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第八話 愛の力④
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「ゴフッ……じゃ、じゃあ今度は疾風の…方、から……何か聞きたい事はない?」
「ゲボッ…そッそうだなぁ……何か聞きたい事あったッ、かな?」
「この……際だから、何でも…ヒデブッ!! ………聞いておいた方が良いッ」
男三人揃って顔面に優奈の拳を叩き込まれ、鼻血が止まらない状況でも会話は続いていく。一人内側より破壊される音が聞こえたが、どうやら鍛え抜かれたインナーマッスルにより一命を取り留めた様だ。
「……あ、そうだ。此処って本当にオレが引っ越して来て良いのか?」
疾風が気に成った事を思い出し即尋ねた。
「うん。さっきも話したけど僕の両親は海外に居て殆ど帰ってこない、その癖家だけは無駄に馬鹿デカいから自分と姉の二人で住んでると少し寂しく感じてね。だから姉にも了承を得てチームの活動拠点として使ってるんだ。聡太と凪咲はもう結構前から此処で寝泊まりしてるよね?」
海斗の言葉に優奈と聡太が首を縦に振った。
そしてその話を聞いて、疾風は顔に悩みのシワを寄せる。
「そっか、じゃあ本当にチームの全員で共同生活してるんだな」
「一緒に生活してくれる分には賑やかに成るし大歓迎だよ、寝食を共にする事で生まれる阿吽の呼吸って奴も有るだろうしね。でも、別に強制はしない。疾風にも色々と事情が有ると思うし」
「…………」
「疾風は今一人暮らし? 其れとも誰かと一緒に住んでるの??」
「妹と一緒に住んでる。両親は…一緒に住んでない」
「ああ、さっき話に出てた妹さんね。じゃあそんな簡単に引っ越してくる訳にもいかないか」
「いやッ。実は……妹と別々の場所で生活したいっていうのが、オレがお前からの誘いに乗った一番の理由なんだ」
疾風の意外な発言に、海斗は驚きの表情を浮かべる。
「仲でも悪いのかい?」
「仲は、寧ろ他所の兄妹に比べても良い方だと思う。でもオレが家に居るせいで妹の人生を邪魔してる気がしててさ。前々から家を出る事は考えてたんだ、切っ掛けが無くて先送りにしてたけど」
それは、疾風が数年前から感じ続けていた事であった。
両親が亡くなったばかりの頃は自分が妹を守るんだという一心で必死に頑張ってきた。
だが何時の間にかその関係は逆転。今や兄である自分が凪咲に世話を焼かれ、家事から食事まであらゆる事を彼女に頼り切りと成っている始末だ。
凪咲は唯でさえアイドルの仕事で忙しい。それなのに、余った僅かな時間すらも兄である自分の為に使わせてしまっている。
その事をずっと申し分け無く感じていた。
「ほら、家に兄貴が居たら色々面倒だろ? 夕飯を作るために毎日何処にも寄らず帰って来るし、朝早くから家事もして貰ってる。それに家へ友達を連れてきた事も無いし、恋愛の話も聞かない。オレが居るせいで妹の人生の邪魔に成るんなら、出て行って別々の場所で生活した方が良いんじゃないかって思って……」
そう何故自分が家を出ようとしているのかという理由を疾風が話し、場は何とも言えない空気となった。他所の家庭の話なので余り迂闊に踏み込みづらいのだろう。
そして又、疾風は一体何故こんなプライベートな話を他人にしているのだと己を鑑み驚いた。
「……まあ、その件に関しては此方からとやかくは言わないよ。疾風と妹さんの話だからね、判断を下すのは何時になっても良いからしっかり話し合った方が良い。何なら家から此処へ通う事に成っても僕が毎日車で迎えに行くからね!」
「良いのか? オレの家此処から結構距離あるぞ」
