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第107話 ゴンザレスの人生

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 ゴンザレスは自分の誕生日を知らない。

 覚えている一番古い記憶は空腹で死にそうに成りながらゴミ捨て場を漁り、捨てられている物の中で唯一食べられそうだと感じた卵の殻を摘まみ口に入れた光景。

 少量付着していた粘液を舌で絡め取り、其れでも消えない空腹感で噛み締めた殻のジャリジャリという不快な食感も覚えている。



 気が付いた時には一人ボッチで、親と死に別れたのか、捨てられたのか、其れとも何かのトラブルで生き別れたのかは分からない。

 そもそもゴンザレスは10歳を超えるまで自分にも両親という存在が居たという事すら知らなかったのだ。

 しかし両親が居ると知って得られたのは虚しさだけ。唯の一度も愛を与えられた痕跡が無く、恐らく両親は自分を愛してくれてはいなかったという事実だけが増えた。



 しかしそんな事を考える余裕も無かったのは唯一の救いかも知れない。

 毎日が本当にギリギリだった、ゴンザレスは大人になるまで一度も腹が膨れるという感覚を味わった事が無い。

 生活は基本ゴミ漁り、そして戦争が発生した時はその戦場に向かって死体漁り。

 希に孤立している兵士がいたら襲撃して殺し、食料を強奪した事もあった。



 人を殺す事は何とも思わない。初めて人を殺した時は謎の後味悪さを感じたが、二度目以降は呼吸する様に自然体で人を殺した。

 関わった人間の数が極端に少なく、其れも血の通ったやり取りなど一つも無かったゴンザレスにとって、他の人間に対し仲間意識を感じるのは事は非常に困難であった。

 其れでも人間の本能とは凄まじい物で、歳を重ねると共に『誰かに必要とされたい』という欲求が独りでに立ち上がってくる。

 だがゴンザレスが不運だったのは、その初めて必要としてくれた人物がどうしようも無い屑だったという事だ。



 15歳を過ぎるとゴンザレスの身長は2メートルを超え、体格・力共に並の大人を凌駕する様に成った。

 普通の街に居場所を見つけられた無かった為、ゴンザレスは銃弾と悲鳴で満たされた戦場の隙間に居場所を発見する。

 唯一の居場所を守る為、数年間必死で全てを削ぎ落として気付けば純粋な強さの化身と成っていた。

 奪う事しか出来ない自分を受け入れてくれるのは無法の戦場だけだったのである。



 そして必死に戦場の中で追い剥ぎを繰り返していると、あるとき幸か不幸かとあるマフィアの幹部を殺してしまいその噂が瞬く間に広がった。

 其れが連鎖的に不幸を呼び、噂を一つのファミリーが聞きつけてスカウトの使者がやって来くる。そして言葉巧みに誘導して、ゴンザレスをファミリーに引き摺り込んだのだった。



 其処での扱いはとても人間に対するモノとは呼べず、まるで獣の様に檻の中で飼われた。

 食事は一日一回地面にぶちまけられた残飯だけで、意味も無く『躾け』という謎の理由で鞭打たれ痛めつけられる。

 ゴンザレスという名も其処で付けられたのだが、元々その名前は此処で飼われていた犬の名前で、そのまま付けられたのだ。

 そして多いときは一週間に数度、ファミリーの敵や内部抗争の敗者を殺すという仕事を与えられるのだ。



 そのファミリーに所属していた数年間は本当に一度も笑わなかった。

 食事は少なく常に空腹で、周囲から浴びせかけらる嘲笑の笑みは屈辱的、そして暗殺の仕事のせいで身体は常に傷だらけ。

 しかし其れでも、ゴンザレスはそのファミリーを抜けようとは思わなかった。

 仕事を幾つも熟す上で技術も身につき、則の力も目覚めていたのでその気に成れば何時でもそのファミリーの人間を皆殺しにして脱出できる。

 其れでもしなかった、何故なら彼にとってそのファミリーだけが唯一人間との繋がりだったから。



『お前みたいな化け物を受け入れてくれるのはウチくらいだぞッ! しかも専用の檻と飯までやってる、間違ってもこの恩に背くんじゃねえぞ!!』



 毎日そう言われて鞭打たれる。

 今思えば自分の力を恐れるが故に反乱を恐れた行動だったのかも知れないが、其れでも毎日言い聞かされたゴンザレスはその言葉を信じてしまった。

 此処を追出されたらもう何処も受け入れてくれない、そう考えると苛立ちに任せてその居場所を失うのが怖くて何も抵抗出来なかったのである。



 そうして両手を血で染め続ける生活を続け数年の月日が流れた後、遂に彼の全てがひっくり返る様な出来事が起こる。

 アンベルト・バラガーの暗殺を命じられたのだ。
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