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第14話 迫る陰

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「ああ、つまり我々は少数を引き連れてレヴィアスの首都に潜入する事に成る。ルチアーノ相手に人数は意味を成さないからな、、、私達BIFとビッグネームが三人もいれば十分の筈だ。確実に奴を殺せる筈だ」



 薄暗い部屋での会談は終盤に突入していた。

 会談を仕切って話を回しているのは一番最後に部屋にやってきたオールバック男であり、その他のメンバーは凍り付いた様に身動き一つせずに話を聞いている。



「これで大方の説明は終了だ。決行の日程は内部からの情報待ちだが、年内であるという事だけは伝えておこう、、、其れでは、質問が有る者はいるか?」



 説明が終了した様で、オールバック男は質問を求めた。

 すると真っ白で小枝の様に細く綺麗な少女の腕が上がる。



「マダム、質問かな?」



「質問ではない、命令だ。お前たちは私を中に通す手助けだけをしろ、私が一人でルチアーノを殺す、、、邪魔すればお前達も容赦なく殺す」



 少女は誰の顔も見ないで自分の主張だけを一方的に喋る。

 その主張は余りに自己中心的で、会談という互いの意見をぶつけ合う場の意義を無視した言葉であったが、その場の全員が予想していたかの様に受け入れる。



「・・・分かった。我々はルチアーノが死に、レヴィアスファミリーが歴史からも地図からも消滅してくれさえすれば其れで良い。貴方が許容以上に苦戦して時間を喰わない限り、我々から邪魔はしないという事で良いだろうか?」



 少女は返答を返さない。

 しかしオールバックの男はその行動が肯定を意味していると理解して満足そうに何度か頷いた。

 正直な事を言えば誰も好き好んで正面からルチアーノと戦いたい者など居る筈が無い、皆自分の命が大事で他人が殺してくれるならそれが最善であった。



「ご理解頂き感謝する。では、他に質問がある者はいるか?」



 今度はサングラス男が細長くてゴツゴツした右手を上げる。



「何か質問かな、賭博王?」



「ああ、俺からも質問は一つだけだ。ルチアーノが死んだ後にレヴィアス領に攻め込むのは早い者順で良いんだよな? 何処をどれだけ取ろうとも各ファミリーの自由だろ?」



 その質問を受けてオールバックの男はめんどくさそうに頭を掻き、周囲を見回した。



「我々BIFとしてはファミリー間の領土争いに干渉するつもりは無い、よってこの早い者勝ちの案を支持するつもりも無ければ否定するつもりも無い。この件に関しては私達を除いた、マフィア同士で話し合って欲しいのだが、、、」



 オールバックの男は周囲を見回し終えたが、サングラスの男以外はこの話題に興味を示している者はいなかった。

 どうやら此処に居るメンバーがルチアーノを殺したい理由はそれぞれ違っていて、少女は純粋に殺す事が目的、サングラスの男は領土目的、ピエロは何をするのか理解しているのかすら不明である。



「無言は肯定の意と取らせてもらうぞ。ではルチアーノを殺した後のレヴィアス領は早い者勝ちだ、好きなように侵攻して略奪すれば良い。他に質問が有る者は?」





「はいッ! はいはいはいはいは~い!!!!」



 先ほどまでピクリとも動かなかったピエロが突然手を上げ、神経を逆撫でする様な声で喚き散らかす。



 ピエロが手を上げた瞬間、全員の表情が引きつって露骨に嫌悪感が表情に現れた。

 この場所に来てから一度も無表情を崩さず、本物の人形の様に黙っていた少女も嫌悪感が現われたのか目を細めて視線を下に落とす。

 どうやら足並みも目的も一致しないメンバーであるが、このピエロが嫌いという事だけは一致しているようだった。



「はぁ、、、何だチャムラップ? 言ってみろ」



 確実に碌な事を言わないと全員が分かっていたが、無視すればどんな奇行をされるか分かった物では無いので仕方なく話を聞く。



「あのね、僕ちゃん寝てて話聞いてなかったの。だから始めからもう一度説明して? 今度は眠く成らない様に、ダンスと歌を挟みながらお願い!」



「よし、今回の会談は以上だ。今回の内容が外に漏れだせばそれだけで計画の全てが崩壊する、ファミリーの幹部にも話さず秘密裏に準備を進めてくれ。では日程が決まり次第また呼ぶ、解散だ」



 ピエロの発現を完全無視して会談は終了し、オールバックは言葉を言い終えると同時に姿が止みに消えた。

 そして其れを追う様に他のメンバーも闇に消え、真っ暗な部屋にはピエロと彼自身の死体だけが残される。



「・・・これが、人類補完計画か」



 結局ピエロは数時間一人で訳の分からない言葉を喚き続けたのだった。



 
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