「大丈夫、僕のドライビングテクニックを信じてよ。この前なんかナビで30分掛かるって言われた道を20分で走破したんだから」
「いや、それ逆に大丈夫じゃないッ!!」
そう海斗のボケなのか本気で言っているのか分からない話に疾風がツッコミを入れ、一端この話は終りと成った。確かに最終的な決断は凪咲と話をしてからにした方がよさそうである。
だが、もう既に殆ど疾風の心は決まっていた。
妹にこれ以上自分の為に時間を使わせたくない。兄である自分が彼女の足枷に成るなんて有り得ない。凪咲の事を一番に考えているのなら、自分から家を出てあの子を自由にしてあげる事が最善の筈だ。
凪咲は自分に残ったたった一人の家族。この世の誰よりも、幸せに成って貰いたい。
「よし! じゃあ何はともあれ今日の所は此処までにしておこう、もう大分時間も遅く成ったしね」
「……………時間も、遅く? あれッ今何時だ!?」
海斗がサラッと言った閉会の言葉の一部に、疾風は突如顔へ焦りを浮かべ飛び付いた。
「何時? ……今は7時56分。もう直ぐで8時に成る所だね」
「はッ、8時!? やばいッ妹に5時には帰るって言ってたんだった、凪咲絶対心配してるぞッ」
「本当にッ? それはちょっと悪い事したな、僕はてっきり疾風は一人暮らしで何時間でも留めておけると思ってたから。せめて今すぐ電話だけでも妹さんに入れて置いた方が良い」
「何か今サラッとめっちゃ怖い事言わなかった……ああッオレ携帯落としてたんだった! おい誰か電話貸してくれッ!!」
数時間前に自分が一体何故タクシー乗り場で立ち尽くしていたのかを思い出した疾風は、慌てて携帯を貸してくれと言った。
すると優奈が弄っていた携帯をそのまま手渡してくる。
「ほら、アタシの携帯貸してやるからこれで妹に連絡しろ」
「あ、ありがとう。後ちょっと誰か金も貸してくれ! イベントで財布も無くしたんだッ」
「幕張に行こうとしたら迷子に成り、携帯を落として財布を無くし、妹との約束を忘れて無我夢中にピザを食べる。可愛いでちゅな僕ちゃん」
「グゥ…悔しいが全部事実だから言い返せねえ」
「まあ良いじゃ無いか、この赤ちゃんは僕が運転して家まで送り届けよう。疾風はとにかく妹さんに電話掛けな」
「ああ、悪い」
疾風が現在時刻を知ってから急に時の流れが倍速になったかの如く慌ただしい帰宅の準備が始まる。
きっと凪咲は心配しているだろう。また兄貴失格のエピソードを増やしてしまった。
ピィンポオォォン!!
この部屋に居る全ての人間が急に忙しく片付けや帰宅準備を始めた中、玄関のチャイムが鳴った。誰か来客が来たのだろうか。
「あ、多分姉さんが帰ってきたんだ。ちょっと聡太開けに行ってくれる? ピザ受け取った時にカギ締めちゃってたんだ」
「了解~」
「…………あれ、凪咲出ねえな?」
チャイムの音に聡太がカギを開けに玄関へ向かい、海斗は外出する為上着を身に纏い、疾風は借りた電話で妹に電話を掛け、優奈はこの隙に颯太の皿へ残ったポップコーンシュリンプをくすねる。
そして、凪咲が電話に出ず疾風は首を傾げた。
若しかするともう寝てしまったのだろうか? 就寝には多少早すぎる時間だとは思うが、仕事の内容がハードだったのならその可能性も大いにあり得る。
そしてそんな事を考えながら疾風が通話を切ろうとした時、海斗が唐突にこうポロッと零したのだ。
「あ、そう言えば今日姉さん出張で帰って来ないんだった。アハハハ、昨日言われてたのを忘れてたよッ」
その蘇った記憶をそのまま言葉にしたが如き海斗の声に、場の全員が違和感を覚えた。
そして、優奈が全員を代表して違和感の具体的な内容を言葉にする。
「はあ? じゃあ、今聡太が鍵を開けに行った扉の先には誰ッ………」
「ギィヤアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
玄関の方向から、まるで断末魔の様な聡太の叫び声が聞こえてきた。
「ゲボッ…そッそうだなぁ……何か聞きたい事あったッ、かな?」
「この……際だから、何でも…ヒデブッ!! ………聞いておいた方が良いッ」
男三人揃って顔面に優奈の拳を叩き込まれ、鼻血が止まらない状況でも会話は続いていく。一人内側より破壊される音が聞こえたが、どうやら鍛え抜かれたインナーマッスルにより一命を取り留めた様だ。
「……あ、そうだ。此処って本当にオレが引っ越して来て良いのか?」
疾風が気に成った事を思い出し即尋ねた。
「うん。さっきも話したけど僕の両親は海外に居て殆ど帰ってこない、その癖家だけは無駄に馬鹿デカいから自分と姉の二人で住んでると少し寂しく感じてね。だから姉にも了承を得てチームの活動拠点として使ってるんだ。聡太と凪咲はもう結構前から此処で寝泊まりしてるよね?」
海斗の言葉に優奈と聡太が首を縦に振った。
そしてその話を聞いて、疾風は顔に悩みのシワを寄せる。
「そっか、じゃあ本当にチームの全員で共同生活してるんだな」
「一緒に生活してくれる分には賑やかに成るし大歓迎だよ、寝食を共にする事で生まれる阿吽の呼吸って奴も有るだろうしね。でも、別に強制はしない。疾風にも色々と事情が有ると思うし」
「…………」
「疾風は今一人暮らし? 其れとも誰かと一緒に住んでるの??」
「妹と一緒に住んでる。両親は…一緒に住んでない」
「ああ、さっき話に出てた妹さんね。じゃあそんな簡単に引っ越してくる訳にもいかないか」
「いやッ。実は……妹と別々の場所で生活したいっていうのが、オレがお前からの誘いに乗った一番の理由なんだ」
疾風の意外な発言に、海斗は驚きの表情を浮かべる。
「仲でも悪いのかい?」
「仲は、寧ろ他所の兄妹に比べても良い方だと思う。でもオレが家に居るせいで妹の人生を邪魔してる気がしててさ。前々から家を出る事は考えてたんだ、切っ掛けが無くて先送りにしてたけど」
それは、疾風が数年前から感じ続けていた事であった。
両親が亡くなったばかりの頃は自分が妹を守るんだという一心で必死に頑張ってきた。
だが何時の間にかその関係は逆転。今や兄である自分が凪咲に世話を焼かれ、家事から食事まであらゆる事を彼女に頼り切りと成っている始末だ。
凪咲は唯でさえアイドルの仕事で忙しい。それなのに、余った僅かな時間すらも兄である自分の為に使わせてしまっている。
その事をずっと申し分け無く感じていた。
「ほら、家に兄貴が居たら色々面倒だろ? 夕飯を作るために毎日何処にも寄らず帰って来るし、朝早くから家事もして貰ってる。それに家へ友達を連れてきた事も無いし、恋愛の話も聞かない。オレが居るせいで妹の人生の邪魔に成るんなら、出て行って別々の場所で生活した方が良いんじゃないかって思って……」
そう何故自分が家を出ようとしているのかという理由を疾風が話し、場は何とも言えない空気となった。他所の家庭の話なので余り迂闊に踏み込みづらいのだろう。
そして又、疾風は一体何故こんなプライベートな話を他人にしているのだと己を鑑み驚いた。
「……まあ、その件に関しては此方からとやかくは言わないよ。疾風と妹さんの話だからね、判断を下すのは何時になっても良いからしっかり話し合った方が良い。何なら家から此処へ通う事に成っても僕が毎日車で迎えに行くからね!」
「良いのか? オレの家此処から結構距離あるぞ」
「大丈夫、僕のドライビングテクニックを信じてよ。この前なんかナビで30分掛かるって言われた道を20分で走破したんだから」
「いや、それ逆に大丈夫じゃないッ!!」
