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そよよ
第2話
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中野の友人に連絡をとる事にした。彼に贈物の相談をする為ではない。どちらかというと、唯一、僕のタルパの存在を知っている彼に、今僕の身に起きている事を話しておきたかったのだ。
友人は、自宅でコーヒー豆を手挽きミルでゆっくりと挽きながら、僕の話に耳を傾けた。当然、有香の話や、彼女がタルパを持っている事も話した。彼は偏見や驚きなく、幾度となく僕の話に相槌を打っては、理解を示してくれた。
僕が言葉を切ると、友人は始め、有香はお前とどういう関係なのか、とか、お前のタルパを作るなんて余程だな、とか、囃すような素振りを見せた。が、急に冷静な表情を作ると、今、ミコのタルパは居るのか、と訊いて来た。僕は、家に置いて来た事を伝えた。尤も、彼女は出現したい時には勝手に出てくるだろうし、急に会話に割り込んで来たり、心の声に反応したりするんだろうけれど。友人は、ミコのタルパが、有香に対してなんらかの警告を示している事、それはどちらかというと、ミコ自身がルールに従って消失する事を恐れているというよりも、メンヘラの有香と僕が再び恋愛関係になる事で、僕自身の精神が有香に侵食され、立ち直れなくなる事を危惧しているのではないか、という事を言った。僕は、ああ、客観的な意見とはこういう物だ、と友人に相談して良かったと思った。僕は友人に、有香と自分が恋愛関係になる事で、逆に相互のタルパを消失し、メンヘラやらコミュ障に対するコンプレックスを解消、または受け入れられるのではないか、と話した。彼は、それも一理あるが、どのみちリスキーだ、と答えた。それから、ミコが警告を発するのは、お前が無意識に、有香と一緒になる事に恐れをなしているからだ、と付け加えた。僕は黙って首肯した。
友人がコーヒーを僕の前に置いてくれた。いい香りがした。
僕は自分が、自分のタルパと共に、一体何を成したいのかが、段々解らなくなってきていた。もともとは興味本位な所もあったけれど、コミュニケーションに関するコンプレックスを克服する事が一義としてあった筈だ。そして、タルパと別れる条件として設定したのが、コミュニケーションツールを諦める、つまり楽曲を作らなくなった時か、コミュニケーションコンプレックスをある程度克服する、つまりリアルの彼女が出来た場合か、に定めた。だから、この当初の考えに立ち返れば、僕が有香と恋愛関係になる事には躊躇う事はない筈だし、それに、同様のコンプレックスを抱き、タルパを生み出した彼女は、これ以上揃い様もない条件を満たしていると言える。それが、ともするとカタストロフへの道しるべともなり得る事への恐怖。
有香は、無関心が一番苦痛だと言った。今、有香に最も関心があるのは、彼女のタルパと、この僕だろう。だから、少なくとも表層の僕は、有香にもっと近づきたいと考えている。
友人は、コーヒーを音を立てて啜ると、口を開いた。そういえば、結局、ミコとのセックスは成立したのか。僕は苦笑いして、かぶりを振った。そして、挑戦しようとしたのは、一度だけである事、そのあと有香と出会ってから、ミコとは異性としてのなんらかの干渉はないし、ミコ自体も積極的ではない事を伝えた。友人は、そうか、と答えた。それから、セックスをしろ、とは言わないけれど、もう少し自分の無意識であるタルパと話し合ってみたらどうだ、と言った。話し合う…ねえ…。確かに、ミコと僕の関係において、互いにどんな事を考えているのか、とか、お互いどう思っているのか、といった事を、真剣に話し合った事はなかった。僕自身はタルパと共生しているので、半ば、というか、殆ど、一個の人物、生物としてミコの事を捉えて、その錯覚の中で生活しているが、客観的に見れば、ミコとの対話はつまり、僕の意識と無意識との対話なのだ。
友人は、自宅でコーヒー豆を手挽きミルでゆっくりと挽きながら、僕の話に耳を傾けた。当然、有香の話や、彼女がタルパを持っている事も話した。彼は偏見や驚きなく、幾度となく僕の話に相槌を打っては、理解を示してくれた。
僕が言葉を切ると、友人は始め、有香はお前とどういう関係なのか、とか、お前のタルパを作るなんて余程だな、とか、囃すような素振りを見せた。が、急に冷静な表情を作ると、今、ミコのタルパは居るのか、と訊いて来た。僕は、家に置いて来た事を伝えた。尤も、彼女は出現したい時には勝手に出てくるだろうし、急に会話に割り込んで来たり、心の声に反応したりするんだろうけれど。友人は、ミコのタルパが、有香に対してなんらかの警告を示している事、それはどちらかというと、ミコ自身がルールに従って消失する事を恐れているというよりも、メンヘラの有香と僕が再び恋愛関係になる事で、僕自身の精神が有香に侵食され、立ち直れなくなる事を危惧しているのではないか、という事を言った。僕は、ああ、客観的な意見とはこういう物だ、と友人に相談して良かったと思った。僕は友人に、有香と自分が恋愛関係になる事で、逆に相互のタルパを消失し、メンヘラやらコミュ障に対するコンプレックスを解消、または受け入れられるのではないか、と話した。彼は、それも一理あるが、どのみちリスキーだ、と答えた。それから、ミコが警告を発するのは、お前が無意識に、有香と一緒になる事に恐れをなしているからだ、と付け加えた。僕は黙って首肯した。
友人がコーヒーを僕の前に置いてくれた。いい香りがした。
僕は自分が、自分のタルパと共に、一体何を成したいのかが、段々解らなくなってきていた。もともとは興味本位な所もあったけれど、コミュニケーションに関するコンプレックスを克服する事が一義としてあった筈だ。そして、タルパと別れる条件として設定したのが、コミュニケーションツールを諦める、つまり楽曲を作らなくなった時か、コミュニケーションコンプレックスをある程度克服する、つまりリアルの彼女が出来た場合か、に定めた。だから、この当初の考えに立ち返れば、僕が有香と恋愛関係になる事には躊躇う事はない筈だし、それに、同様のコンプレックスを抱き、タルパを生み出した彼女は、これ以上揃い様もない条件を満たしていると言える。それが、ともするとカタストロフへの道しるべともなり得る事への恐怖。
有香は、無関心が一番苦痛だと言った。今、有香に最も関心があるのは、彼女のタルパと、この僕だろう。だから、少なくとも表層の僕は、有香にもっと近づきたいと考えている。
友人は、コーヒーを音を立てて啜ると、口を開いた。そういえば、結局、ミコとのセックスは成立したのか。僕は苦笑いして、かぶりを振った。そして、挑戦しようとしたのは、一度だけである事、そのあと有香と出会ってから、ミコとは異性としてのなんらかの干渉はないし、ミコ自体も積極的ではない事を伝えた。友人は、そうか、と答えた。それから、セックスをしろ、とは言わないけれど、もう少し自分の無意識であるタルパと話し合ってみたらどうだ、と言った。話し合う…ねえ…。確かに、ミコと僕の関係において、互いにどんな事を考えているのか、とか、お互いどう思っているのか、といった事を、真剣に話し合った事はなかった。僕自身はタルパと共生しているので、半ば、というか、殆ど、一個の人物、生物としてミコの事を捉えて、その錯覚の中で生活しているが、客観的に見れば、ミコとの対話はつまり、僕の意識と無意識との対話なのだ。
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