 「五千円じゃ足りない」
 こいつ、マジで死ねば良いのに。
 「あんたはどんだけケチなのよ。
 アルバイトして何十万と稼いでるんでしょ」
 母の中では私はどれだけの給料を貰っている設定なのだろう。
 「これ以上は持ってない」
 本当に明日からお昼はおにぎりにしよう。
 じゃないと貯金も出来ない。
 私だって本当はもっといろんなことに使いたいのに。
 貯金する額は決まってるし、卒業までに貯める額の目標は定まっている。
 お金が足りないからと言って貯金を崩す気はない。
 そうなるとかなり厳しいが仕方がない。
 「考えなしに使うからお金が足りなくなるんでしょ」
 と、母に呆れられ溜め息をつかれたが私はもう少し出せるかもとは言わなかった。
 母は仕方なく自分の財布から一万円を出して由利に渡した。
 何だ、あるじゃないか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

死を願われた薄幸ハリボテ令嬢は逆行して溺愛される

葵 遥菜
恋愛
「死んでくれればいいのに」  十七歳になる年。リリアーヌ・ジェセニアは大好きだった婚約者クラウス・ベリサリオ公爵令息にそう言われて見捨てられた。そうしてたぶん一度目の人生を終えた。  だから、二度目のチャンスを与えられたと気づいた時、リリアーヌが真っ先に考えたのはクラウスのことだった。  今度こそ必ず、彼のことは好きにならない。  そして必ず病気に打ち勝つ方法を見つけ、愛し愛される存在を見つけて幸せに寿命をまっとうするのだ。二度と『死んでくれればいいのに』なんて言われない人生を歩むために。  突如として始まったやり直しの人生は、何もかもが順調だった。しかし、予定よりも早く死に向かう兆候が現れ始めてーー。  リリアーヌは死の運命から逃れることができるのか? そして愛し愛される人と結ばれることはできるのか?  そもそも、一体なぜ彼女は時を遡り、人生をやり直すことができたのだろうかーー?  わけあって薄幸のハリボテ令嬢となったリリアーヌが、逆行して幸せになるまでの物語です。

今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます

神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。 【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。  だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。 「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」  マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。 (そう。そんなに彼女が良かったの)  長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。  何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。 (私は都合のいい道具なの?)  絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。  侍女達が話していたのはここだろうか?  店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。  コッペリアが正直に全て話すと、 「今のあんたにぴったりの物がある」  渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。 「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」  そこで老婆は言葉を切った。 「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」  コッペリアは深く頷いた。  薬を飲んだコッペリアは眠りについた。  そして――。  アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。 「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」 ※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)  (2023.2.3)  ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000 ※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

処理中です...