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 狭間の世界でポイントを貯め始めてから、今日で7ヶ月めになる。あれ??あれれ??



 あの日のサミュエルさんとの食事は、正直言って最高だった。お酒も料理もとても美味しく、職場の休憩時間では中々話せないような、お互いの趣味や好みなどの話をする終始穏やかな時間。うっかりボンキュッボンの夢を諦めて、サミュエル教の信者としてこの時をずっと過ごしたいと思ったりもした。施設に帰りシャワー浴びてサッパリする頃には、やっぱり最低でもFカップという希望は捨てられないと思い直したけど。そもそもここにずっといられるわけないしね。
 あの日確かにサミュエルさんは、順調にポイントも貯まってるって言ってた。なのにどうして6ヶ月過ぎてもここに残ってるんだろう。もしかして、望みが高すぎて必要な徳が他の人より多いの??
 うんうん唸りながら1人悩む。もう一つ気になることがあって、6ヶ月を過ぎてから、気のせいかもしれないけど髪の毛の根本の色素が薄くなっているみたいなのだ。この世界の金髪美人たちと同じような色に見える。1センチくらいだから、ハッキリとは言えないけど、元々地毛が真っ黒な私の毛とはよく見ると色が違うみたい。
 色々なことが気になって悶々とした日々を過ごす。サミュエルさんは相変わらずとても優しいし、職場の金髪美人たちも、私の頭を見て一瞬驚いたり微妙な顔をしたりする以外は、以前と変わらない。
「花園さん」
 とにかく誰かに相談したい。でも誰に…?
「花園実摘さん」
「?はい?」
 考え事をしていてすぐ反応出来なかったが、誰かに話しかけられている。声の方へ顔を向けると、狭間の世界に来て初めて会った綺麗すぎる金髪美人が立って手招きをしていた。
「仕事を抜ける旨は了承を得ています。大事なお話がありますのでこちらへ」
「は、はいっ!」


 連れてこられた部屋は、意識を取り戻した時の豪華な部屋だった。椅子を勧められて、腰掛ける。
「花園さん、あなたは転生せずにこの世界に残ることにしたのですね」
 おもむろにかけられた言葉に、思考が停止した。
「サミュエルから聞きましたよ。貴女にとっては大変な決断だったでしょう。未練を乗り越え、転生を諦めたのですから」
 え???聞いた?何を?転生を諦めた???そんな話してないし、なにこれ現実???てか諦めるとかそんなことできるんだね???
 混乱する私をよそに、金髪美人の話は続く。
「貴女のような決断をする方は、本当に少ないので驚きましたが、この世界のことを思えば喜ばしいことです。この世界の代表としてお祝いとお礼をお伝えしたくて、この場へお呼びしました」
 いや、待って?決断してないよ。いや、したけどそれはやっぱりFカップ以上の胸を持つボンキュッボンになるっていう決断はしたけど!ここに残るってどういう???
 驚きが凄すぎて、口から声が出てこない。恐らく私は今、とてもアホな顔をしていることだろう。
「初めは冗談かと思いましたが、貴女のその毛髪を見れば本当だと思い直しました。我々は寿命が長く老化も緩やかな分、子孫が残しにくい生命体です。貴女のような、他の世界から来た方が残ってくれるのは本当に嬉しいことです」
「あ、あの」
 なんとか絞り出した声は、か細すぎて相手に届かない。
「きっと戸惑うことも多いでしょう。でも前世での生活と違う点も多くありますが、反対に似ているところも勿論ありますし、安心してこの世界に残っていただきたい。サポートもいたしますし、」
 ここで狭間の世界の代表らしい金髪美人は、私を見てにこりと笑みを浮かべた。綺麗すぎて見惚れる。
「元より誰かと結婚してくれると思っていなかった息子の、サミュエルの伴侶になってくれるなんて、本当にありがとう」


む!?息子????!!!!
伴侶??????伴侶?!?!


驚きが大きすぎたせいか、私はそこで前世含めて人生初となる気絶を経験したのだった。


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