オトナのラノベの作り方

ぼを

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40秒で射精しな!

第3話

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「そろそろ来るか…」
 僕はユグドラジル社を眼前に臨めるオープンテラスのスタバでコーヒーを飲みながら、落ち着かずにスマホを何度も点けては時計を確認した。土曜の早朝。道行く人はまばらだ。
 突然、手に持っていたスマホが震えた。電話だ。金山からだ。
「どうした?」僕はスマホを耳に遣るなり、話した。「遅れる話か?」
「初潮を迎えた処女の娘の扱いに困る父親の心境よりもデリケートな事をしようというのに時間を守れない程、俺は愚かじゃない。右を向け」
 言われて、僕は首を右に振った。金山の姿が見えるかと思ったが…いない。
「悪い。左だ」金山が言った。「左を向け」
 それで、逆方向、左を向いた。少し離れた所に停車している車の運転席から、電話をしながら手を振る金山が見えた。僕は電話を切ると、金山の方に向かった。助手席には豊橋が乗っているのが解った。
 僕は後部座席のドアを開けた。
「グズグズするな」金山が言った。「ドアを閉めるんだ」
 僕は扉を閉めながら、後部座席に腰を落ち着けた。
「スタバのテラス席で実行するんじゃないのか?」
 僕が訊いた。
「この時間帯に、いい年をした男3人がスタバでPCを弄るのは目立ちすぎる。Wi-Fiを掴む為に移動するにも車は都合がいい」
 豊橋は膝に乗せたノートPCを操作しながら、無表情に答えた。
「この時間帯を選んだ理由は?」
 再び僕が訊いた。金山が運転席から僕の方に身を乗り出すと、「ユグドラジルのサイトで社員募集要項を確認したが、どの職種も土日祝日休みだった。つまり、土曜の朝にハウジングしているサーバ会社側でハッキングを検知したとしても、ユグドラジル自体が本格的に動くまでに時間を稼ぐことができる」と答えた。なるほど。
「…よし、大丈夫だ」豊橋が、ダッシュボードに置かれた妙な機械のアンテナを弄りながら、言った。「ビルの見える区画であれば、外周どこからも電波が掴める事が確認できた」
「これはWi-Fiのレピータだ」金山が、僕の表情を読んだのか、訊く前に答えた。「簡単に言えば、電波増幅装置だ」
 なるほど。
「念には念を入れたい」豊橋が言った。「スタバで何か食い物を買ってきてくれ」
「鳴海よ」金山が言った。「俺はシナモンロールとホットを所望する。豊橋にはパンプキンスコーンでもやっておけ」
 意味が解らなかったが、言われるままに僕は車を降り、先ほどのスタバで言われた物を買う事にした。朝食をとりに来た客でレジはちょっとした行列になっていた。僕は、店の窓ガラス越しに車の方を気にしながら、順番を待った。
 シナモンロールとパンプキンスコーン、コーヒー2つを入手した頃には、15分程度が経過していた。僕は小走りに車に向かった。
「買ってきたぞ」
 僕はコーヒーを零さない様に慎重に後部座席の扉を開くと、車に乗り込んだ。
「…よし、下準備が完了した。あとはUNIXコードを入れていくだけだ」
 豊橋が言った。
「弄れる状態になったのか?」金山が言った。「おい、シナモンロールをくれ」
 僕はコーヒーとシナモンロールを金山に渡した。パンプキンスコーンを豊橋に渡すタイミングをつかめず、言われるまで手に持つ事にした。
「root権限を乗っ取った。改竄後に侵入ログは全て消去する予定だが、敢えて痕跡を残す手段もある。どうする?」
「面白くなって来やがった」
 豊橋の言葉に、金山がにやりと笑いながら言った。
「ログなんか残さない方がいいんじゃないか?」
 僕が訊いた。
「現場に何も残さないのは自信がない事の発露だ」金山が答えた。「ラスコーリニコフは証拠隠滅を図ったが良心の呵責には耐えられなかった。翻って、ピッコロ大魔王は魔の字のビラを残したし、ルパンは似顔絵と小粋なコメントを残した。ハッキング界の上流階級のお作法に則るなら、侵入の痕跡を残す事こそ美しい」
「おい」豊橋が言った。「時間を掛けたくない」
 金山が、解ったよ、と返した。
「ハッキングログを消去しても、ユグドラジルに不自然な動作があれば、ウィルスやトロイの木馬といった外部からの影響を勘繰るのが情セキ部門の役務ってものだ。つまり、どのみち疑われるのであれば、敢えて痕跡を残す事で、ハッキングした人間が俺たちではない事を誘導しておいた方がいい。情セキの連中がハッキング解析の結果、犯人を見つけられなかったとしても、ここまでは頑張って追跡しました、という手土産にもなるしな」
「さしあたり」豊橋が言った。「投票順位1位のラノベの作者名のアナグラムでも忍ばせておくか」
 豊橋が提案した。それで、僕にも、今からやろうとしている事が理解できた。
「1位はまずい」金山が言った。「リアリティがないし、そもそも1位ならハッキングしない。3位を狙え」
「了解。車を出してくれ。一周で終わらせる」
 豊橋の言葉に、金山はハザードを切ってウインカーを出すと、車を発進させた。移動しながらやるつもりか?
 最初の信号で、赤にひっかかった。
「…よし」豊橋が言った。「あとは1位にしたいラノベに大量の投票を入れるだけだ。何票入れればいい」
 現時点で必要なのは1万5千票だが…。
「一度に入れるのはスマートじゃない」金山が言った。「投票期間終了までの2週間をかけて、徐々にトップに躍り出るようにするんだ。自然に見せたい。『あおのさまよい』だけが妙な動きをするのもまずい。『あおのさまよい』前後の数作品についても、『あおのさまよい』よりは遅いスピードで2週間かけて上位に食い込ませたい。あと、今後2週間において1位に投票された票の10%が3位の作品に振り分けられるようにしてくれ。可哀相ではあるが、3位のヤツに容疑者になって貰う」
「…了解した」豊橋が言った。「1周追加してくれ。2周で終わらせる」
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