そう海斗のボケなのか本気で言っているのか分からない話に疾風がツッコミを入れ、一端この話は終りと成った。確かに最終的な決断は凪咲と話をしてからにした方がよさそうである。
だが、もう既に殆ど疾風の心は決まっていた。
妹にこれ以上自分の為に時間を使わせたくない。兄である自分が彼女の足枷に成るなんて有り得ない。凪咲の事を一番に考えているのなら、自分から家を出てあの子を自由にしてあげる事が最善の筈だ。
凪咲は自分に残ったたった一人の家族。この世の誰よりも、幸せに成って貰いたい。
「よし! じゃあ何はともあれ今日の所は此処までにしておこう、もう大分時間も遅く成ったしね」
「……………時間も、遅く? あれッ今何時だ!?」
海斗がサラッと言った閉会の言葉の一部に、疾風は突如顔へ焦りを浮かべ飛び付いた。
「何時? ……今は7時56分。もう直ぐで8時に成る所だね」
「はッ、8時!? やばいッ妹に5時には帰るって言ってたんだった、凪咲絶対心配してるぞッ」
「本当にッ? それはちょっと悪い事したな、僕はてっきり疾風は一人暮らしで何時間でも留めておけると思ってたから。せめて今すぐ電話だけでも妹さんに入れて置いた方が良い」
「何か今サラッとめっちゃ怖い事言わなかった……ああッオレ携帯落としてたんだった! おい誰か電話貸してくれッ!!」
数時間前に自分が一体何故タクシー乗り場で立ち尽くしていたのかを思い出した疾風は、慌てて携帯を貸してくれと言った。
すると優奈が弄っていた携帯をそのまま手渡してくる。
「ほら、アタシの携帯貸してやるからこれで妹に連絡しろ」
「あ、ありがとう。後ちょっと誰か金も貸してくれ! イベントで財布も無くしたんだッ」
「幕張に行こうとしたら迷子に成り、携帯を落として財布を無くし、妹との約束を忘れて無我夢中にピザを食べる。可愛いでちゅな僕ちゃん」
「グゥ…悔しいが全部事実だから言い返せねえ」
「まあ良いじゃ無いか、この赤ちゃんは僕が運転して家まで送り届けよう。疾風はとにかく妹さんに電話掛けな」
「ああ、悪い」
疾風が現在時刻を知ってから急に時の流れが倍速になったかの如く慌ただしい帰宅の準備が始まる。
きっと凪咲は心配しているだろう。また兄貴失格のエピソードを増やしてしまった。
ピィンポオォォン!!
この部屋に居る全ての人間が急に忙しく片付けや帰宅準備を始めた中、玄関のチャイムが鳴った。誰か来客が来たのだろうか。
「あ、多分姉さんが帰ってきたんだ。ちょっと聡太開けに行ってくれる? ピザ受け取った時にカギ締めちゃってたんだ」
「了解~」
「…………あれ、凪咲出ねえな?」
チャイムの音に聡太がカギを開けに玄関へ向かい、海斗は外出する為上着を身に纏い、疾風は借りた電話で妹に電話を掛け、優奈はこの隙に颯太の皿へ残ったポップコーンシュリンプをくすねる。
そして、凪咲が電話に出ず疾風は首を傾げた。
若しかするともう寝てしまったのだろうか? 就寝には多少早すぎる時間だとは思うが、仕事の内容がハードだったのならその可能性も大いにあり得る。
そしてそんな事を考えながら疾風が通話を切ろうとした時、海斗が唐突にこうポロッと零したのだ。
「あ、そう言えば今日姉さん出張で帰って来ないんだった。アハハハ、昨日言われてたのを忘れてたよッ」
その蘇った記憶をそのまま言葉にしたが如き海斗の声に、場の全員が違和感を覚えた。
そして、優奈が全員を代表して違和感の具体的な内容を言葉にする。
「はあ? じゃあ、今聡太が鍵を開けに行った扉の先には誰ッ………」
「ギィヤアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
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