籠の鳥

橘 薫

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聖夜

9

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 一真くんがシャワーを浴びている間に準備をする。自分の家でするのは初めてだった。いつもはホテルを使っていたし、あの男と付き合っていたときは、大概彼の家でだった。

 今日は、何を使おうか。出した道具を前に考える。手枷、アイマスク。足枷は……どうしようか。
 ベッドの枠に片足ずつ拘束して、動けないようにしよう。後は、感度を高めるためにローション、それから香りが重要だ。アロマランプを出し、イランイランとベルガモットを数滴垂らす。

「美彩さん、シャワーしました」
 ベッドルームのドアに一真くんが凭れていた。
「入って」
 一真くんは一緒に暮らすようになってから、この部屋に入ったことはないはずだ。少し、興味深げにわたしのベッドルームを見ている。
「そこに寝て」
「はい」
「タオルは取ってね」
 腰に巻いたバスタオルを取らせる。下着をつけていたからそれも脱ぎなさい、と言うと、彼は大人しく従った。

「手、上げて」
 仰向けに寝かせた彼の両手を頭の上で持ち、手枷を嵌める。その手枷の真ん中から出ている鎖を、ベッドヘッドの柱に留めた。
「今日は視覚を奪うから、アイマスク」
「はい」
 一真くんの頭にアイマスクを被せる。そのついでに銀色の髪を指で軽く梳く。

「足も拘束する。怖くない?」
「大丈夫、です」
「怖かったり、外して欲しいときは遠慮なく言って」
「はい」
「……もう、興奮してるの?」

 一真くんの中心は、誰が見ても彼の興奮度が分かるほど昂まっていた。
「す、すみません、なんか、その」
「期待しちゃうよね」
 思わず含み笑いをしてしまう。わたしは部屋の照明を消し、間接照明だけにした。アロマランプは温まり、先程からセクシーな香りが部屋を充しはじめている。

「わたし、シャワーしてくるから……起きて、ちゃんといい子で待てる?」
「待て、ます」
 裸で放置するから、寒くないように暖房の温度を少し上げておいた。ゆっくりじっくり、シャワーを浴びてこよう。
 前戯はもうとっくに、始まっているのだ。
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